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作者: 結城貴美
残酷な描写あり R-15
189 喋
 そろそろリューナから連絡が来ているのではないかと思い、フォスターは石袋から通信石タルカイトを取り出した。石はチカチカと光っている。

「やっぱり」
「リューナちゃんからー?」
「ですね」

 通信石タルカイトに触れると連絡してきた相手の顔がうっすら映る。リューナだった。

「連絡しないの?」
「どうせ大した用事じゃないので。それに、いる時に出来ない話をしておきたいし」
「そーだねー。じゃあ何を話すー?」
「んーと、まず、どこまで聞いてます?」

 双子への聞き取りの結果、リジェンダから今までのことは全部聞いていることがわかった。それなら構わないか、と考え普通に相談することにした。

「ここですることはザイステルっていう医者の家を調べることかなー?」
「破壊神の大神官らしき輝星石ソウライトの反応はここじゃなかったんだね?」
「はい。輝星石ソウライトの反応はおそらく炎の都フィルバルネス方面じゃないかって。で、医者の家はここの神衛かのえが調べてて普通には入れないだろうから、リューナを連れてどうやって行こうかと思ってるとこで」
「じゃあ輝星石ソウライトの反応は後回しだね」
「医者の家は大神官に僕たちから直談判しておこうかー?」
「出来るのなら」
「会えればねー」
「だからすぐには無理かもしれないよ。向こうは忙しいからね」

 それは百も承知である。当然だろうと頷いた。当面の生活や神衛兵の訓練もある。それをしながら機会を待つしかない。

「そういえば、大神官になるための勉強とかしないんです?」
「してるよー」
「今日は受けようとしてた講義が休講になったから予定が空いてただけ」
「大神官直々の講義もあるんだよー。それがなかなかねー、予定通りに行かなくってー」

 水の大神官リジェンダのように都合をつけてくれるほうが珍しいのである。

「二人のどっちかが水の大神官になるのか……」
「僕はならないよ。ファイスがなるから」
「えっ」

 予想していなかった言葉に驚いた。

「やだよー。テレクがやってよー」
「僕は他にやりたい事あるし」
「そうなんだ。何をです?」
「医療に興味があって。万一のことがあるといけないから大神官になれるようにはしておくけど、なるつもりは全く無いんだ」
「そーゆー立派なこと言われると押し付けにくいよねー」

 ファイスールが戯ける。

「うちの都は周りが砂漠ってこともあって、呼吸器疾患の人が多いんだよ。薬で良くなることが多くて、それをここで学びたいんだよね」
「テレクにとって大神官の試験はついでなんだよねー」
「『ついで』が大ごとすぎる……」

 そういえばセレインはテレクエルに対しては邪険にしていない。医療関係の話をすることで少し打ち解けているのかもしれない。

「あ、そうだ。幽霊が一緒だって聞いてるんだけど」
「ああ、はい。親父のことですね」
『こいつらも俺で遊ぶ気じゃねえだろうな……』

 ビスタークの警戒心は無視して鉢巻きを外し双子へ片方の端を渡す。フォスターがビスタークと話していても独り言が多いと突っ込まれなかったのは存在を知っていたからだ。

「遊ぶなんて、そんな」
「ちょっと興味があるだけだよー」
「動物にも取り憑けるらしいですね?」
『嫌な予感しかしねえ!』
「虫はどうかなー?」
『は!? 虫ぃ!?』
「流石に虫は小さすぎて巻けないですよ」

 父を不憫に思ったわけではないが、現実問題として小さい虫に鉢巻きを装着することなど出来ないだろうと諭す。

『その通りだ! お前良いこと言う!』
「……必死だな」
「んー、実用性は考えて無くってー、単に知りたいだけっていうかー」
「知的好奇心ってやつかな」
「蜜とか塗って外に置いとけばー、蟻とか蝿とか来ると思うんだよねー」
「そうそう。それで、虫が乗った瞬間に取り憑いてその鉢巻きだっけ、その上だけで行動するとかさ」
『意味ねえ!』
「それ身につけるの俺……。ベトベトになりそうで嫌だ」

 洗浄石クレアイトで綺麗に出来るとしても蝿や蟻が集った時点で気分的にとても嫌である。

「ビスタークさーん、そう言わずにさー」
「助けると思って、頼みます!」
『こいつら母親そっくりだな!』

 そうビスタークが叫んだ直後、フォスターは身体を強制的に乗っ取られた。ビスタークはフォスターの身体を使い、鉢巻きを双子の手から強引に取り上げ額に巻いた。

「……余程のことが無い限りやらないって言ってなかったか……」
『今がその時だったろ!』
「今の、ビスタークさんがフォスターに取り憑いてたのー?」
「無理矢理だったよね?」
「……これやられると、すごい疲れるからやめて欲しい……」
『悪い。でもこうするしか無かったんだよ! こいつらのせいだからな!』
「大丈夫ー?」
「少し休んだら」

 具合の悪そうなフォスターを見て気を遣ったのか休むよう促されるが断った。

「いや、そこまででは……」

 少し慣れてしまったのか、忘却神の町フォルゲスのとき程ではなかった。

「そうー? じゃあ、例の盾に触ってもいいー?」
「ああ、はい。ちょっと待って……」

 鎧の手首の格納石ストライトに仕舞ってあるので触れて取り出す。

「ちょっとファイス。具合悪い人に今言うことじゃないだろ」
「ごめーん。でも気になってしょーがないからさー」
「いいですよ別に。これをこうして組み立てて……」

 そう言いながら盾を変形させ、乗って浮いてみせた。

「おおー!」
「いいね!」

 双子の母リジェンダや大叔父のマイヤーフと同じような興奮具合である。部屋の中なので浮くだけで走れないのが悔しそうであった。

「都の外ならいけるか……?」
「結婚式のときに飛翔神の町リフェイオスに行くからその時に乗せてもらおーよ」

 双子はコーシェルの結婚式に来るつもりである。はとこという親戚なので来てもおかしくは無いが、水の大神官が三世代で来るとなると大神官ソレムは頭を抱えそうだなと思った。

「これって、さっき別れたカイルくんが作ったんだよね?」
「そうです」
「泊まるとこはわかったしー、次の休みに遊びに行ってみよーかなー」
「あー、あいつ珍しいもの目当てに外に出歩きそうなんで、連絡してからのほうがいいかも」
「彼とは通信石タルカイトの登録してないな」
「俺の石に登録すれば話せるようになるかな」
「カイルくん登録されてるー?」
「はい」
「じゃあいけるね」

 早速テレクエルが出した通信石タルカイトをくっつけて登録すると、途端にまた通信石タルカイトが光り始めた。誰かが通信しようとしている合図である。

「リューナだろうな……」

 疲労している中で通信するのは億劫だったが、今出ないと何度もしつこく連絡してきそうなので応対することにした。

「はい」
「フォスター、やっと出てくれたー!」

 予想通りリューナだった。

「手続きとか色々あるからすぐ連絡出来ないって言ったろ」
「そうだけど、話せないと不安なんだもん……」

 横からセレインがにゅっと顔を出した。

「取り敢えず警備は大丈夫よ。女性神衛が巡回してくれてるから」

 そう言った後表情が歪む。

「なんで双子もそこにいるの?」
「いえーい」
「やあ」
「なんか成り行きで……」
「いいじゃんー。僕ら仲良くなったのー」
「そうそう、友達だから」
「……」

 別に嫌ではなかったが、急に友達扱いされ戸惑った。

「僕たちも通信石タルカイト登録させてもらったからー」
「えー……」

 セレインは嫌そうにしている。

「ごはん一緒に食べる約束したじゃーん!」
「そんな約束したかしら」
「したよねー、リューナちゃん! わー、かつら外したんだね! もっと可愛くなってるー!」
「…………」

 通信石タルカイトに映し出されたリューナは泣きそうな顔をしていた。

「……私、フォスターとしゃべりたい……」

 悲しそうにリューナが訴えるとファイスールとセレインは勢いを失った。

「……ごめんねー、どうぞー」
「リューナ、ごめんなさい。そうだよね、フォスターとしゃべりたかったんだもんね」
「うん……」

 セレインはリューナの頭を軽く撫でながら子どもをあやすように謝った。

「はいはい、俺だよ。じゃあ何話す?」
「あのね、そっちに私の荷物一緒に入ってるでしょ」
「あ、そうだった」

 着替えや櫛、洗浄石クレアイトなどの日常で使う物は全部フォスターの格納石ストライトに入っている。生活的に結構大事な話であった。大した用事では無いと決めつけていたことを反省する。

「じゃあ、夜の食事のときに渡すよ。お前の着替えの袋と洗浄石クレアイトがあればいいか?」
「うん。口浄石ソーマイトは貸してもらうし、シャワーはお風呂にあったから大丈夫」
「わかった。ごめんな、すぐに連絡返さなくて」

 セレインがまた割り込んできた。

「リューナはホントにフォスターのこと好きよね」
「うん! 大好き!」
「……はいはい」

 普段から言われ慣れているものの、他人の前で堂々と言われるのは反応に困る。通信が終わって双子から破壊神に懐かれたお兄さんという扱いをうけ、何だか恥ずかしかった。
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