入団希望
書類選考も面接もありません。
城壁都市と外界を固く隔てる門が開き、人々が往来するあたらしい日常がはじまった。
はじめて門をくぐった時。その次にくぐった時。そして今。それぞれ違う門扉に見送られ、その旅にフラーの異なる姿を見せつけられる。
「ここはフラー初期の建造物が多い。原初の姿と言えば良いか」
真上からそんな重低音が響いた。道案内役のドラちんと共にエスコート役を買って出てくれたはいいものの、そのサイズ感のせいで町並みをじっくり見渡すことができない。
というモンクはこころの中にしまって、テノールボイスと金属鎧のカチャカチャサウンドに挟まれつつ舗装された道を進んでいく。
砂で整地された地面であって石畳でもコンクリートでもない。なだらかな斜面になっており、車ならもっと楽に進めるのにとふしぎな思いに包まれたところ、先を行く魔法少女が忙しなく動いていた両足を止めた。
で、振り向く。すこし顔が赤くなってる。
(やっぱ強がってるよねぇ)
歩調的な意味で。わたしとあんずちゃんがとん、とん、とんくらいのペースだとして、ブッちゃんはゆっくりどん――どん――どんってかんじ。身長が高いと歩調も長いのいいなぁ。
じゃあまったりおめめのツンツン少女は? 音速ハリネズミの如く高速回転してたのだ。
(ん、なんだっけそれ?)
たしか、だれかが好きだったゲームの……あれ?
「ここが旅団本部よ」
記憶をたどり寄せる前に帽子が、いや、その下にのぞく顔というか口から声が響いた。
その帽子のツバをもち上げこちらに表情を見せる。もくもくと空を多い始めた塊のおかげで、今はドロちんの髪色をそのまま目に映すことができる。
うっすらと黄金に光る髪がのぞく、とてもキレイなものだった。
「この時間なら旅団長もいるだろうか?」
ダークネス僧侶の質問にブロンド魔女っ子が我知らずな顔で答える。
「さぁ? あの人旅団長らしくないから」
「今も実務は別の者がやっているのか?」
「ウチに聞かないでよ」
戸に手を掛ける。木造の板張り? みたいな建造物でところどころに古さを感じる。
家畜用の納屋をめっちゃ豪華にリノベーションしたみたいな? 柱と柱の間に木の板をミッチリ敷き詰めてくタイプ。たまに窓。一見シンプルなつくり見えて頑丈そうなのはなんでだろう?
見た目の古さに違わず、その扉はキィィと高い鳴き声をあげわたしたちを歓迎してくれた。
「たのもう」
丁寧どころか古風なごあいさつのブッちゃんに対し、ドロちんは無言で入場する。じゃあ初見さんのおふたりはどうしますか?
「こんにちはー」
内開きの戸に手をかけ顔をのぞかせてみる。予想通り床も壁も何もかも木製だ。茶色を中心とした色合いがなんとも言えない安心感を感じさせてくれる。
古き良きバー的な印象。バーテンダーがいそうなところに受け付けさんがいて、エリアにはいくつかの丸テーブルのみととてもシンプル。
「ほう、珍しい。そちらから来るとは」
仕切りの向こう側でヒジを付いていた男がこちらをひと目見てそうつぶやく。その視線は真っ先に屋内へ侵入した少女に向かっていた。
「旅団に何の用かな? ドロシー」
「仕事の報告よ。はいこれ」
言って、少女は腰にくくりつけていたポシェットから錠剤を取り出した。
「なんだ、それならいつも通りこちらから受け取りに行くのに」
見たところ若い。かといって同い年ではなさそう。成人したてくらいかな?
おとこの人にしてはやや長い髪をしてる。手入れしてなさそうなボサボサヘアーだ。
でもあの人はいい人だ。だって表裏のないいい笑顔だもん。
「ついでよ。本題はこっち」
「ん?」
男性がドロちんの口調と動きでこちらに気づく。とたんに笑顔が消えてこちらを吟味するモードに入ったらしい。そんな彼の目の動きをみて、この旅団はホンモノだと悟る。
(まじ?)
一瞬で暗器の場所がバレたんだけど?
「……カチコミかい?」
「バカ言わないで。入団希望者よ」
「へぇ」
続けて、彼の視線はとなりの甲冑服に向かう。その視線をたどると、どうやら素材と丈夫さを見極めているらしい。
背中の大剣を確認して、彼は考えるように目を閉じ、また開いた。
怖いくらいに優しい目をしていた。
「そちらの甲冑服のお嬢さんはよくわからないけど、そっちの子はすごいね」
「わたし?」
「その身体にどれだけ詰め込んでるんだい? それにボクの視線追ってたでしょ」
「えへ、バレてた?」
ついでにいつでも引き出せる準備しといたんだけどぉ、それも多分バレてるね。
(だって仕方ないじゃん?)
警戒心どころか敵意まで感じちゃったんだもん。
(戦闘狂の類じゃなくてオジサンタイプっていうか、なんていうの?)
平和主義者だけど手ぇ出すんなら容赦しないぜみたいな?
少しでも殺意見せたらジ・エンド的な?
(むむぅ、やはり糸目キャラは実力者揃いか)
「ま、ドロシーの仲間ならその腕前も納得だね」
「仲間じゃないわ。案内を頼まれたから連れてきただけよ」
「そうかい」
言葉のついでに、彼は受け付けの見えないところに手を伸ばしている。その手が顕になったとき、そこにはニ枚の紙がつままれていた。
「異世界人なら誰でも大歓迎。それが我が旅団のポリシーさ」
「我がってことは、アナタが団長さんですの?」
「いや、ボクじゃないよ」
ふと首を方向け視線を逸らすも、彼はすぐさまこちらに向き直り件の紙を差し出した。
「入団の申請書だよ。はいコレ使ってね」
続けてペンを手渡される。甲冑を脱いで対応するあんずちゃん。寝てる間以外はずっとその格好だったせいか、彼女の腕はすこし汗ばんでいるように感じた。
「我らはここを異世界と呼び、異世界人は我らを異世界人と呼ぶ。世界の記憶は遠い彼方へと消え失せ、我らは行くべき道も、その道を照らす光すらも失ってしまった。ならば、せめて我らは手を繋ごう。絆を重ねよう」
彼は両手を広げ歓迎の意を示した。
「ようこそ、旅団コンクルージョンへ」
はじめて門をくぐった時。その次にくぐった時。そして今。それぞれ違う門扉に見送られ、その旅にフラーの異なる姿を見せつけられる。
「ここはフラー初期の建造物が多い。原初の姿と言えば良いか」
真上からそんな重低音が響いた。道案内役のドラちんと共にエスコート役を買って出てくれたはいいものの、そのサイズ感のせいで町並みをじっくり見渡すことができない。
というモンクはこころの中にしまって、テノールボイスと金属鎧のカチャカチャサウンドに挟まれつつ舗装された道を進んでいく。
砂で整地された地面であって石畳でもコンクリートでもない。なだらかな斜面になっており、車ならもっと楽に進めるのにとふしぎな思いに包まれたところ、先を行く魔法少女が忙しなく動いていた両足を止めた。
で、振り向く。すこし顔が赤くなってる。
(やっぱ強がってるよねぇ)
歩調的な意味で。わたしとあんずちゃんがとん、とん、とんくらいのペースだとして、ブッちゃんはゆっくりどん――どん――どんってかんじ。身長が高いと歩調も長いのいいなぁ。
じゃあまったりおめめのツンツン少女は? 音速ハリネズミの如く高速回転してたのだ。
(ん、なんだっけそれ?)
たしか、だれかが好きだったゲームの……あれ?
「ここが旅団本部よ」
記憶をたどり寄せる前に帽子が、いや、その下にのぞく顔というか口から声が響いた。
その帽子のツバをもち上げこちらに表情を見せる。もくもくと空を多い始めた塊のおかげで、今はドロちんの髪色をそのまま目に映すことができる。
うっすらと黄金に光る髪がのぞく、とてもキレイなものだった。
「この時間なら旅団長もいるだろうか?」
ダークネス僧侶の質問にブロンド魔女っ子が我知らずな顔で答える。
「さぁ? あの人旅団長らしくないから」
「今も実務は別の者がやっているのか?」
「ウチに聞かないでよ」
戸に手を掛ける。木造の板張り? みたいな建造物でところどころに古さを感じる。
家畜用の納屋をめっちゃ豪華にリノベーションしたみたいな? 柱と柱の間に木の板をミッチリ敷き詰めてくタイプ。たまに窓。一見シンプルなつくり見えて頑丈そうなのはなんでだろう?
見た目の古さに違わず、その扉はキィィと高い鳴き声をあげわたしたちを歓迎してくれた。
「たのもう」
丁寧どころか古風なごあいさつのブッちゃんに対し、ドロちんは無言で入場する。じゃあ初見さんのおふたりはどうしますか?
「こんにちはー」
内開きの戸に手をかけ顔をのぞかせてみる。予想通り床も壁も何もかも木製だ。茶色を中心とした色合いがなんとも言えない安心感を感じさせてくれる。
古き良きバー的な印象。バーテンダーがいそうなところに受け付けさんがいて、エリアにはいくつかの丸テーブルのみととてもシンプル。
「ほう、珍しい。そちらから来るとは」
仕切りの向こう側でヒジを付いていた男がこちらをひと目見てそうつぶやく。その視線は真っ先に屋内へ侵入した少女に向かっていた。
「旅団に何の用かな? ドロシー」
「仕事の報告よ。はいこれ」
言って、少女は腰にくくりつけていたポシェットから錠剤を取り出した。
「なんだ、それならいつも通りこちらから受け取りに行くのに」
見たところ若い。かといって同い年ではなさそう。成人したてくらいかな?
おとこの人にしてはやや長い髪をしてる。手入れしてなさそうなボサボサヘアーだ。
でもあの人はいい人だ。だって表裏のないいい笑顔だもん。
「ついでよ。本題はこっち」
「ん?」
男性がドロちんの口調と動きでこちらに気づく。とたんに笑顔が消えてこちらを吟味するモードに入ったらしい。そんな彼の目の動きをみて、この旅団はホンモノだと悟る。
(まじ?)
一瞬で暗器の場所がバレたんだけど?
「……カチコミかい?」
「バカ言わないで。入団希望者よ」
「へぇ」
続けて、彼の視線はとなりの甲冑服に向かう。その視線をたどると、どうやら素材と丈夫さを見極めているらしい。
背中の大剣を確認して、彼は考えるように目を閉じ、また開いた。
怖いくらいに優しい目をしていた。
「そちらの甲冑服のお嬢さんはよくわからないけど、そっちの子はすごいね」
「わたし?」
「その身体にどれだけ詰め込んでるんだい? それにボクの視線追ってたでしょ」
「えへ、バレてた?」
ついでにいつでも引き出せる準備しといたんだけどぉ、それも多分バレてるね。
(だって仕方ないじゃん?)
警戒心どころか敵意まで感じちゃったんだもん。
(戦闘狂の類じゃなくてオジサンタイプっていうか、なんていうの?)
平和主義者だけど手ぇ出すんなら容赦しないぜみたいな?
少しでも殺意見せたらジ・エンド的な?
(むむぅ、やはり糸目キャラは実力者揃いか)
「ま、ドロシーの仲間ならその腕前も納得だね」
「仲間じゃないわ。案内を頼まれたから連れてきただけよ」
「そうかい」
言葉のついでに、彼は受け付けの見えないところに手を伸ばしている。その手が顕になったとき、そこにはニ枚の紙がつままれていた。
「異世界人なら誰でも大歓迎。それが我が旅団のポリシーさ」
「我がってことは、アナタが団長さんですの?」
「いや、ボクじゃないよ」
ふと首を方向け視線を逸らすも、彼はすぐさまこちらに向き直り件の紙を差し出した。
「入団の申請書だよ。はいコレ使ってね」
続けてペンを手渡される。甲冑を脱いで対応するあんずちゃん。寝てる間以外はずっとその格好だったせいか、彼女の腕はすこし汗ばんでいるように感じた。
「我らはここを異世界と呼び、異世界人は我らを異世界人と呼ぶ。世界の記憶は遠い彼方へと消え失せ、我らは行くべき道も、その道を照らす光すらも失ってしまった。ならば、せめて我らは手を繋ごう。絆を重ねよう」
彼は両手を広げ歓迎の意を示した。
「ようこそ、旅団コンクルージョンへ」