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作者: 犬物語
美少女天才魔道士っぽい展開を書きたかった
あとドロちんに「ざぁーこ♡」みたいなこと言わせたい
 ここは洞窟です。派手な魔法をぶちかませば崩落の危険があります。クラゲ並の知性があればすぐ気付ける程度の常識問題です。なのでこの現場ではド派手なスキルが登場しておりません。

 闇や影が多いのでわたしはニンニンモード。ブッちゃんは相変わらず脇役な戦い方するし、あんずちゃんは大剣を振り回しつつ雪崩アバランチのような地面にドーン! 的なスキルは使ってない。みんな生き埋めは勘弁だからね。

 一方で、あっちのほうでは戦いというか殲滅というか拷問というかイジメが繰り広げられております。

「あっははははははは! ほぉーら、逃げないと丸焦げよ!」

 雷光一閃にて崩れ落ちる盗人ぬすっとたち。もはや戦意喪失しとる輩まで執拗に追いかけ回しているではありませんか。

(あンのロリ魔術師、目がイッちまってやんの)

 普段から高めの声色がさらに耳にキーン。今のドロちんにクラゲ並の知性があるかどうか。はずみで爆裂魔法なんて使われた日にゃあどうなるかわからん。

「ヒィ~おたすけええええええ!!」

「なんだってんだよ! テメーらは悪魔のつかいか何かか!」

「ロクな死に方しねぇと覚悟してたがこれはあまりにも――ッ」

「神なんかいるわけないじゃない。いたとしてもアンタらみたいな下等生物に救いを与えるワケないでしょ?」

 少女の手が光る。それと同時に、数多の色を発する髪が赤に固定された。

(あ、ヤバッ)

 止めるにしても間に合わねぇ。ってことで方針転換。

「みんなー退避しよー」

 わたしは残るパーティーメンバーへ走り出した。まずは迫りくる相手をだいたい仕留めて大剣を地に落としてる女騎士。

「はい?」

 彼女を脇に抱え俊足スキル発動。ほんとだ詠唱なしでもできた。

 つぎは青いローブにまっくろフェイスの僧侶。

「む?」

「ぐぬぅ!」

 腕を伸ばし、金属板みたいな腹部にラリアットの要領でずどん。すこし重たいけどなんのこれしき!

 ドロちんとは反対方向の岩陰へ。こっちは背を向けるけど運ばれあんずちゃんとブッちゃんはその光景がハッキリ見えるわけでして。

「ファッ!?」

「なっ!」

 左右から男女の叫び声いただきました。それと同時にかわいいと凶暴が共存しちゃった系絶叫がお披露目。

「吹っ飛べ三下ぁ! スキル、爆発エクスプロージョン!」

 閃光。後から音が追いつく。少女の前に立っていたのは、激しい戦闘においてまだ挫けずがんばってた盗賊たち。なまじ高レベルだったせいで、彼らはすでに倒れ伏した面々に代わり炎の爆裂を真正面から受け止めた。

(あぁーあ、やっちまったよあの子)

 あっちこっちから悲鳴ですよ。中心にいたボスっぽいの丸焦げになってるんじゃないかなぁ。

「たわけが! 洞窟が崩落するぞ!」

「ちゃあんと手加減したわよ!」

 少女は鋭い牙を覗かせ笑った。あれはアレだ、いわゆる戦闘狂ってヤツだ。

(やべーあの子こえー)

「ど、ドロシーさんってあんな子でしたの?」

 あんずちゃん、おおむねわたしと同じ感想をもったようだ。それに対し、渋いことこの上なき眼のブッちゃんが仏頂面にて候。

「異様なほど盗賊に執着するのだ」

「なんで?」

「知らん。本人に聞けばよかろう」

 それはそうだ。ってことで聞いてみよう。

「ねえドロちん、盗賊さんキライなの?」

「さぁあとはアンタだけよ? どうする? 命乞いする? ん? ん?」

(あーダメだ聞いてねぇ)

 運良く、いや運悪く? 呪文を逃れた人がいたようです。

 すでに戦意喪失しており、迫りくる魔王ドロちんから逃れようと必死に足を引きずってる。魔王にささやかな慈悲の心があればと思ったけど期待するだけ無駄なのでした。

「人の影に隠れて魔法をよけるたぁいい度胸ね。覚悟はできてるかしら?」

「ち、ちがうんだ! オレはただ誘われて来ただけで、か、関係ない!」

「へぇ~、じゃあその装備はなんなのかしら?」

 ドロちんは身長ほどある杖で盗賊が腰に抱える剣を指摘する。

「これは、護身用なんだ! ほ、ほんとに盗賊ならこんなナマクラ使うはずねーじゃねーか、あはは」

 なんて言ってる間にドロちんの小足がツカツカ進み、腰ぬけた盗賊さんの目と鼻の先にいる。

 まるで親戚のおじちゃんに馬乗りモードなめいっ子ちゃん。その実はメインディッシュを前に本能をむき出す少女と生贄になったヒューマンの図。

「ぁ……あ」

 と、すぐ近くで倒れてた人の指が動いた。どんな人かって? うーんごめん、黒焦げだから男なのか女なのかわかんないや。

「あ、あに、き」

「ッ!」

 男の人だった。ドロちんにトドメさされそうになってる男子がビクッてなった。

「アニキ、だ、だいじ、で」

「ばかやろう! テメー余計なことしゃべんな!! ――あっ」

 はい、嘘がバレたー。

「うそつき」

 からの、馬乗りである。超至近距離。そんな間合いで魔法撃たれちゃわたしだって避けられないわ。

 詐欺を仕掛けられたドロちんはどんな表情かな? と伺ってみたらあらやだ意外。満面の笑みである。

 しちゃいけない方のにこにこ。

「ゆ、ゆる、して」

 まともに喋れなくなった哀れな盗賊に、ドロちんは慈悲深き女神の微笑みを向けた。

「だぁーめ♡」

 髪の色が黄金に染まる。これは電気ビリビリ系のスキルを行使する証だ。

「ほんっと盗賊ってクズばかりよね……ほんっと迷惑よ。うちは盗賊でもないただの美少女なのに、さいしょにこの世界に目覚めたらヘンな畑のど真ん中にいて、村の人に盗賊呼ばわりされて、挙句の果てにはあんな仕打ちを……」

(じぶんのこと美少女って言った)

 ってかドロちん壮絶な過去ある系?

「うちをこんなの・・・・といっしょにするんじゃないわよ――スキル、電撃エレクトリック

「うわっ!」

 まぶし!

(何も見えない)

 目を閉じ手で眼前を覆う。それでも激しい雷光が洞窟を貫き、すぐ傍に倒れていた盗賊たちの叫びまで木霊していて規模の大きさを物語っている。

 じゃあ、あの馬乗りにされたヤツはどうなってるだろう? そんな好奇心から、わたしはできるかぎり直視しないように座り込んだドロちんの足元をチラ見する。

(あー)

 なるほど。

(電気ビリビリすると骨が見えるんだ)

 マンガの世界だけだと思ってた。そう感心しつつ、やがて光が収束し闇が広がっていく。光を直視した後だからよりいっそう闇が深く感じられた。

「あぁ……すっきりした」

 その漆黒のなか、恍惚に身悶えする少女の牙だけが白く光っていた。
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