残酷な描写あり
R-15
隠しきれなかった
レンとサクラはグラウンドの端で他の生徒の戦闘を眺めていた。
レンは魔道具を作るようになりはじめてからクセがついた事がある。
それは他人の使う魔法の紋章を書き写すという事。
紋章魔法でしか魔法を発動する事ができないレンには戦闘のバリエーションを増やす唯一の手段だった。
もちろん全ての魔法を扱えるわけではなく、レンの相性に合った魔法を試行錯誤していた。
しかし、日々の実験や今回の戦闘でもあの時のような魔力を見せていない。
どれだけ身体に力を入れても、魔力を練り上げても、ヴォルフと対峙した時の迸る魔力は練られなかった。
――やっぱり特殊な条件の魔法……なのかな?そういえば……。
レンはリコと手を繋いだ事で魔力が昂ることを思い出した。
レンは視線を横に向けるとサクラの手が見え、握ってみた。
「えっ……!?」
「……」
突然手を握られたサクラはレンの行動に戸惑いつつ、必死に早まる鼓動を抑えようと試みる。
しかし、レンがサクラの指と指の間に自身の指を入れ込み、握るとサクラは爆発した。
もちろん物理的ではなく、感情的なものだが。
レンがやっているのは恋人繋ぎだ。
サクラはレンに対して絶賛片想い中であるため、サクラにとってラッキーなハプニングである。
段々とサクラの体温が上がり、肉球が火照り始める。
――て、手汗が……!?
サクラは多汗症ではないものの、肉球に汗腺がある特殊な個体だ。
自身の体液(汗)をレンに触れられるのは流石に恥ずかしくなり、もう片方の手を使って引き離した。
その事でレンはサクラの手を握っていたことに気がつき、深々と頭を下げる。
「ご、ごめんっ!」
「べ、別に嫌とは言ってないよ!?寧ろ――」
「オレ……あの時に何で魔力が昂ってたのか、どうして意図的にできないのか考えてて……。その……リコさんと手を繋いだことを思い出して……」
――あ、やっぱそうだよね……。このヒト、頭の中は魔法と魔道具と……リコちゃんの事しかないもんね……。なぁに期待してんだか……。
サクラは気がつかないうちに不貞腐れた表情をしてしまい、レンは慌てて宥めようとする。
レンは「勝手に手を繋いだことを怒っている」と思っているのに対し、サクラは「サクラ自身を見てくれないレンの行動」に不貞腐れているため、すれ違ってしまっていた。
未だに宥めようとするレンにムッとしてサクラは両肩を掴んで壁に押し付ける。
「ひえ」
思わぬ出来事でレンは情けない声が漏れてしまう。
思わず笑ってしまいそうになった表情を無理やり強張らせて怒っている演技をする。
「レンくん、アタシのこと恋人として見れないの?」
「こ、こ、恋人……!?さ、サクラさんにはオレなんかより相応しいヒトがいるよ……?」
「何でそう言い切れるのよ?」
――あぁ……訊くんじゃなかった……。こんなの、フラれたのも同然じゃん……。
「……オレ、リコさんのことが好きで……パートナーになりたいって……思ってるから……。サクラさんの気持ちに応えてあげられないオスだから……」
レンの言葉にサクラは文句を言わなかった。
本当は小言一つぐらい言ってやろうと思っていたが、見栄も虚勢も張らない、レンらしい言葉に大きくため息をついた。
――嘘は言わない。飾らないその性格が、アタシが惚れたところなんだけどね……。
「やっぱリコちゃんの事好きなのかぁ……。そうだと思ってたけどさ……」
「え……何でわかるの!?」
「だって、バレバレだもん!……もしかして隠してるつもりだった?」
レンはリコのことが好きなのをサクラにバレていると知り、困惑していると今朝のサムとの会話を思い出す。
『リコとパートナーになるってのはどうだ?』
サムにもバレていると知ったレンは恥ずかしくなって両手で顔を覆う。
レンの恋心は本人は隠しているつもりだったが、周知されていたことに顔から火が出そうなくらい、恥ずかしい思いをした。
そんなレンを見たサクラは、軽く頬にキスした。
「え……!?」
「何よ?ただの親愛の挨拶でしょ?それとも、アタシに靡いてくれた?違うでしょ?……リコちゃんは遠慮してるけど、レンくんのこと好きだよ。風の精霊を捕まえに行くまでにサクッとパートナーに申し込んじゃいなさいよ!」
「ちょ……!?」
「だーかーらーっ!風の精霊は今のリコちゃんとレンくんじゃ苦戦するよって言ってるの!ハウルくんで思い知ったでしょ?」
レンはハウルとの試合を思い出し、うまく退けたとはいえ、あのまま戦闘を続けたら確実に倒されていた。
実戦なら間違いなく死んでいるという事実に行き着く。
少しでも自身の実力を底上げするなら、リコとパートナー契約をするのが妥当である。
しかし、レンはリコを能力向上の道具にはしたくなかった。
そんな迷いをみせるレンに段々とサクラは苛立ち、無言で立ち上がる。
「婚約すればいいじゃないっ!大事ならずっと一緒にいてあげればいいじゃないっ!レンくんの意気地なしっ!おたんこなすっ!」
「さ、サクラさ……ん……!」
サクラはそう捨て台詞をレンに向かって吐き捨て、女子グループの輪に戻っていった。
一人、取り残されたレンはサクラの言葉を反芻していた。
――言いたいことはわかるけどさ……。
午後の授業の内容はほとんど頭に入らず、あっという間に放課後になる。
レンはゆっくりと部室に向かい歩いていくのだった。
レンは魔道具を作るようになりはじめてからクセがついた事がある。
それは他人の使う魔法の紋章を書き写すという事。
紋章魔法でしか魔法を発動する事ができないレンには戦闘のバリエーションを増やす唯一の手段だった。
もちろん全ての魔法を扱えるわけではなく、レンの相性に合った魔法を試行錯誤していた。
しかし、日々の実験や今回の戦闘でもあの時のような魔力を見せていない。
どれだけ身体に力を入れても、魔力を練り上げても、ヴォルフと対峙した時の迸る魔力は練られなかった。
――やっぱり特殊な条件の魔法……なのかな?そういえば……。
レンはリコと手を繋いだ事で魔力が昂ることを思い出した。
レンは視線を横に向けるとサクラの手が見え、握ってみた。
「えっ……!?」
「……」
突然手を握られたサクラはレンの行動に戸惑いつつ、必死に早まる鼓動を抑えようと試みる。
しかし、レンがサクラの指と指の間に自身の指を入れ込み、握るとサクラは爆発した。
もちろん物理的ではなく、感情的なものだが。
レンがやっているのは恋人繋ぎだ。
サクラはレンに対して絶賛片想い中であるため、サクラにとってラッキーなハプニングである。
段々とサクラの体温が上がり、肉球が火照り始める。
――て、手汗が……!?
サクラは多汗症ではないものの、肉球に汗腺がある特殊な個体だ。
自身の体液(汗)をレンに触れられるのは流石に恥ずかしくなり、もう片方の手を使って引き離した。
その事でレンはサクラの手を握っていたことに気がつき、深々と頭を下げる。
「ご、ごめんっ!」
「べ、別に嫌とは言ってないよ!?寧ろ――」
「オレ……あの時に何で魔力が昂ってたのか、どうして意図的にできないのか考えてて……。その……リコさんと手を繋いだことを思い出して……」
――あ、やっぱそうだよね……。このヒト、頭の中は魔法と魔道具と……リコちゃんの事しかないもんね……。なぁに期待してんだか……。
サクラは気がつかないうちに不貞腐れた表情をしてしまい、レンは慌てて宥めようとする。
レンは「勝手に手を繋いだことを怒っている」と思っているのに対し、サクラは「サクラ自身を見てくれないレンの行動」に不貞腐れているため、すれ違ってしまっていた。
未だに宥めようとするレンにムッとしてサクラは両肩を掴んで壁に押し付ける。
「ひえ」
思わぬ出来事でレンは情けない声が漏れてしまう。
思わず笑ってしまいそうになった表情を無理やり強張らせて怒っている演技をする。
「レンくん、アタシのこと恋人として見れないの?」
「こ、こ、恋人……!?さ、サクラさんにはオレなんかより相応しいヒトがいるよ……?」
「何でそう言い切れるのよ?」
――あぁ……訊くんじゃなかった……。こんなの、フラれたのも同然じゃん……。
「……オレ、リコさんのことが好きで……パートナーになりたいって……思ってるから……。サクラさんの気持ちに応えてあげられないオスだから……」
レンの言葉にサクラは文句を言わなかった。
本当は小言一つぐらい言ってやろうと思っていたが、見栄も虚勢も張らない、レンらしい言葉に大きくため息をついた。
――嘘は言わない。飾らないその性格が、アタシが惚れたところなんだけどね……。
「やっぱリコちゃんの事好きなのかぁ……。そうだと思ってたけどさ……」
「え……何でわかるの!?」
「だって、バレバレだもん!……もしかして隠してるつもりだった?」
レンはリコのことが好きなのをサクラにバレていると知り、困惑していると今朝のサムとの会話を思い出す。
『リコとパートナーになるってのはどうだ?』
サムにもバレていると知ったレンは恥ずかしくなって両手で顔を覆う。
レンの恋心は本人は隠しているつもりだったが、周知されていたことに顔から火が出そうなくらい、恥ずかしい思いをした。
そんなレンを見たサクラは、軽く頬にキスした。
「え……!?」
「何よ?ただの親愛の挨拶でしょ?それとも、アタシに靡いてくれた?違うでしょ?……リコちゃんは遠慮してるけど、レンくんのこと好きだよ。風の精霊を捕まえに行くまでにサクッとパートナーに申し込んじゃいなさいよ!」
「ちょ……!?」
「だーかーらーっ!風の精霊は今のリコちゃんとレンくんじゃ苦戦するよって言ってるの!ハウルくんで思い知ったでしょ?」
レンはハウルとの試合を思い出し、うまく退けたとはいえ、あのまま戦闘を続けたら確実に倒されていた。
実戦なら間違いなく死んでいるという事実に行き着く。
少しでも自身の実力を底上げするなら、リコとパートナー契約をするのが妥当である。
しかし、レンはリコを能力向上の道具にはしたくなかった。
そんな迷いをみせるレンに段々とサクラは苛立ち、無言で立ち上がる。
「婚約すればいいじゃないっ!大事ならずっと一緒にいてあげればいいじゃないっ!レンくんの意気地なしっ!おたんこなすっ!」
「さ、サクラさ……ん……!」
サクラはそう捨て台詞をレンに向かって吐き捨て、女子グループの輪に戻っていった。
一人、取り残されたレンはサクラの言葉を反芻していた。
――言いたいことはわかるけどさ……。
午後の授業の内容はほとんど頭に入らず、あっという間に放課後になる。
レンはゆっくりと部室に向かい歩いていくのだった。