残酷な描写あり
R-15
186 屋台
色々な屋台で様々な料理を買い、席へ何回か運んだ後ようやく昼食となった。
横に切ったパンの中にソーセージと揚げた芋や細かく刻んだ野菜が入っている料理。チーズの入ったもちもちとした食感の小さい丸いパン。甘いケーキのように見える肉の入った塩味のケーキ。薄い澱粉の生地にほぐした塩漬け肉と野菜が挟んである料理。干し鱈を潰して野菜などのみじん切りを混ぜて丸く揚げた料理が並んでいる。好きなものをそれぞれが選んで食べられるように買ってきた。
「ちょっと多すぎません?」
「男の子だから多いほうがいいかと思ったんだけど」
「まあ残ったらリューナが食うから大丈夫」
「うん! 食べる!」
セレインがリューナに料理の説明をして、興味を持った塩味のケーキから取ってやっていた。
「それで、フォスターは神衛見習いだから神殿の宿舎に泊まるんだろうけど、リューナとカイルはどこに泊まるか決めてるの?」
「水の都では特別扱いしてもらって、大神官の近くの隣部屋を二つ借りてたんですけど、今回はそういうわけにはいかないですよね……」
「身内扱いしてもらったもんね」
リューナが料理を笑顔で頬張りもぐもぐしながら相槌をうつ。
「リューナはあたしの部屋に泊まればいいよ」
「……お願いしようと思ってました」
「うん。悪人に狙われてるのと全盲だから介助が必要ってことで予め話は通してあるし。警備はしっかりしてるし大丈夫だよ。簡易ベッド入れてもらったからちょっと狭いけど」
しっかり根回しもしてくれたらしい。それを聞いてにこにこしながら料理を味わっていたリューナの顔が曇る。
「フォスターと離れちゃうの?」
「そうなるな」
「やだな……」
悲しそうな表情でリューナがそう言うとセレインが慰める。
「あたしがいるよ。それに建物は違うけど敷地内だからすぐ会えるし。神衛兵の訓練も部屋から見えるから、声も聞こえると思うよ」
「メシは一緒に食べるようにしような」
「……うん」
表情は曇ったままだが納得はしたようだ。
『本当に警備は大丈夫なんだろうな』
ビスタークが懸念を示した。
「親父が心配してる」
「あ、おじさんの霊がいるって聞いた! ホントなの?」
「本当ですよ。これ触ってください」
フォスターは鉢巻きを外して片方の端を渡した。
『ニア姉そっくりだな、お前』
「うわ、ホントに声聞こえる。それに初対面なのに不躾すぎる」
『初対面じゃねえよ』
「おじさんのこと殆ど覚えてないんだから初対面って言ってもいいでしょ」
いきなり喧嘩が始まりそうになった。
「ちょっとやめて。警備の話したいんだろ?」
『そうだ。俺は病院のほうに行ったことねえからわからんが、警備は神殿と同じなのか? どこから来たのかわからん患者がウロウロしてねえのか?』
「そんなわけないでしょ。学生が住んでるところまで患者は入ってこないよ」
『それならいいが……なんなら俺だけリューナについて行こうかと思ったんだが』
それを聞いてリューナが嫌悪感をあらわにした。
「え、お父さんだけ来るとかやだ」
「女の子の部屋に来るおっさんの霊とか変態じゃん……」
セレインがドン引きしている。
『は? そんなんじゃねえ! いざというときの警備のためだ!』
結局口喧嘩が始まってしまった。この二人は相性が悪いようである。
「お父さんは来なくていいけどフォスターは一緒にいて欲しいな……」
『それが無理だから言ってるんじゃねえか』
「俺も心配だけど、神殿と同じ警備なら大丈夫だよ」
「警備のことじゃなくて」
リューナは悲しそうに訴える。
「やっぱり部屋に引きこもってないとダメなんだよね? セレインさんも実習があるから私一人なんだよね? 一人なのさみしいし、みんながいる船でも暇だったから……」
「それは……ごめん。本ならたくさん借りてきてあげる。あとね」
セレインが手持ちの鞄の中から見覚えのある丸い透明な石を二つ取り出す。
「通信石買っておいたから、これでいつでも話せるよ。まあ訓練中は無理だけど、待ち合わせるときとか便利だと思って」
「あ、それなら俺も」
カイルも通信石を取り出した。
「錨神の町で買ったんだけど、使う機会が無かったから。みんなバラバラに泊まるんならあったほうがいいでしょ? 俺は訓練とか無いからさ、リューナとはいつでも話せるよ」
「うん……ありがと」
カイルの気遣いは嬉しいが引きこもることには変わりない。リューナな複雑な笑みを浮かべた。困ったフォスターは通信石の登録をしながら少し話題を逸らす。
「カイルはどこに泊まる気だ?」
「これから探すよ。もともと神殿は無理だろって思ってたし」
「それならさあ、台所ついてる宿にしてくれないか? 俺、いい加減料理したくて」
「えー? 狭い泊まれるだけの部屋にしようと思ってたんだけど。そういうところは少し高いだろ。天火作ってやったんだからそれで料理しなよ」
「あー……確かに。それなら部屋でも出来るな……」
フォスターとしては台所でしっかりと料理が作りたかったのだが、天火でも一部の料理は作れる。
「フォスター、お菓子作る?」
「……作るよ。作り置いた生地も焼かないと」
「やったあ!」
リューナの表情がお菓子で和らぎ少し元気が出た。
「それ私もおすそわけしてもらえるかな?」
セレインが意外なことを頼んできた。
「え? 別にいいですけど、都なら俺が作ったのより美味いのあるんじゃないですか」
「んー、そうじゃなくて……。なんていうか、手作りの味に飢えているというか……」
「おふくろの味に飢えてるってことです?」
カイルがつっこんだ。
「まあ……そんな感じかな」
「誰がおふくろだよ」
「だって、フォスターってお母さん力高いから……」
「せめてお父さんだろ!」
くだらないやり取りをした後、カイルが提案した。
「何なら天火、もう一個作ろうか? 資材集めなきゃならないから少し時間かかるけど。そしたらリューナも部屋で作れるよ」
「あ……それいいかも……。暇つぶしにもなるし、おやつも出来る!」
「いいな、それ。材料はあらかじめこっちで計って渡せばいいし、作り方は紙に書けば言文石で読めるもんな」
「そうする! カイル、お願いします」
「うん。任せといて!」
カイルは頼られて嬉しいのか誇らしげに笑顔で引き受けた。
「そういえば、あなたたち仲直りしたのね」
「あ、はい」
「そうなんです」
「……良かったね」
何か思うところがあったのか、セレインは普段見せない優しい眼差しで二人にそう言った。カイルの祖母が亡くなり二人の仲たがいしたところを見ていたのでずっと気にしていたのだろう。
「心配かけてたんですね……すみません」
「聴いてもらえたって聞いたよ」
「まあ、事故に近かったですけど。もっと上手くなってから聴いて欲しかったし」
「でも、私は、うれしかったよ……」
リューナが恥ずかしそうにそう言われ、カイルは喜びを隠しきれないという表情になる。それを見たセレインがにやにやしている。
「ふふーん。ほんとに良かったねー、カイル」
セレインもカイルの想いに気付いているようだ。カイルが赤くなっている。リューナが全然意に介していないのが気の毒である。
「セレインさんは知ってたんだね」
「そりゃうちで練習してたから。リューナにはバレないように気を遣ってたもんね」
「俺にも隠してたのか?」
「フォスターにバレたらリューナにバレたも同然だし……お前隠し事苦手だろ」
「まあ……うん」
「今も何か隠してるような気がするんだよなー」
「わかる! 何か隠してるよね!」
カイルとリューナに指摘され、フォスターの表情に焦りが浮かぶ。その瞬間、全く知らない声がかかった。
「あれー? セレインちゃんじゃん! 外にいるの珍しー」
その声を聞いた途端、セレインの眉間に皺が寄ったが、フォスターはその声に助けられた。
横に切ったパンの中にソーセージと揚げた芋や細かく刻んだ野菜が入っている料理。チーズの入ったもちもちとした食感の小さい丸いパン。甘いケーキのように見える肉の入った塩味のケーキ。薄い澱粉の生地にほぐした塩漬け肉と野菜が挟んである料理。干し鱈を潰して野菜などのみじん切りを混ぜて丸く揚げた料理が並んでいる。好きなものをそれぞれが選んで食べられるように買ってきた。
「ちょっと多すぎません?」
「男の子だから多いほうがいいかと思ったんだけど」
「まあ残ったらリューナが食うから大丈夫」
「うん! 食べる!」
セレインがリューナに料理の説明をして、興味を持った塩味のケーキから取ってやっていた。
「それで、フォスターは神衛見習いだから神殿の宿舎に泊まるんだろうけど、リューナとカイルはどこに泊まるか決めてるの?」
「水の都では特別扱いしてもらって、大神官の近くの隣部屋を二つ借りてたんですけど、今回はそういうわけにはいかないですよね……」
「身内扱いしてもらったもんね」
リューナが料理を笑顔で頬張りもぐもぐしながら相槌をうつ。
「リューナはあたしの部屋に泊まればいいよ」
「……お願いしようと思ってました」
「うん。悪人に狙われてるのと全盲だから介助が必要ってことで予め話は通してあるし。警備はしっかりしてるし大丈夫だよ。簡易ベッド入れてもらったからちょっと狭いけど」
しっかり根回しもしてくれたらしい。それを聞いてにこにこしながら料理を味わっていたリューナの顔が曇る。
「フォスターと離れちゃうの?」
「そうなるな」
「やだな……」
悲しそうな表情でリューナがそう言うとセレインが慰める。
「あたしがいるよ。それに建物は違うけど敷地内だからすぐ会えるし。神衛兵の訓練も部屋から見えるから、声も聞こえると思うよ」
「メシは一緒に食べるようにしような」
「……うん」
表情は曇ったままだが納得はしたようだ。
『本当に警備は大丈夫なんだろうな』
ビスタークが懸念を示した。
「親父が心配してる」
「あ、おじさんの霊がいるって聞いた! ホントなの?」
「本当ですよ。これ触ってください」
フォスターは鉢巻きを外して片方の端を渡した。
『ニア姉そっくりだな、お前』
「うわ、ホントに声聞こえる。それに初対面なのに不躾すぎる」
『初対面じゃねえよ』
「おじさんのこと殆ど覚えてないんだから初対面って言ってもいいでしょ」
いきなり喧嘩が始まりそうになった。
「ちょっとやめて。警備の話したいんだろ?」
『そうだ。俺は病院のほうに行ったことねえからわからんが、警備は神殿と同じなのか? どこから来たのかわからん患者がウロウロしてねえのか?』
「そんなわけないでしょ。学生が住んでるところまで患者は入ってこないよ」
『それならいいが……なんなら俺だけリューナについて行こうかと思ったんだが』
それを聞いてリューナが嫌悪感をあらわにした。
「え、お父さんだけ来るとかやだ」
「女の子の部屋に来るおっさんの霊とか変態じゃん……」
セレインがドン引きしている。
『は? そんなんじゃねえ! いざというときの警備のためだ!』
結局口喧嘩が始まってしまった。この二人は相性が悪いようである。
「お父さんは来なくていいけどフォスターは一緒にいて欲しいな……」
『それが無理だから言ってるんじゃねえか』
「俺も心配だけど、神殿と同じ警備なら大丈夫だよ」
「警備のことじゃなくて」
リューナは悲しそうに訴える。
「やっぱり部屋に引きこもってないとダメなんだよね? セレインさんも実習があるから私一人なんだよね? 一人なのさみしいし、みんながいる船でも暇だったから……」
「それは……ごめん。本ならたくさん借りてきてあげる。あとね」
セレインが手持ちの鞄の中から見覚えのある丸い透明な石を二つ取り出す。
「通信石買っておいたから、これでいつでも話せるよ。まあ訓練中は無理だけど、待ち合わせるときとか便利だと思って」
「あ、それなら俺も」
カイルも通信石を取り出した。
「錨神の町で買ったんだけど、使う機会が無かったから。みんなバラバラに泊まるんならあったほうがいいでしょ? 俺は訓練とか無いからさ、リューナとはいつでも話せるよ」
「うん……ありがと」
カイルの気遣いは嬉しいが引きこもることには変わりない。リューナな複雑な笑みを浮かべた。困ったフォスターは通信石の登録をしながら少し話題を逸らす。
「カイルはどこに泊まる気だ?」
「これから探すよ。もともと神殿は無理だろって思ってたし」
「それならさあ、台所ついてる宿にしてくれないか? 俺、いい加減料理したくて」
「えー? 狭い泊まれるだけの部屋にしようと思ってたんだけど。そういうところは少し高いだろ。天火作ってやったんだからそれで料理しなよ」
「あー……確かに。それなら部屋でも出来るな……」
フォスターとしては台所でしっかりと料理が作りたかったのだが、天火でも一部の料理は作れる。
「フォスター、お菓子作る?」
「……作るよ。作り置いた生地も焼かないと」
「やったあ!」
リューナの表情がお菓子で和らぎ少し元気が出た。
「それ私もおすそわけしてもらえるかな?」
セレインが意外なことを頼んできた。
「え? 別にいいですけど、都なら俺が作ったのより美味いのあるんじゃないですか」
「んー、そうじゃなくて……。なんていうか、手作りの味に飢えているというか……」
「おふくろの味に飢えてるってことです?」
カイルがつっこんだ。
「まあ……そんな感じかな」
「誰がおふくろだよ」
「だって、フォスターってお母さん力高いから……」
「せめてお父さんだろ!」
くだらないやり取りをした後、カイルが提案した。
「何なら天火、もう一個作ろうか? 資材集めなきゃならないから少し時間かかるけど。そしたらリューナも部屋で作れるよ」
「あ……それいいかも……。暇つぶしにもなるし、おやつも出来る!」
「いいな、それ。材料はあらかじめこっちで計って渡せばいいし、作り方は紙に書けば言文石で読めるもんな」
「そうする! カイル、お願いします」
「うん。任せといて!」
カイルは頼られて嬉しいのか誇らしげに笑顔で引き受けた。
「そういえば、あなたたち仲直りしたのね」
「あ、はい」
「そうなんです」
「……良かったね」
何か思うところがあったのか、セレインは普段見せない優しい眼差しで二人にそう言った。カイルの祖母が亡くなり二人の仲たがいしたところを見ていたのでずっと気にしていたのだろう。
「心配かけてたんですね……すみません」
「聴いてもらえたって聞いたよ」
「まあ、事故に近かったですけど。もっと上手くなってから聴いて欲しかったし」
「でも、私は、うれしかったよ……」
リューナが恥ずかしそうにそう言われ、カイルは喜びを隠しきれないという表情になる。それを見たセレインがにやにやしている。
「ふふーん。ほんとに良かったねー、カイル」
セレインもカイルの想いに気付いているようだ。カイルが赤くなっている。リューナが全然意に介していないのが気の毒である。
「セレインさんは知ってたんだね」
「そりゃうちで練習してたから。リューナにはバレないように気を遣ってたもんね」
「俺にも隠してたのか?」
「フォスターにバレたらリューナにバレたも同然だし……お前隠し事苦手だろ」
「まあ……うん」
「今も何か隠してるような気がするんだよなー」
「わかる! 何か隠してるよね!」
カイルとリューナに指摘され、フォスターの表情に焦りが浮かぶ。その瞬間、全く知らない声がかかった。
「あれー? セレインちゃんじゃん! 外にいるの珍しー」
その声を聞いた途端、セレインの眉間に皺が寄ったが、フォスターはその声に助けられた。