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作者: 犬物語
さよならは言わない
日程は広めにとっとくほうがいい
 やっぱさ、いーことした日はとてもハッピーだよね!

 もともとはその日いちにちで出立するつもりだったガラリーの村。それがお転婆むすめとの一件に咥え、じゃなくて加え、さらに悪いヤツらをこらしめるイベントまで遭遇しちゃった。悪い子はちゃんとしつけましょう。

 その後、ティベリアさんとジェネザレスさんの猛プッシュによりさらに一泊させてもらうことになりました。ドロちんは予定が狂うって渋ってたけど、民主主義は多数決なのでドロちん残念!

 キネレットちゃんと盗賊の話は村中に伝わり、たまたまガラリーに滞在してた冒険者の方と協力して巣窟をめちゃめちゃにしときました。はじめはヒャッハーって気分でぶっ壊してたんだけど、なんか後から不安が膨らんでって「叱られる!」なんてイメージが湧いちゃったんだよねぇ、なんでだろ?

 それはさておき、ジェネザレスさんは昨日よりもっとビッグなお料理をふるまってくれました。いわく「こんなステキな日に用意しなくていつするの?」なとっておきだそうで、どうやって焼いたのかわかんないくらいビッグサイズなハンバーグが登場した。

 独り占めしたかったなぁ。あんずちゃんはいつもいっしょに食べてるからわかるしブッちゃんはイメージ通りだったけど、まさかドロちんがあんな食うとは思わなかった。

 おふとぅんもふかふか、おてんきもバッチリで次の日の朝。まだ先日の雫したたる葉っぱに囲まれて、わたしたちは次の町に備え荷造りをするのでした。

「ほんとうに、なんとお礼を言えばよいやら」

「いえいえ! こちらこそ最後のさいごまでお世話になりました!」

 柔和な表情に頭を垂れるおばあちゃんに、わたしはそれよりもおっきなお辞儀で返す。

 みんなで食べて泊まった母屋の玄関。牧場の香りがただよう木の建物を見渡し、続けて正面のふたりとひとりに視線を合わせる。うしろからの日差しに、なんだかとっても輝いて見えた。

「晴れでよかった。おかげで少しは歩きやすくなったじゃろう」

「心配はご無用だ。旅路に悪路はつきもの、慣れているさ」

 ティベリアさんの朝は早い。陽が顔を見せる前に目覚めておうまさんたちの世話をはじめ、奥さんもそれに合わせて朝の支度をする。ねぼすけな旅人たちは、野宿でない安心感から太陽の輝きに目をぱちくりさせてのご起床で、キネレットちゃんといっしょにおばあちゃんに起こされる。

(ん、まだちょっと眠い)

 ねぼすけとは言え夜は遅かったのよ? だって万が一あのゴロツキたちが報復する精神力持ち合わせてたら危ないじゃん? でもまあ、来なかったしたぶん反省してくれてると思います。

(ふあぁぁぁねむ、ん、よし今夜は夜の番サボッてはやくねよ)

「おねーさん!」

 ずっと黙り込んでたお転婆さん。とうとうガマンしきれずってかんじで元気な声。その対象はですわ女子。とうの本人はキョトンって顔してるね。

「はい?」

「わたし、おねーさんみたいになりたい! 馬にかっこよくまたがって剣で悪いヤツらをバッタバッタなぎ倒してそんな鎧も着てみたい!」

 昨日のことだ。アイテムを自由に引き出すスキルを習得したあんずちゃんは、キネレットちゃんにせがまれカッケェー甲冑姿を披露してたらしい。わたしは村をおさんぽしたり例のアジトで暴れまわってたから知らんけど、その後も甲冑のまま乗馬したりなんだったりでキネレットちゃんの目がしいたけだったらしい。

「そんで、ぜったい旅に出て再会するから!」

 それを聞いた保護者、渋い顔。

「またそんなことを」

 おばあちゃんはただ微笑ましく見つめていた。そんな夢見る少女に見た目が子どもの魔法少女がぼそり。

「ふん、親に起こしてもらうようなお子ちゃまにはムリね」

「そっちは見た目がおこちゃまじゃん」

「はあ!?」

「はっはっは! これは一本とられたなドロシー。もっと言ってやれ」

「黙ってろこのクロンボ!」

「たわけが!」

 いつものやりあいが始まったところで、それをよそにあんずちゃんがオトナの女性っぽい対応を背伸び少女に披露する。

「待ってますわよ。アナタが立派なナイトになる日を」

 そして、少女は今まででイチバンの笑顔を見せた。

「うん! わたしがナイトならおねーさんはおひめさまね!」

「わたくしが? あら」

 この女騎士、まんざられもなさそうである。

「ふふ、いいですわね。では再会の時を楽しみにしておきましょう」

「ぜったいだよ!」

 別れは惜しい。だからこそ、その気持ちのままわたしたちは背を向ける。このかけがえのない時間を過ごさせてくれた感謝を込めて、わたしたちは最後のあいさつを交わした。

「ティベリアさん! ジェネザレスさん! ありがとうございました!」

「こちらこそ、ありがとう」

 おじいちゃんは丁寧に言葉を紡ぎ、

「またいつでもおいで」

 おばあちゃんは家族のようにわたしたちを見送ってくれた。

「キネレットちゃんも」

 村の外にあこがれる少女。その行動力はホンモノで、この子はたぶん本気なんだろう。

 だからこそ、さよならとは言えなかった。

またね・・・!」

「うん! またね!」

 そして歩く。すこしずつ距離が離れていく。彼らはさいごまでわたしたちに手を振ってくれて、たまにあんずちゃんが振り向き恥ずかしそうに振り返し、ドロちんはツンツンしつつも満足そうな表情で、ブッちゃんは次への旅路を示す紙面を広げていた。

「つぎは洞窟かー。ひんやりしてるといいなー」

 少人数パーティー、未知の洞窟、何もないはずもなく、なんて言わずに平和的にスルーしてほしいんだけど。

(んー、なんかヤな予感する)

 ついでに言うとなんか忘れてる気が――あっ。

「そうだ!」

「いきなりなんですの?」

「ほしにく買うの忘れてた」

「はぁ?」

 ドロちんがいかにもドロちんな顔を見せる前に、わたしの足は動き出していた。目指すは近場の雑貨屋さん。

「ちょっとまっててねー!」

 ヤな予感もおにくの力でハラハラドキドキに大変換よ。まだ知らぬ土地、道中での出会いを求めて、わたしは今日もおにくを食べる。それがわたしのやり方だ。
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