残酷な描写あり
R-15
188 阿諛
泊まる宿の前でカイルとは別れ、神殿まで馬車で移動した。歩くには遠い距離なのでファイスールが気を回したのだ。
「女の子にはきつい距離かなーって思ったし」
「行きは歩きでちょっと疲れてたから、助かったかも。……ありがと」
「うんうん。いつもそう素直ならいいのにー」
「ひと言多い!」
フォスターが呟く。
「流石にこの人数で盾には乗れないしな」
「目立っちゃうしね」
それを聞いた双子が食い付いた。
「それー! 母さんから聞いて、気になってるんだー」
「そういえば兄さんとウォルシフもそんなこと言ってたな」
「人目につかない場所があるなら乗せてあげられますけど……」
「そんな場所あるかなー?」
「うちの母さんだったら喜んで場所貸してくれるけどね」
「ここの大神官はお硬いからねー」
水の大神官の場合は公私混同というのではとフォスターは思った。しかしそのおかげで水の都では配慮してもらえたことを思い出し、それは口に出さなかった。
「命の大神官はやっぱり厳しい人なんですか?」
「あたしは神官じゃないからよく知らない」
「うーん、厳しいというか、真面目」
「冗談が通じないよねー」
「まあ、世代がね。大叔父さんくらいの年齢だし」
テレクエルの言う大叔父とは、水の前大神官のことである。
「もう次の大神官は決まってるんだけど、なかなか引退しないんだってー」
「挨拶でもしとけば? 水の都ほどではなくてもリューナへの配慮はしてもらったんだし」
セレインにそう言われフォスターが呟く。
「……挨拶する機会なんてあるんですかね?」
「うーん、どうだろうねー」
「母さんからも話がいってるはずだけど」
「そもそも、そう簡単に会えるものです?」
「ま、機会があれば、でいいんじゃない?」
「僕らのほうが会う機会あるから、お世話になりますって言ってましたよーって言っておくよー」
「ありがとうございます」
フォスターが礼を言うとファイスールは困ったように笑みを浮かべる。
「敬語やめようよー」
「君も硬いから、もしかしたら大神官と気が合うかもしれないね」
「そうでしょうか……」
「ほらほらー、敬語ー」
「すみません、まだ慣れないので……慣れればタメ口になると思います」
「そういえばあたしにも敬語よね。兄さんやウォルシフには普通なのに」
「……」
その指摘になんと答えればいいかフォスターが考えていると、ファイスールに横から入り込まれた。
「怖いからじゃないのー?」
「は?」
見事に言い当てられてしまい、セレインの機嫌を損ねてしまった。今はファイスールのほうを睨んでいるが、その目が自分へ向けられると困る。
「ほらー、そーゆーのが怖がられるんだよー」
「う……」
「あんまり怒ってばっかりだと、せっかくのキレイな顔が台無しになっちゃうから、やめたほうがいいよー」
「なっ……!」
セレインは顔を赤くして黙ってしまった。ファイスールはそれを見てにこにこしている。
「照れちゃって、可愛いー」
「と、年上をからかわないの!」
「そうだよ、ファイス。その言い方じゃ冗談っぽく聞こえる。セレインさんは綺麗なんだから怒った顔しないほうがいいって真面目に伝えないと」
「なっ…………」
テレクエルの言葉でセレインの顔が更に真っ赤になった。とどめを刺された感じである。どうやらテレクエルは真面目に見えるがただの天然らしい。本人としては素直な意見を言ったようであるが、家族以外に褒められ慣れていないセレインには衝撃が大きかった。耳まで赤くなり押し黙っている。
それまで黙って会話を聞いていたリューナがフォスターの袖をちょいちょいと引っ張った。
「ん?」
「この二人、ちょっと変わってるよね」
小声で耳打ちされた。
神殿の入り口で馬車から降りた。リューナとセレインとはここで別れる。セレインはあれから双子に褒め殺しの目にあい、撃沈して黙ったままだった。
「寂しいからお部屋着いたらすぐ連絡するからね!」
「手続きとか色々あるだろうから、そんなにすぐは話せないと思うぞ」
リューナが離れる不安から駄々をこね始めた。
「連絡があったらわかるんでしょ? だったら話せる状況になったらすぐ石使ってね」
「はいはい」
「えっと……セレインさん、大丈夫?」
恥ずかしさから顔を赤くしたまま黙っているセレインにリューナが手を触れて話しかける。
「だ、大丈夫、行きましょ!」
それで正気を取り戻したのか虚勢を張ったように応えた。
「ええと、夕飯はあたしたちと一緒に食べるんだったね。連絡するから!」
「また後でね、フォスター。絶対だよ!」
リューナは後ろ髪を引かれながらセレインと一緒に医療部の宿舎へと入って行った。それを見送った双子からこれからの話をされる。
「さてと。それじゃあ、女の子たちはいなくなったし、フォスターにはお話聞かせてもらおうかなー」
「取り敢えず宿舎の手続きして。その部屋で静寂石使えば外に声は漏れないから」
「は、はい」
双子に言われるまま神殿で巡礼の手続きをし、三人で移動しフォスターの部屋へ入った。フォスターが鎧を外したり荷物を出したりしている間にテレクエルが静寂石を取り出して起動させ部屋の机に置いた。
「神の子っていうからどんな子なのかと思ってたけど、めっちゃ可愛いだけで思ってたよりずっと普通の女の子だったねー」
「でも人間の可愛い女の子よりずっと惹きつけられる感じはしたな」
「やっぱりリジェンダさんから聞いてたんですね……」
予想していた通り、双子は母である水の大神官から話を聞いていた。その話をするためにフォスターの部屋まで入ってきたのだ。
「うん。通信石でねー」
「僕たちは二週間くらい前にここに来たんだけど、そのときに母さんから君たちのことを聞いてね」
「俺にも二人のこと教えてくれたっていいのに……と思ったけど、水の都から地元に戻った後だったから知らされなかったのかな」
「黙って双子に会わせたら面白そうって母さんが思ってただけじゃないのー?」
「多分そうだね」
「ありそう……」
段々慣れてきたのでフォスターの言葉遣いがくだけてきた。敬語とタメ口が交じる。
「セレインちゃんはリューナちゃんが神の子って知らないんだよねー?」
「あ、はい。地元に戻ったら教えるんだとか」
「隠し事、バレなくて良かったねー」
そう言われハッとした。リューナとカイルに詰め寄られたときだった。この双子から声がかかったのは。あれはわざとだったのだ。
「もしかして、ずっと監視してた、とか?」
「監視ってほどしゃないよー」
「セレインさん、あまり街中出ないから。珍しく出かけるのを見かけて、もしかして今日の船で着くのかなと思って見守ってただけだよ」
「そしたら君たちが来たから、読みが当たったーって思って近づいたら丁度困ってたみたいだから声かけたんだー」
「あれは助かりました……。俺、嘘つくの苦手なんで……」
「そうみたいだねー」
「さっきも困ってたでしょ」
セレインに何故敬語で話すのか、と言われたことである。
「……言い当てられたときは、なんてことしてくれたんだって思いました」
「うまくごまかせたでしょー。でもウソはついてないしー」
「ホント、あの性格で結構本人損してると思うんだよね」
「気を張り詰めすぎなんだよねー」
「セレインさんは人にも厳しいですけど自分にも厳しいんですよね、昔から」
「子どものときからあんな感じなのー?」
「はい。俺も色々言われてました」
「そっかー」
ファイスールとテレクエルはお互いに目で合図してから笑顔で言い放つ。
「じゃあ、もっと息抜きしなきゃねー」
「食事とかちょくちょくお邪魔させてもらうよ」
リジェンダといい、この双子といい、何を考えているのかいまいちわからないが頼りにはなりそうだった。あの親にしてこの子ありである。何か悪巧みをしていそうな気がしたが、本当に悪いことではないだろうとは思ったのでフォスターは軽く頷いておいた。
「女の子にはきつい距離かなーって思ったし」
「行きは歩きでちょっと疲れてたから、助かったかも。……ありがと」
「うんうん。いつもそう素直ならいいのにー」
「ひと言多い!」
フォスターが呟く。
「流石にこの人数で盾には乗れないしな」
「目立っちゃうしね」
それを聞いた双子が食い付いた。
「それー! 母さんから聞いて、気になってるんだー」
「そういえば兄さんとウォルシフもそんなこと言ってたな」
「人目につかない場所があるなら乗せてあげられますけど……」
「そんな場所あるかなー?」
「うちの母さんだったら喜んで場所貸してくれるけどね」
「ここの大神官はお硬いからねー」
水の大神官の場合は公私混同というのではとフォスターは思った。しかしそのおかげで水の都では配慮してもらえたことを思い出し、それは口に出さなかった。
「命の大神官はやっぱり厳しい人なんですか?」
「あたしは神官じゃないからよく知らない」
「うーん、厳しいというか、真面目」
「冗談が通じないよねー」
「まあ、世代がね。大叔父さんくらいの年齢だし」
テレクエルの言う大叔父とは、水の前大神官のことである。
「もう次の大神官は決まってるんだけど、なかなか引退しないんだってー」
「挨拶でもしとけば? 水の都ほどではなくてもリューナへの配慮はしてもらったんだし」
セレインにそう言われフォスターが呟く。
「……挨拶する機会なんてあるんですかね?」
「うーん、どうだろうねー」
「母さんからも話がいってるはずだけど」
「そもそも、そう簡単に会えるものです?」
「ま、機会があれば、でいいんじゃない?」
「僕らのほうが会う機会あるから、お世話になりますって言ってましたよーって言っておくよー」
「ありがとうございます」
フォスターが礼を言うとファイスールは困ったように笑みを浮かべる。
「敬語やめようよー」
「君も硬いから、もしかしたら大神官と気が合うかもしれないね」
「そうでしょうか……」
「ほらほらー、敬語ー」
「すみません、まだ慣れないので……慣れればタメ口になると思います」
「そういえばあたしにも敬語よね。兄さんやウォルシフには普通なのに」
「……」
その指摘になんと答えればいいかフォスターが考えていると、ファイスールに横から入り込まれた。
「怖いからじゃないのー?」
「は?」
見事に言い当てられてしまい、セレインの機嫌を損ねてしまった。今はファイスールのほうを睨んでいるが、その目が自分へ向けられると困る。
「ほらー、そーゆーのが怖がられるんだよー」
「う……」
「あんまり怒ってばっかりだと、せっかくのキレイな顔が台無しになっちゃうから、やめたほうがいいよー」
「なっ……!」
セレインは顔を赤くして黙ってしまった。ファイスールはそれを見てにこにこしている。
「照れちゃって、可愛いー」
「と、年上をからかわないの!」
「そうだよ、ファイス。その言い方じゃ冗談っぽく聞こえる。セレインさんは綺麗なんだから怒った顔しないほうがいいって真面目に伝えないと」
「なっ…………」
テレクエルの言葉でセレインの顔が更に真っ赤になった。とどめを刺された感じである。どうやらテレクエルは真面目に見えるがただの天然らしい。本人としては素直な意見を言ったようであるが、家族以外に褒められ慣れていないセレインには衝撃が大きかった。耳まで赤くなり押し黙っている。
それまで黙って会話を聞いていたリューナがフォスターの袖をちょいちょいと引っ張った。
「ん?」
「この二人、ちょっと変わってるよね」
小声で耳打ちされた。
神殿の入り口で馬車から降りた。リューナとセレインとはここで別れる。セレインはあれから双子に褒め殺しの目にあい、撃沈して黙ったままだった。
「寂しいからお部屋着いたらすぐ連絡するからね!」
「手続きとか色々あるだろうから、そんなにすぐは話せないと思うぞ」
リューナが離れる不安から駄々をこね始めた。
「連絡があったらわかるんでしょ? だったら話せる状況になったらすぐ石使ってね」
「はいはい」
「えっと……セレインさん、大丈夫?」
恥ずかしさから顔を赤くしたまま黙っているセレインにリューナが手を触れて話しかける。
「だ、大丈夫、行きましょ!」
それで正気を取り戻したのか虚勢を張ったように応えた。
「ええと、夕飯はあたしたちと一緒に食べるんだったね。連絡するから!」
「また後でね、フォスター。絶対だよ!」
リューナは後ろ髪を引かれながらセレインと一緒に医療部の宿舎へと入って行った。それを見送った双子からこれからの話をされる。
「さてと。それじゃあ、女の子たちはいなくなったし、フォスターにはお話聞かせてもらおうかなー」
「取り敢えず宿舎の手続きして。その部屋で静寂石使えば外に声は漏れないから」
「は、はい」
双子に言われるまま神殿で巡礼の手続きをし、三人で移動しフォスターの部屋へ入った。フォスターが鎧を外したり荷物を出したりしている間にテレクエルが静寂石を取り出して起動させ部屋の机に置いた。
「神の子っていうからどんな子なのかと思ってたけど、めっちゃ可愛いだけで思ってたよりずっと普通の女の子だったねー」
「でも人間の可愛い女の子よりずっと惹きつけられる感じはしたな」
「やっぱりリジェンダさんから聞いてたんですね……」
予想していた通り、双子は母である水の大神官から話を聞いていた。その話をするためにフォスターの部屋まで入ってきたのだ。
「うん。通信石でねー」
「僕たちは二週間くらい前にここに来たんだけど、そのときに母さんから君たちのことを聞いてね」
「俺にも二人のこと教えてくれたっていいのに……と思ったけど、水の都から地元に戻った後だったから知らされなかったのかな」
「黙って双子に会わせたら面白そうって母さんが思ってただけじゃないのー?」
「多分そうだね」
「ありそう……」
段々慣れてきたのでフォスターの言葉遣いがくだけてきた。敬語とタメ口が交じる。
「セレインちゃんはリューナちゃんが神の子って知らないんだよねー?」
「あ、はい。地元に戻ったら教えるんだとか」
「隠し事、バレなくて良かったねー」
そう言われハッとした。リューナとカイルに詰め寄られたときだった。この双子から声がかかったのは。あれはわざとだったのだ。
「もしかして、ずっと監視してた、とか?」
「監視ってほどしゃないよー」
「セレインさん、あまり街中出ないから。珍しく出かけるのを見かけて、もしかして今日の船で着くのかなと思って見守ってただけだよ」
「そしたら君たちが来たから、読みが当たったーって思って近づいたら丁度困ってたみたいだから声かけたんだー」
「あれは助かりました……。俺、嘘つくの苦手なんで……」
「そうみたいだねー」
「さっきも困ってたでしょ」
セレインに何故敬語で話すのか、と言われたことである。
「……言い当てられたときは、なんてことしてくれたんだって思いました」
「うまくごまかせたでしょー。でもウソはついてないしー」
「ホント、あの性格で結構本人損してると思うんだよね」
「気を張り詰めすぎなんだよねー」
「セレインさんは人にも厳しいですけど自分にも厳しいんですよね、昔から」
「子どものときからあんな感じなのー?」
「はい。俺も色々言われてました」
「そっかー」
ファイスールとテレクエルはお互いに目で合図してから笑顔で言い放つ。
「じゃあ、もっと息抜きしなきゃねー」
「食事とかちょくちょくお邪魔させてもらうよ」
リジェンダといい、この双子といい、何を考えているのかいまいちわからないが頼りにはなりそうだった。あの親にしてこの子ありである。何か悪巧みをしていそうな気がしたが、本当に悪いことではないだろうとは思ったのでフォスターは軽く頷いておいた。