キミとわたしの囲われた世界
いろんな犬がいるよね
「あ」
わかった、これ夢だ。
「理解がはやくて助かるよ」
いぬがいた。しゃべった。
「でた! ブッちゃんよりまっくろわんこ!」
「いやーあの子基本茶色被毛だし」
「なにそれ」
言ってる意味わかんない。
「ところで、スレイプニルは気に入ったかな?」
え?
意図を探る。それってばつまり?
「わんちゃんのオトモダチなの?」
「うーんまあ、そんな感じ」
まっくろ垂れ耳なわんこは困ったふうに答えた。
「あの子に荷物を預ければ、あとはスキルひとつでアイテムを出し入れできるよ」
「うん、べんりだよね」
ってことでさっそくお試し。いでよあくうかん!
「あれ」
スキルを唱えたのに裂け目ができない。まっくろやさしいおめめのわんこは困ったふうに答えた。
「ここはインベントリ呼び出し機能禁止なんだ」
「えー」
「ここはキミの領域だからね。ただまあ、旅の道中、かさばる荷物がなくなればいろいろ捗ると思う。助けになったかな?」
「うん。ありがとわんちゃん!」
長旅となればそれだけ荷物も増える。それらは各個管理してるけど、寝泊まり道具とかそういったいろいろはみんなで交代しながら助け合ってた。
描写ないトコでもけっこー苦労してんだよ?
「スキル自体は、条件を満たせば異世界人ならだれでも使える。だけどスレイプニルはキミたちに特別プレゼントさ」
お世話になってるからね。わんちゃんは不敵な無表情でそう続け、さらに疲れたようにうなだれる。
「ふぅ。この機能を実装しないとアンチがうるさいから」
「あんち?」
「剣と魔法は許すのにじゃがいもトマトはリアルじゃないとか、その人数で当時のリアル旅は馬車必須だとか予算がどーとか衛生状況がーとか……ほんとどうかしてるよニンゲンって生き物は」
めっちゃ遠い目。そんでもってにがーい表情。そこにはある種の哀れみも込められてるような気がした。
「めんどくさいから、ぜんぶ魔法でどうにかなるってことにしたんだ」
「ふーん」
よくわかんないけど、わかった。
「わんちゃんもタイヘンなんだね」
「そう言ってくれるのはキミだけだよ。さっきも言ったように、ここはキミの夢の世界だ。だから、ここでインベントリー系のスキルを使用することはできない」
そのかわり。わんちゃんは手前の空間にちいさな犬のぬいぐるみを出現させた。
「キミが望むものをここに生み出すことはできるよ」
「ほんと?」
と言った瞬間、なんか目の前にあった。
「こ……これはッ!?」
おにく! 骨なしおにく!
「あはは。欲望に忠実だなぁ」
いぬは笑った。
「いっただっきまぁあー!」
わたしはかぶりついた。
「うおおおおおおおおおああああめっちゃおいしー!」
「だろうね。ここはキミの夢だから、キミが思う最もおいしいモノと味が再現される。でもさぁ」
わんちゃんはおにくをまじまじと眺めた。
「もう少し何かなかったの? それっていつも食べてるものじゃん」
なにを言いますか! この世界で骨なしおにく以外イチバンうめえメシなんてありゃしませんわよ!
世界一うめえ骨なしおにくをガツガツすることほんの数秒。それはあっという間にわたしのおなかに収まりました。
「ふへぇ~おなかいっぱい」
「実際キミのお腹が膨れるわけじゃないけどね」
まっしろな空間にひとりといっぴき。さらにおにくが追加され、おまけにオジサンがアルコールキメる時に使ってたグラスサイズのミルクが登場。
「みんなキミみたいな子だったら世の中平和だったのにね」
褒めてるようで呆れボイスである。
「そうそう、キミは気づいてないようだけど、スキルは熟練度が向上すると詠唱なしで使えるよ」
「え、そうなの?」
わたしはディナータイムを中断し、口に白い跡をつけつつそっちに顔を向けた。
「っていうかキミのスキルもいくつかその領域に達してるはずだよ。たとえば俊足とかね」
今まで気づかないパターンもめずらしい。わんちゃんはそう続けた。
「あー、そういえばドロちんがそんなことしてた気がする」
「ドロシー、あの子か。賢いよね。夢の世界すら自由自在に操っていたよ」
「ドロちんの夢にも行ったの?」
「正確にはお邪魔したって感じかな?」
わんちゃんは当時のことを思い出してるようだった。そんなクロすけの姿を見てると、なんだかわたしもヘンな思案に囚われる。
この世界に時間の概念があるかどうかわからないけど、眠っているわたし自身の時間は確実に進んでるだろう。となると、この世界の時間を逆もどりさせることはできるんだろうか?
(うーん……むり)
おーばーひーと。そういうのはドロちんに考えさせよう。
「あの種独特の気質が強くてね。まさかあんなに拒否られるとは思わなかったよ」
「どしたの? ケンカ?」
「真正面からね。まあ、おかげでいろんな種類のスキルを拝見できたよ」
「あはは、ドロちんおちゃめー」
「ちょっとはボクのこと心配してくれてもいいんじゃない?」
「え?」
それはありえないよ。だってキミは。
「無敵でしょ?」
なんとなくそう思う。確信レベルで。
わんちゃんはしっぽをパタパタ振った。
「わかる?」
「うん」
言いつつ、わたしはナイフを投擲した。それはわんちゃんの額にめり込み、通り過ぎていった。
「ほーらね」
「……いきなりはビックリだなぁ」
犬は尻尾をパタパタ振る。
「もし、ボクがキミの言うところの敵だったらどうするの?」
「わんちゃんはいい子だよ」
これは間違いない。
「ねえねえわんちゃん。キミって何者なの?」
犬はしばらく黙った。それは単なる沈黙じゃなく、ことばを選んで探してる時間だとわかった。
「教えられないけど、答えはキミの旅路の果てに、そうだね」
で、わんちゃんはナゾめいた演出でこんなことを言うのだ。
「魔王ってご存知?」
(まおー)
犬の鳴き声はわおーん。ん、おおかみさんかな?
「とおく東の魔族の国。その主は人の国の王のように、魔王と呼ばれている」
「へぇーそうなんだ」
そーいえばそんな話何回か聞いたことがあるような。
「あれ」
そういえばおかしいぞ?
「ねえわんちゃん」
「なんだい?」
「魔族の王さまが魔王っていわれるのに、なんで人の王さまは人王っていわれないの?」
「それを言うなら人王でしょ。語感が悪いんじゃない? しらんけど」
まるで興味なさそう。まあわたしも興味ないしいっか。
「人から魔王と呼ばれる存在。それに近づけば何かがわかる。かもしれない」
もったいぶった言い方。そういうヤツってだいたい裏があるんだよね。
(ま、このわんちゃんの存在自体裏がありすぎる気がするけど)
そもそもなんだこのイヌコロは。なんでわたしやドロちんの夢に現れる? スレイプニールのことといい、どうしてこうナゾキャラってのは終盤までナゾのままなんだ。たまに序盤でボロが出るキャラがいてもいーじゃないか。
「ってことできみだれ?」
ヒュンッ。わたしはナイフを投擲した。
「アグレッシブだなぁ……キミの種類はそんな喧嘩っ早くないはずだったんだけど」
「たまにはいーじゃんと思って。それに」
ここは夢の世界。じぶんができると思ったことはなんでもできる。そうでしょ?
(じゃあ)
「いろいろ試してみたくなるじゃん!!」
わたしは両手いっぱいに投擲用ナイフを広げた。
(っべ、マジで自由自在だ)
あると思えばある。だからわたしの手にはたくさんのナイフがある。それをどうするの?
「ひゃっほーい!」
「うわぁ、あたまイッちゃってるよこの子」
千のナイフを身体に通しつつ、身体を透けさせつつ、しっぽを振りふりしてわんこは呟いた。
「と、とりあえず魔王に会ってみてね。会えたらでいいよ、うん」
そしてわたしは夢から覚めた。
わかった、これ夢だ。
「理解がはやくて助かるよ」
いぬがいた。しゃべった。
「でた! ブッちゃんよりまっくろわんこ!」
「いやーあの子基本茶色被毛だし」
「なにそれ」
言ってる意味わかんない。
「ところで、スレイプニルは気に入ったかな?」
え?
意図を探る。それってばつまり?
「わんちゃんのオトモダチなの?」
「うーんまあ、そんな感じ」
まっくろ垂れ耳なわんこは困ったふうに答えた。
「あの子に荷物を預ければ、あとはスキルひとつでアイテムを出し入れできるよ」
「うん、べんりだよね」
ってことでさっそくお試し。いでよあくうかん!
「あれ」
スキルを唱えたのに裂け目ができない。まっくろやさしいおめめのわんこは困ったふうに答えた。
「ここはインベントリ呼び出し機能禁止なんだ」
「えー」
「ここはキミの領域だからね。ただまあ、旅の道中、かさばる荷物がなくなればいろいろ捗ると思う。助けになったかな?」
「うん。ありがとわんちゃん!」
長旅となればそれだけ荷物も増える。それらは各個管理してるけど、寝泊まり道具とかそういったいろいろはみんなで交代しながら助け合ってた。
描写ないトコでもけっこー苦労してんだよ?
「スキル自体は、条件を満たせば異世界人ならだれでも使える。だけどスレイプニルはキミたちに特別プレゼントさ」
お世話になってるからね。わんちゃんは不敵な無表情でそう続け、さらに疲れたようにうなだれる。
「ふぅ。この機能を実装しないとアンチがうるさいから」
「あんち?」
「剣と魔法は許すのにじゃがいもトマトはリアルじゃないとか、その人数で当時のリアル旅は馬車必須だとか予算がどーとか衛生状況がーとか……ほんとどうかしてるよニンゲンって生き物は」
めっちゃ遠い目。そんでもってにがーい表情。そこにはある種の哀れみも込められてるような気がした。
「めんどくさいから、ぜんぶ魔法でどうにかなるってことにしたんだ」
「ふーん」
よくわかんないけど、わかった。
「わんちゃんもタイヘンなんだね」
「そう言ってくれるのはキミだけだよ。さっきも言ったように、ここはキミの夢の世界だ。だから、ここでインベントリー系のスキルを使用することはできない」
そのかわり。わんちゃんは手前の空間にちいさな犬のぬいぐるみを出現させた。
「キミが望むものをここに生み出すことはできるよ」
「ほんと?」
と言った瞬間、なんか目の前にあった。
「こ……これはッ!?」
おにく! 骨なしおにく!
「あはは。欲望に忠実だなぁ」
いぬは笑った。
「いっただっきまぁあー!」
わたしはかぶりついた。
「うおおおおおおおおおああああめっちゃおいしー!」
「だろうね。ここはキミの夢だから、キミが思う最もおいしいモノと味が再現される。でもさぁ」
わんちゃんはおにくをまじまじと眺めた。
「もう少し何かなかったの? それっていつも食べてるものじゃん」
なにを言いますか! この世界で骨なしおにく以外イチバンうめえメシなんてありゃしませんわよ!
世界一うめえ骨なしおにくをガツガツすることほんの数秒。それはあっという間にわたしのおなかに収まりました。
「ふへぇ~おなかいっぱい」
「実際キミのお腹が膨れるわけじゃないけどね」
まっしろな空間にひとりといっぴき。さらにおにくが追加され、おまけにオジサンがアルコールキメる時に使ってたグラスサイズのミルクが登場。
「みんなキミみたいな子だったら世の中平和だったのにね」
褒めてるようで呆れボイスである。
「そうそう、キミは気づいてないようだけど、スキルは熟練度が向上すると詠唱なしで使えるよ」
「え、そうなの?」
わたしはディナータイムを中断し、口に白い跡をつけつつそっちに顔を向けた。
「っていうかキミのスキルもいくつかその領域に達してるはずだよ。たとえば俊足とかね」
今まで気づかないパターンもめずらしい。わんちゃんはそう続けた。
「あー、そういえばドロちんがそんなことしてた気がする」
「ドロシー、あの子か。賢いよね。夢の世界すら自由自在に操っていたよ」
「ドロちんの夢にも行ったの?」
「正確にはお邪魔したって感じかな?」
わんちゃんは当時のことを思い出してるようだった。そんなクロすけの姿を見てると、なんだかわたしもヘンな思案に囚われる。
この世界に時間の概念があるかどうかわからないけど、眠っているわたし自身の時間は確実に進んでるだろう。となると、この世界の時間を逆もどりさせることはできるんだろうか?
(うーん……むり)
おーばーひーと。そういうのはドロちんに考えさせよう。
「あの種独特の気質が強くてね。まさかあんなに拒否られるとは思わなかったよ」
「どしたの? ケンカ?」
「真正面からね。まあ、おかげでいろんな種類のスキルを拝見できたよ」
「あはは、ドロちんおちゃめー」
「ちょっとはボクのこと心配してくれてもいいんじゃない?」
「え?」
それはありえないよ。だってキミは。
「無敵でしょ?」
なんとなくそう思う。確信レベルで。
わんちゃんはしっぽをパタパタ振った。
「わかる?」
「うん」
言いつつ、わたしはナイフを投擲した。それはわんちゃんの額にめり込み、通り過ぎていった。
「ほーらね」
「……いきなりはビックリだなぁ」
犬は尻尾をパタパタ振る。
「もし、ボクがキミの言うところの敵だったらどうするの?」
「わんちゃんはいい子だよ」
これは間違いない。
「ねえねえわんちゃん。キミって何者なの?」
犬はしばらく黙った。それは単なる沈黙じゃなく、ことばを選んで探してる時間だとわかった。
「教えられないけど、答えはキミの旅路の果てに、そうだね」
で、わんちゃんはナゾめいた演出でこんなことを言うのだ。
「魔王ってご存知?」
(まおー)
犬の鳴き声はわおーん。ん、おおかみさんかな?
「とおく東の魔族の国。その主は人の国の王のように、魔王と呼ばれている」
「へぇーそうなんだ」
そーいえばそんな話何回か聞いたことがあるような。
「あれ」
そういえばおかしいぞ?
「ねえわんちゃん」
「なんだい?」
「魔族の王さまが魔王っていわれるのに、なんで人の王さまは人王っていわれないの?」
「それを言うなら人王でしょ。語感が悪いんじゃない? しらんけど」
まるで興味なさそう。まあわたしも興味ないしいっか。
「人から魔王と呼ばれる存在。それに近づけば何かがわかる。かもしれない」
もったいぶった言い方。そういうヤツってだいたい裏があるんだよね。
(ま、このわんちゃんの存在自体裏がありすぎる気がするけど)
そもそもなんだこのイヌコロは。なんでわたしやドロちんの夢に現れる? スレイプニールのことといい、どうしてこうナゾキャラってのは終盤までナゾのままなんだ。たまに序盤でボロが出るキャラがいてもいーじゃないか。
「ってことできみだれ?」
ヒュンッ。わたしはナイフを投擲した。
「アグレッシブだなぁ……キミの種類はそんな喧嘩っ早くないはずだったんだけど」
「たまにはいーじゃんと思って。それに」
ここは夢の世界。じぶんができると思ったことはなんでもできる。そうでしょ?
(じゃあ)
「いろいろ試してみたくなるじゃん!!」
わたしは両手いっぱいに投擲用ナイフを広げた。
(っべ、マジで自由自在だ)
あると思えばある。だからわたしの手にはたくさんのナイフがある。それをどうするの?
「ひゃっほーい!」
「うわぁ、あたまイッちゃってるよこの子」
千のナイフを身体に通しつつ、身体を透けさせつつ、しっぽを振りふりしてわんこは呟いた。
「と、とりあえず魔王に会ってみてね。会えたらでいいよ、うん」
そしてわたしは夢から覚めた。