雑貨屋って雑貨を売るものだよね?
この世界にとって武器魔導書鎧樹脂までなんでもかんでも雑貨なんだよきっと
「ここはただの雑貨屋だ。適当に見繕って、欲しいものがあったらここに置いてくれ」
店主のおっちゃんは小瓶を預かってトントンとテーブルをたたいた。
「今日は買い物じゃないわ。さっさと帰って読書のつづきしたいから」
「あぁそうだドロシー。アンタにうってつけの本があるぜ」
そういってカウンターから跳び出した鍛冶屋風味のオヤジは、さっきまでドロちんが読みふけってた本コーナーへと足をすすめる。
彼はその一番上の棚。ロリっこ魔法少女の手では届かないどころか視線にすら入らないような高所に手を伸ばし、一冊の古びた本を取り出した。
「ッ! あんたそれ!」
「ああ、表紙だけで気づくのか? 高名な魔道士が一生をかけて記したってシロモノらしいが」
「どうしてそんなトコロに置いとくのよ! イチバン下に置きなさいよね!」
と理不尽な叫びとともにブツをひっ攫う。んでざっくりページを開き中身を確認しはじめた。
「レプリカと同じ、ううんより詳細に理論が記されてる……間違いない本物だわ!」
「少し前にワケありっぽい魔術師がやってきてな? 匿うのを条件にそいつをくれたんだ。価値がわかるヤツにはわかるってよ」
「こんな貴重な本を手放したのッ!」
ロリちんは飛び跳ねた。鍛冶屋もどきは肩をすくめた。
「そいつの価値は知らねーが、約束通り匿ってやったぜ? 後からやってきた物騒な連中相手によ」
(いったいどんなドラマが繰り広げられてたんだろう?)
もっと話を聞きたい衝動にかられつつ、こんどは甲冑系少女が騒がしくも軽い金属音を打ち鳴らしぴょんぴょん跳ねております。
「こ、これは、これはブレナム産の獣脂では!?」
「お目が高いなアンタ。まさに、それは獣脂の名産ブレナムから仕入れた獣脂だ」
おやっさんの言葉に、甲冑服に身を包んだ少女は顔をぱぁっとさせた。ぱぁっと。
「ねえねえあんずちゃん。それってスゴイの?」
「それはもう!」
「うおぉ」
すっげー迫ってきた。兜脱いでるけど甲冑だから威圧感すげえ。
「ブレナム産の獣脂といえばアイン・マラハどころかクー・タオ全土でも質の良い獣脂が取れますのよ!」
「質の良いって、獣の油なんだからどこでもいっしょじゃない?」
「ぜんっぜん違いますの! 材料となる牛の育て方や環境がそれらを左右するのですわ!」
(おうおう迫るな迫るな狭いから)
このお店圧縮陳列なんだよ。っていうかあんずちゃん異世界歴短いのにベテランみたいな発言するなぁ。
迫るカチャカチャに足を引いてるところ、その後ろでひゅぅと若干かすった口笛を吹くおっちゃんがいた。
「詳しいな。その金属鎧のツヤが保たれる理由がわかったよ」
「そうでして? けっこう手間がいるのですよ」
見せつけるように自らの身体を示すあんずちゃん。まるでサっちゃんが肉体美を披露するときのようだ。
(まあヘンなポーズしてるわけじゃないけど)
「ちょっと、さっさとこの本譲りなさいよ! こんな店に置いといたって価値がわかるヤツなんかいないんだから」
うしろではドロちんが低い位置から主張する。前方ではハリツヤコシ三拍子揃った金属鎧の少女が脂が詰まった缶詰を欲しがって迫りくる。
両手に花かな? まあでも店主には女っ気が微塵もないようで、商売人モードの顔をつくって指でまるをつくった。
「いいぜ、金さえ出せばな」
値段交渉が始まった。わたしはとくにめぼしいアイテムもないし、食べ物はさっき隠し持ってたパンをもしゃもしゃした。
言うて何かすることもなく、ふらふらと店内を歩き回ってみる。ほどなくしてまっくろい壁にぶち当たった。
「ブッちゃんなにしてるの?」
「瞑想だ」
(こんなところで?)
しかも立ってるし。
「瞑想とは心の鍛錬だ。場所に関わらず姿勢すら問題ではない」
「こころを読まれた!」
「だが、ふむ……」
僧侶のまぶたが開き棚の一画を見渡している。そこには普段使いのナイフから刺突に特化したもの、切るタイプ、そして毒を塗りつけ相手の肌を傷つけるためのモノまで取り揃えられている。
「ただの雑貨屋、と言うには説得力に欠けるな」
「なんでも売買するのがモットーでね」
値段交渉を終えたのか、やりきった顔のおっちゃんが生えっぱなしでボッサボサヒゲを弄りつつやってきた。
ちなみにこっちの黒い僧侶はツルツルである。で、ハチマキ装備した店主がこっちに視線を向けた。
「アンタはこいつが得物なんだろ? 顔にそう書いてあるぜ」
「少しはたしなんでおります!」
少しどころかメインウェポン。とくにシンプルな投擲用ナイフがすきです。
(ロープにつなぐといろいろ便利だよ!)
「どうだい? なんかめぼしいもん見つかったか?」
尋ねられ、いまいちど刃物コーナーに目を通してみる。
あれ、持ってる。これ、持ってる。あ、良さそうなのある……アカン全財産がなくなってまう。
「うーん、今は間に合ってるかな」
ってことで今回の買い物イベントはパスしました。もうちょい仕事してお金稼いでから出直してきます。
その様子を見守ってた僧侶が諸行無常を憂う僧侶的なため息を漏らした。
「物騒なものだ。対人用の武器まで揃えるとは」
「護身用さ」
(どーてみもバトル用なのですが)
「リクエストがありゃ坊さんもいいもの見繕ってやるぜ?」
「不要だ。グレース、拙者は外で待つ」
「じゃあいっしょに行くよ」
静かに踵を返す背中を追ってわたしも走り出した。狭い店内にいるより、外で背伸びしてたほうがこころにもからだにも良さそうです。
(ついでにおさんぽしよーっと)
結局ドロちんは追加で本を何冊か買い、あんずちゃんも油引きを新調することにしたらしい。
方や目的のブツを得られてほくほく笑顔。もう片方もお金が手にはいってまったり笑顔。これぞウィンウィンだね!
「またいつでもおいでよ。基本ここから離れないしタイクツなんだ」
おっちゃんはそんなことを言い残してわたしたちを見送った。さいごまで小瓶の中身を明かしてくれなかったけど、たぶんブッソーなものじゃないよね? ね?
店主のおっちゃんは小瓶を預かってトントンとテーブルをたたいた。
「今日は買い物じゃないわ。さっさと帰って読書のつづきしたいから」
「あぁそうだドロシー。アンタにうってつけの本があるぜ」
そういってカウンターから跳び出した鍛冶屋風味のオヤジは、さっきまでドロちんが読みふけってた本コーナーへと足をすすめる。
彼はその一番上の棚。ロリっこ魔法少女の手では届かないどころか視線にすら入らないような高所に手を伸ばし、一冊の古びた本を取り出した。
「ッ! あんたそれ!」
「ああ、表紙だけで気づくのか? 高名な魔道士が一生をかけて記したってシロモノらしいが」
「どうしてそんなトコロに置いとくのよ! イチバン下に置きなさいよね!」
と理不尽な叫びとともにブツをひっ攫う。んでざっくりページを開き中身を確認しはじめた。
「レプリカと同じ、ううんより詳細に理論が記されてる……間違いない本物だわ!」
「少し前にワケありっぽい魔術師がやってきてな? 匿うのを条件にそいつをくれたんだ。価値がわかるヤツにはわかるってよ」
「こんな貴重な本を手放したのッ!」
ロリちんは飛び跳ねた。鍛冶屋もどきは肩をすくめた。
「そいつの価値は知らねーが、約束通り匿ってやったぜ? 後からやってきた物騒な連中相手によ」
(いったいどんなドラマが繰り広げられてたんだろう?)
もっと話を聞きたい衝動にかられつつ、こんどは甲冑系少女が騒がしくも軽い金属音を打ち鳴らしぴょんぴょん跳ねております。
「こ、これは、これはブレナム産の獣脂では!?」
「お目が高いなアンタ。まさに、それは獣脂の名産ブレナムから仕入れた獣脂だ」
おやっさんの言葉に、甲冑服に身を包んだ少女は顔をぱぁっとさせた。ぱぁっと。
「ねえねえあんずちゃん。それってスゴイの?」
「それはもう!」
「うおぉ」
すっげー迫ってきた。兜脱いでるけど甲冑だから威圧感すげえ。
「ブレナム産の獣脂といえばアイン・マラハどころかクー・タオ全土でも質の良い獣脂が取れますのよ!」
「質の良いって、獣の油なんだからどこでもいっしょじゃない?」
「ぜんっぜん違いますの! 材料となる牛の育て方や環境がそれらを左右するのですわ!」
(おうおう迫るな迫るな狭いから)
このお店圧縮陳列なんだよ。っていうかあんずちゃん異世界歴短いのにベテランみたいな発言するなぁ。
迫るカチャカチャに足を引いてるところ、その後ろでひゅぅと若干かすった口笛を吹くおっちゃんがいた。
「詳しいな。その金属鎧のツヤが保たれる理由がわかったよ」
「そうでして? けっこう手間がいるのですよ」
見せつけるように自らの身体を示すあんずちゃん。まるでサっちゃんが肉体美を披露するときのようだ。
(まあヘンなポーズしてるわけじゃないけど)
「ちょっと、さっさとこの本譲りなさいよ! こんな店に置いといたって価値がわかるヤツなんかいないんだから」
うしろではドロちんが低い位置から主張する。前方ではハリツヤコシ三拍子揃った金属鎧の少女が脂が詰まった缶詰を欲しがって迫りくる。
両手に花かな? まあでも店主には女っ気が微塵もないようで、商売人モードの顔をつくって指でまるをつくった。
「いいぜ、金さえ出せばな」
値段交渉が始まった。わたしはとくにめぼしいアイテムもないし、食べ物はさっき隠し持ってたパンをもしゃもしゃした。
言うて何かすることもなく、ふらふらと店内を歩き回ってみる。ほどなくしてまっくろい壁にぶち当たった。
「ブッちゃんなにしてるの?」
「瞑想だ」
(こんなところで?)
しかも立ってるし。
「瞑想とは心の鍛錬だ。場所に関わらず姿勢すら問題ではない」
「こころを読まれた!」
「だが、ふむ……」
僧侶のまぶたが開き棚の一画を見渡している。そこには普段使いのナイフから刺突に特化したもの、切るタイプ、そして毒を塗りつけ相手の肌を傷つけるためのモノまで取り揃えられている。
「ただの雑貨屋、と言うには説得力に欠けるな」
「なんでも売買するのがモットーでね」
値段交渉を終えたのか、やりきった顔のおっちゃんが生えっぱなしでボッサボサヒゲを弄りつつやってきた。
ちなみにこっちの黒い僧侶はツルツルである。で、ハチマキ装備した店主がこっちに視線を向けた。
「アンタはこいつが得物なんだろ? 顔にそう書いてあるぜ」
「少しはたしなんでおります!」
少しどころかメインウェポン。とくにシンプルな投擲用ナイフがすきです。
(ロープにつなぐといろいろ便利だよ!)
「どうだい? なんかめぼしいもん見つかったか?」
尋ねられ、いまいちど刃物コーナーに目を通してみる。
あれ、持ってる。これ、持ってる。あ、良さそうなのある……アカン全財産がなくなってまう。
「うーん、今は間に合ってるかな」
ってことで今回の買い物イベントはパスしました。もうちょい仕事してお金稼いでから出直してきます。
その様子を見守ってた僧侶が諸行無常を憂う僧侶的なため息を漏らした。
「物騒なものだ。対人用の武器まで揃えるとは」
「護身用さ」
(どーてみもバトル用なのですが)
「リクエストがありゃ坊さんもいいもの見繕ってやるぜ?」
「不要だ。グレース、拙者は外で待つ」
「じゃあいっしょに行くよ」
静かに踵を返す背中を追ってわたしも走り出した。狭い店内にいるより、外で背伸びしてたほうがこころにもからだにも良さそうです。
(ついでにおさんぽしよーっと)
結局ドロちんは追加で本を何冊か買い、あんずちゃんも油引きを新調することにしたらしい。
方や目的のブツを得られてほくほく笑顔。もう片方もお金が手にはいってまったり笑顔。これぞウィンウィンだね!
「またいつでもおいでよ。基本ここから離れないしタイクツなんだ」
おっちゃんはそんなことを言い残してわたしたちを見送った。さいごまで小瓶の中身を明かしてくれなかったけど、たぶんブッソーなものじゃないよね? ね?