残酷な描写あり
R-15
195 病院食
夕食時。フォスターとリューナの二人はまたカイルの見舞いに来ていた。後からファイスールとテレクエルの双子も来ると通信石で言っていた。
病室に入るとカイルはセレインと共にいた。そばには食事が置かれている。野菜を細かく潰してある赤い色のクリームスープだ。
「カイル、食べてないの?」
「……みんながくるの、待ってたんだ……」
「寝たままだと食べにくいから、上半身起こしてあげたいんだけど……。それには拘束解かないとならないから、いざというときのために人手があったほうがいいんだよね」
暴れるかもしれないから取り押さえる人間が複数必要だということである。
「でもあんまり食べたくないんだよね……」
「食欲無くてもしっかり食べないと元気になれないよ。頑張りなさい!」
セレインに叱咤されたところで扉を叩く音が聞こえた。ファイスールとテレクエルの双子だった。
「こんばんはー」
「調子はどう?」
「今からごはん食べさせるとこ。丁度良かった。暴れたときのために横に立っててくれる?」
「いいよー」
そんなに暴れるものなのだろうかと疑問に思いながらフォスターはセレインの反対側に立った。座っているリューナを除く皆は四隅に立ち、セレインとフォスターは手の拘束を外す。カイルは特に問題なく上半身を起こした。
「はい。カイル、あーん」
リューナは目が見えないのでカイルの正確な口の位置がわからない。大体の場所に差し出し、カイルが食いつくのを待つ。
食欲は無いのだが好きな女の子に食べさせてもらえる嬉しさのほうが上回り、カイルはスプーンを口に入れた。噛まないで飲み込めるスープにもかかわらず、たった一匙の量を長いこと咀嚼してなんとか飲み込んだ。
「……ありがとう。もういいや……」
そう言ったとたん、咳き込み始めた。今食べたものを吐き出すかのように。
「だ、大丈夫?」
リューナが心配して背中をさすろうとしたがセレインに止められる。
「多分暴れる前兆だから手を出さないほうがいいよ」
「え……」
カイルが呻き始めた。
「あれが……あのクッキーが、食べたい……!」
ベッドから降りようとしたが足は拘束されたままなので、ベッドから上半身が落ちかけたところを男性陣に掴まれる。そのままフォスターが羽交い締めにした。
そのとたん、大声でカイルが叫んだ。何を言っているのか聞き取れない。そしてフォスターを振りほどこうと凄い力で上半身を左右に振り回す。
突然だったためフォスターは動揺し体勢を崩したがすぐに立て直し、必死に力を入れカイルを抑える。普段のカイルからは考えられない程の凄い力だった。ファイスールとテレクエルの双子は手をそれぞれ掴んだ。セレインはカイルからリューナを遠ざけている。
「カイル! 負けるなって言ったろ! リューナの前でそんなみっともないとこ晒していいのか!?」
フォスターが羽交い締めにしながらカイルの耳元で叱った。フォスターからは見えなかったが、カイルは呻きながらリューナを一瞥して少し大人しくなった。
「……………………ごめん……」
「謝らなくていい。『薬』のせいなんだから」
「そうだよ。だから『薬』に負けないためにもしっかり食べて体力つけないと」
フォスターとセレインが諭す。
「リューナ、また食べさせてあげてくれる?」
「うん」
リューナはまたスプーンを差し出した。
「カイル、頑張って食べようね」
心配そうにそう言ったリューナを見て少し嬉しそうにした後、カイルは気合いを入れるかのように深呼吸してスプーンを口に入れた。そしてまた同じように長く咀嚼してから飲み込んだ。
「うう……」
また暴れるかもしれないためフォスターは羽交い締めの体勢を取る。しかし今回は呻きながらも必死に耐えたようだった。
「食欲石って無いのー?」
「『薬』の患者に使うのはダメなんだって。祈るときに理力を使うのが良くないって、講義で言ってた」
「ファイスは知らなかったか」
「『薬』って理力が無くなっていくから、さらに使うようなことはしないほうがいいんだって。その疲れを誤魔化すためにまた『薬』に手を出しちゃう」
セレインは勿論、テレクエルも医療を学んでいるので「例の薬」について詳しい。ファイスールは知らなかったようだ。もちろんフォスターとリューナもその辺の知識は無い。
「じゃあカイル、頑張って食べようね」
「……」
カイルのため息を聞いたリューナが悲しそうな顔をする。
「こんなに美味しそうな匂いしてるのに……」
――ぐうぅ……。
沈黙した部屋の中でリューナの腹の音が響いた。途端に顔が真っ赤になる。
「……晩メシまだだったからな」
フォスターが取り繕う。船でも同じようなことがあったなと思い出し、カイルも笑ってそれに続く。
「じゃあさ……そのスープ、リューナが食べて……」
「えっ、ダメだよ。カイルが食べないと意味無いよ」
「リューナが、美味しそうに食べてるの見るとさ……こっちも食べたくなるんだよね……」
「あー、確かにそうかも」
カイルの言葉にセレインが同意した。
「そうだねー。リューナちゃん、美味しそうに食べるから、カイルも食欲出るかもー」
「つられて食べたくなるよね」
双子も同意した。
「えっと……」
「んー、みんながそう言うなら食べたら」
「美味しそうに食べてるとこ見せてあげよう!」
リューナがどうしようか悩んでいたのでフォスターとセレインが後押しした。
「じゃあ、いただきます……。カイル、食べたくなったらすぐにあげるからね」
「うん」
カイルは少し微笑んでリューナを見つめる。そのリューナは少し匂いを嗅いだあと、食べ物を前に抑えきれない笑顔を浮かべスプーンを口に入れた。
「んー……美味しい〜……」
空腹だった胃に温かいスープがじんわりと沁みていく。神の子でもそこは変わりないらしい。リューナはすぐに次の一匙を口にした。
「あたしもお腹空いてきちゃったな」
「僕もー」
「見舞い終わったらすぐ食堂行こう」
セレインと双子も空腹を刺激されたようである。
「カイルは食べる気になったか?」
「……そうだね……。ちょっと美味しそうだなって……思った……」
弱々しくも前向きな返事が返ってきた。
「やったあ! じゃあ……はい、どうぞ。あーん!」
リューナはカイルの言葉にほっとした様子でスプーンを差し出した。カイルは少しにやけながら食い付いた。念願の間接キスである。今回は少しの間味わった後、直ぐに飲み込んだ。咳き込むこともなかった。
「うん、美味しい……。ちょっと、食欲、出てきたかも……」
「良かった! じゃあもっと食べて!」
少し元気が出てきたのか、その後カイルはリューナから何度も食べさせてもらい、ついには完食した。
「すごい。全部食べるとは思わなかった。回復してきたのかな?」
「こんなに急に食欲回復した症例あったっけ?」
「わかんないけど、良かったじゃんー」
セレインとテレクエルは不思議そうだったが、ファイスールは素直に回復を喜んでいる。フォスターは恋の力かな、と思っていた。
「お腹満たされたら……眠くなってきたなあ……」
「そうね。栄養もとれたし、眠って回復しなさい」
セレインがカイルを寝かせ、また腕の拘束をし始めた。
「その調子ならすぐ拘束しなくて良くなるかもね」
「うん……頑張って回復につとめるよ……」
カイルはリューナを見て微笑んだ。
「リューナのおかげで、元気出たよ……。ありがとう……」
「うん! 役に立ててよかった! しっかり眠ってね」
「うん……ありがとう」
カイルは目を瞑った。
「あたしも仕事終わりの時間だし、お腹も空いたからもう行くね」
「じゃあまた来るよ。頑張れよ」
「またねー」
カイルは薄目をあけて頷き、また目を閉じた。
病室に入るとカイルはセレインと共にいた。そばには食事が置かれている。野菜を細かく潰してある赤い色のクリームスープだ。
「カイル、食べてないの?」
「……みんながくるの、待ってたんだ……」
「寝たままだと食べにくいから、上半身起こしてあげたいんだけど……。それには拘束解かないとならないから、いざというときのために人手があったほうがいいんだよね」
暴れるかもしれないから取り押さえる人間が複数必要だということである。
「でもあんまり食べたくないんだよね……」
「食欲無くてもしっかり食べないと元気になれないよ。頑張りなさい!」
セレインに叱咤されたところで扉を叩く音が聞こえた。ファイスールとテレクエルの双子だった。
「こんばんはー」
「調子はどう?」
「今からごはん食べさせるとこ。丁度良かった。暴れたときのために横に立っててくれる?」
「いいよー」
そんなに暴れるものなのだろうかと疑問に思いながらフォスターはセレインの反対側に立った。座っているリューナを除く皆は四隅に立ち、セレインとフォスターは手の拘束を外す。カイルは特に問題なく上半身を起こした。
「はい。カイル、あーん」
リューナは目が見えないのでカイルの正確な口の位置がわからない。大体の場所に差し出し、カイルが食いつくのを待つ。
食欲は無いのだが好きな女の子に食べさせてもらえる嬉しさのほうが上回り、カイルはスプーンを口に入れた。噛まないで飲み込めるスープにもかかわらず、たった一匙の量を長いこと咀嚼してなんとか飲み込んだ。
「……ありがとう。もういいや……」
そう言ったとたん、咳き込み始めた。今食べたものを吐き出すかのように。
「だ、大丈夫?」
リューナが心配して背中をさすろうとしたがセレインに止められる。
「多分暴れる前兆だから手を出さないほうがいいよ」
「え……」
カイルが呻き始めた。
「あれが……あのクッキーが、食べたい……!」
ベッドから降りようとしたが足は拘束されたままなので、ベッドから上半身が落ちかけたところを男性陣に掴まれる。そのままフォスターが羽交い締めにした。
そのとたん、大声でカイルが叫んだ。何を言っているのか聞き取れない。そしてフォスターを振りほどこうと凄い力で上半身を左右に振り回す。
突然だったためフォスターは動揺し体勢を崩したがすぐに立て直し、必死に力を入れカイルを抑える。普段のカイルからは考えられない程の凄い力だった。ファイスールとテレクエルの双子は手をそれぞれ掴んだ。セレインはカイルからリューナを遠ざけている。
「カイル! 負けるなって言ったろ! リューナの前でそんなみっともないとこ晒していいのか!?」
フォスターが羽交い締めにしながらカイルの耳元で叱った。フォスターからは見えなかったが、カイルは呻きながらリューナを一瞥して少し大人しくなった。
「……………………ごめん……」
「謝らなくていい。『薬』のせいなんだから」
「そうだよ。だから『薬』に負けないためにもしっかり食べて体力つけないと」
フォスターとセレインが諭す。
「リューナ、また食べさせてあげてくれる?」
「うん」
リューナはまたスプーンを差し出した。
「カイル、頑張って食べようね」
心配そうにそう言ったリューナを見て少し嬉しそうにした後、カイルは気合いを入れるかのように深呼吸してスプーンを口に入れた。そしてまた同じように長く咀嚼してから飲み込んだ。
「うう……」
また暴れるかもしれないためフォスターは羽交い締めの体勢を取る。しかし今回は呻きながらも必死に耐えたようだった。
「食欲石って無いのー?」
「『薬』の患者に使うのはダメなんだって。祈るときに理力を使うのが良くないって、講義で言ってた」
「ファイスは知らなかったか」
「『薬』って理力が無くなっていくから、さらに使うようなことはしないほうがいいんだって。その疲れを誤魔化すためにまた『薬』に手を出しちゃう」
セレインは勿論、テレクエルも医療を学んでいるので「例の薬」について詳しい。ファイスールは知らなかったようだ。もちろんフォスターとリューナもその辺の知識は無い。
「じゃあカイル、頑張って食べようね」
「……」
カイルのため息を聞いたリューナが悲しそうな顔をする。
「こんなに美味しそうな匂いしてるのに……」
――ぐうぅ……。
沈黙した部屋の中でリューナの腹の音が響いた。途端に顔が真っ赤になる。
「……晩メシまだだったからな」
フォスターが取り繕う。船でも同じようなことがあったなと思い出し、カイルも笑ってそれに続く。
「じゃあさ……そのスープ、リューナが食べて……」
「えっ、ダメだよ。カイルが食べないと意味無いよ」
「リューナが、美味しそうに食べてるの見るとさ……こっちも食べたくなるんだよね……」
「あー、確かにそうかも」
カイルの言葉にセレインが同意した。
「そうだねー。リューナちゃん、美味しそうに食べるから、カイルも食欲出るかもー」
「つられて食べたくなるよね」
双子も同意した。
「えっと……」
「んー、みんながそう言うなら食べたら」
「美味しそうに食べてるとこ見せてあげよう!」
リューナがどうしようか悩んでいたのでフォスターとセレインが後押しした。
「じゃあ、いただきます……。カイル、食べたくなったらすぐにあげるからね」
「うん」
カイルは少し微笑んでリューナを見つめる。そのリューナは少し匂いを嗅いだあと、食べ物を前に抑えきれない笑顔を浮かべスプーンを口に入れた。
「んー……美味しい〜……」
空腹だった胃に温かいスープがじんわりと沁みていく。神の子でもそこは変わりないらしい。リューナはすぐに次の一匙を口にした。
「あたしもお腹空いてきちゃったな」
「僕もー」
「見舞い終わったらすぐ食堂行こう」
セレインと双子も空腹を刺激されたようである。
「カイルは食べる気になったか?」
「……そうだね……。ちょっと美味しそうだなって……思った……」
弱々しくも前向きな返事が返ってきた。
「やったあ! じゃあ……はい、どうぞ。あーん!」
リューナはカイルの言葉にほっとした様子でスプーンを差し出した。カイルは少しにやけながら食い付いた。念願の間接キスである。今回は少しの間味わった後、直ぐに飲み込んだ。咳き込むこともなかった。
「うん、美味しい……。ちょっと、食欲、出てきたかも……」
「良かった! じゃあもっと食べて!」
少し元気が出てきたのか、その後カイルはリューナから何度も食べさせてもらい、ついには完食した。
「すごい。全部食べるとは思わなかった。回復してきたのかな?」
「こんなに急に食欲回復した症例あったっけ?」
「わかんないけど、良かったじゃんー」
セレインとテレクエルは不思議そうだったが、ファイスールは素直に回復を喜んでいる。フォスターは恋の力かな、と思っていた。
「お腹満たされたら……眠くなってきたなあ……」
「そうね。栄養もとれたし、眠って回復しなさい」
セレインがカイルを寝かせ、また腕の拘束をし始めた。
「その調子ならすぐ拘束しなくて良くなるかもね」
「うん……頑張って回復につとめるよ……」
カイルはリューナを見て微笑んだ。
「リューナのおかげで、元気出たよ……。ありがとう……」
「うん! 役に立ててよかった! しっかり眠ってね」
「うん……ありがとう」
カイルは目を瞑った。
「あたしも仕事終わりの時間だし、お腹も空いたからもう行くね」
「じゃあまた来るよ。頑張れよ」
「またねー」
カイルは薄目をあけて頷き、また目を閉じた。