都合良すぎるえぬぴーしー
NPCはGMの都合でいくらでもできるので、ええ
「この図面を見てくれ」
ぺらり。
サンダーさんが懐に手を入れる。
大きめの模造紙を取り出し、広げた。
どうやって収納したかは謎。
「テトヴォの広場の地図だ」
広げた図面を提示しつつのセリフ。
見覚えのあるマップだ。テトヴォ中心部近くにある広場。噴水や教会などの大きな建物がなく、周りは民家や小さな商店ばかりで見晴らしがいい。
処刑される人を見物するには最適の場所。
騒動を起こすには目立つ場所。
サンダーさんは、最も目立つ場所に描かれた四角形と、その中心の赤い点を指さした。
「ここはティトの処刑ポイント。そしてこれが警備の位置と巡回ポイントだ」
「にゃんですと?」
わたしは耳を疑った。
そのマップには、赤い点以外にも色分けされた点と線が描かれている。
「なぜ、そのようなものを持ってる?」
狼狽を顕にブッちゃんが問うと、サンダーさんはエラソーににんまりした。
「酒を呑んで語り合ってりゃ、だいたいどーにかなる」
ならねーよ。
そうツッコミたかった。
オジサンを思い出した。
ツッコミは断念した。
で、ドロちんの嘲るような表情。
「リークしたバカがいるってことね」
オジサンの得意技だ。
アルコールの力で相手の心をほぐし、言いたくないことまで言わせる。でもお酒って、情報と健康を引き換えにしてる香りムンムンなんだよねぇ、ついでに寿命も捧げてそう。
「テトヴォ首長も、こんな情報ばかりは持ってなかったろ?」
これ以上ないドヤ顔である。
ムカつくけど、まあ事実なので仕方ない。
わたしたちが受け取ったのは、この図面にマークがついてないバージョンだったのだ。しかもワンサイズ小さいし。
「さっそく作戦タイムといくか?」
「ちょっと待って、その前に」
ドロちんがサンダーさんを睨んだ。
文字通り、ある種の敵意を込めて。
(ドロちん?)
「アンタ、なんでウチらが求めてた情報を知ってるの?」
「……」
サンダーさんは答えない。
「公的な依頼とだけは教えたけど、その内詳細までは言ってなかったわ。誰もアンタに依頼内容を明かしたことはないし、アンタは国の連中を避けてたわよね……それが、今日に限ってテトヴォ役所まで入ってきた」
(そういえばそうだ)
ドロちんの言葉に、みんながハッとしてサンダーさんへ視線を寄せる。対する緑の闇医者は黙ったままで……あれ?
「サンダーさん?」
違和感。
サンダーさんは黙ってるでもない。
考えてるでもない。
強いて言うなら、何かを読み込んでいるような――。
「こっちにも、独自の情報網があるんでな」
その違和感を掴む前に、サンダーさんが唇を開いた。
大げさに手をかざし、そこには電話を詠唱した時特有のエフェクトがあった。
まるで、その情報網がその先にいることを誇示するように。
「俺がドコでナニを知ったかはどうでもいい。一番大事なのは、お前達が異世界人を助けたいという事実だ。そうだろ?」
「…………まあいいわ」
ドロちんは、それ以上何も言わなかった。
そんなロリっ子魔法少女に意味深な視線を送りつつ、サンダーさんはもろてを上げて宣言した。
「タイムリミットまであと二日。それまで、各自準備を済ませなくっちゃな?」
シリアスな作戦タイムの描写いる?
いらないよね?
なのでパス。
じゃあ今は何してるかって?
「おしごとおわりの物色たーいむ!」
わたしはフィッシュたっぷりの箱に手を突っ込んでいた。
いい気配を感じ、それを掴み引き上げる。
立派な青筋のおさかなさんゲット!
「じゅるり」
「生で食うなよ」
「くわないよー!」
ウソ。言われなきゃこの場でかぶりつきそうになる。
しないけどね。
「焼き魚にしよっかな? 煮る? それともやっぱ生で?」
じゅるり。今から楽しみです。
ここはテトヴォの港。今日も今日とてひと仕事終え、大量御礼ということで余ったフィッシュをゲッチュさせていただくターン。船長から「こん中から好きなの持っていきな!」って言われたときの感動ったらアレよ?
(よ! 大将太っ腹!)
キープした魚を在庫に放り込む。インベントリ内はふしぎパワーで鮮度が維持されるらしいです。詳しい仕組み? ドロちんに聞いて。
「ほへぇ」
ひとしきり物色した後、わたしは漁師さんたちの仕事場へ向かった。
彼らの仕事場は漁船の上だけじゃない。
地面に足ついた後も戦場に立っている。
水揚げ、荷下ろし、成果物をドシドシ市場へ運んでいく。いっしょに仕事してたおっちゃんたちも何人かはそちらに向かい、場合によっては商売人と直接交渉する。後は船に残ってメンテしたり、他の漁船を物見したりと忙しい。
港がいちばん活気づく時間帯だ。
ふとした興味が湧いて、わたしもそのヘンを出歩ってみる。
デカい魚を競り落とそうとしてる人。
箱売りの小魚を買い付ける人。
いろんな人とすれ違いつつ、やがて壁にかけられた看板が目に入った。
「んー、あじ、銀貨いちまい?」
魚の種類と量とお金が書かれてる。
「そうか、みんなこのボードを見てほしい魚を選んだり、値段交渉をしてるんだ」
なるほど、勉強になります!
なお活かす場面が無い模様。
引き続き職場見学。するとテトヴォの暮らしが見えてきた。
「ひゃく! いやひゃくじゅうで買った!」
「こっちはひゃくごじゅうで貰うぜ!」
「バカな! 余り物のザコをそんな大金で!?」
右を見れば、かごいっぱいの魚を中心に激戦が繰り広げられ、
「聞いてよ~、うちの旦那がまた酒呑みに行っちゃったの」
「ただでさえ給料少ないってのにねえ!」
「家の鍵締めちゃおうかしら?」
左を見れば、魚の選別をするおばちゃんたちのグチが聞こえ、
「あ! またカモメにもってかれた!」
「いーじゃねぇか、今日は大漁だったんだから」
「あいつら食えねぇかな? 毎日魚料理で飽きちまった」
一歩進むごとにそれぞれの笑顔がある。
みんな生きてる。
この世界で生きてるんだ。
(……ゲーム)
ふと、憎らしい白髪猫背の男を思い出す。
この世界をゲームだと抜かした。
(そんなことない)
たとえそうだったとしても、わたしはこの世界で生きる人たちの笑顔を守りたい。だって、こんなにみんな笑顔だもん。
それはともかく、なにやら背中から害のない足音を感じて――。
「よう!」
「いったあ!」
ベシン。
背中を叩かれた。
振り向いたら、ぜんぜん知らねー人がいた。
「今日は珍しく大量だな!」
「え、ああそうなの?」
それよりヒリヒリするんだけど?
お礼に後ろからグサッしていい?
「めでてえ! こんなの数年ぶりかもしれねーぞ」
言って、知らねー人はまたどこぞへと歩いていった。あーもう、敵意なくてマジ油断した。
「めでた過ぎて頭がバカになっちゃったの? もう」
「大丈夫か?」
「ほえ?」
ふと見ると、そこに同じ漁船に乗った若いおとこの人がいた。
わたしに嫁がどうのこうの抜かしてたメンズだ。
「あのジジイ、調子がいいとすぐ他人を叩くんだよ」
「それいろいろと問題じゃない?」
こんぷらいあんす的な意味で。
「災難だったな」
ほんとだよ。
「ごめん」
突然どした?
脈絡のないセリフ。若いにーちゃんは真剣な眼差しでこっちを見てた。
「キミのことを、当たりとか嫁にほしいとか、好き勝手言っちまって」
(ああ、そういう)
改めて、目の前の成人男性の表情を拝見。
情けなく垂れた眉。しょげた声色。猫背。いかにも申し訳なさそーな態度だ。
(反省はしてるってことね。んーでももうひと声)
言葉じゃなくて行動や態度で示してほしいなーとは思うけど、いきなりそこまで要求するのはハードル高い?
(まあ、許してやるか)
「そっちの気持ちも考えずに、ほんとごめん!」
「ちゃんと謝れてエラいね! ただちょっとお酒を控えたほうがいいと思うよ!」
情けない男子がほわぁと顔を赤らめる。
意味わかんないけど、とにかく反省してくれたようです。
それからちょっとだけお話して、船長が声をかけてきたところでお腹がグー。わたしはゲッチュした魚を胃袋に収めるべく、家路へとスタートすることにしました。
「じゃ、また!」
またテトヴォに戻ってきた時、もしかしたらいいオトモダチになれるかもしれないね!
ぺらり。
サンダーさんが懐に手を入れる。
大きめの模造紙を取り出し、広げた。
どうやって収納したかは謎。
「テトヴォの広場の地図だ」
広げた図面を提示しつつのセリフ。
見覚えのあるマップだ。テトヴォ中心部近くにある広場。噴水や教会などの大きな建物がなく、周りは民家や小さな商店ばかりで見晴らしがいい。
処刑される人を見物するには最適の場所。
騒動を起こすには目立つ場所。
サンダーさんは、最も目立つ場所に描かれた四角形と、その中心の赤い点を指さした。
「ここはティトの処刑ポイント。そしてこれが警備の位置と巡回ポイントだ」
「にゃんですと?」
わたしは耳を疑った。
そのマップには、赤い点以外にも色分けされた点と線が描かれている。
「なぜ、そのようなものを持ってる?」
狼狽を顕にブッちゃんが問うと、サンダーさんはエラソーににんまりした。
「酒を呑んで語り合ってりゃ、だいたいどーにかなる」
ならねーよ。
そうツッコミたかった。
オジサンを思い出した。
ツッコミは断念した。
で、ドロちんの嘲るような表情。
「リークしたバカがいるってことね」
オジサンの得意技だ。
アルコールの力で相手の心をほぐし、言いたくないことまで言わせる。でもお酒って、情報と健康を引き換えにしてる香りムンムンなんだよねぇ、ついでに寿命も捧げてそう。
「テトヴォ首長も、こんな情報ばかりは持ってなかったろ?」
これ以上ないドヤ顔である。
ムカつくけど、まあ事実なので仕方ない。
わたしたちが受け取ったのは、この図面にマークがついてないバージョンだったのだ。しかもワンサイズ小さいし。
「さっそく作戦タイムといくか?」
「ちょっと待って、その前に」
ドロちんがサンダーさんを睨んだ。
文字通り、ある種の敵意を込めて。
(ドロちん?)
「アンタ、なんでウチらが求めてた情報を知ってるの?」
「……」
サンダーさんは答えない。
「公的な依頼とだけは教えたけど、その内詳細までは言ってなかったわ。誰もアンタに依頼内容を明かしたことはないし、アンタは国の連中を避けてたわよね……それが、今日に限ってテトヴォ役所まで入ってきた」
(そういえばそうだ)
ドロちんの言葉に、みんながハッとしてサンダーさんへ視線を寄せる。対する緑の闇医者は黙ったままで……あれ?
「サンダーさん?」
違和感。
サンダーさんは黙ってるでもない。
考えてるでもない。
強いて言うなら、何かを読み込んでいるような――。
「こっちにも、独自の情報網があるんでな」
その違和感を掴む前に、サンダーさんが唇を開いた。
大げさに手をかざし、そこには電話を詠唱した時特有のエフェクトがあった。
まるで、その情報網がその先にいることを誇示するように。
「俺がドコでナニを知ったかはどうでもいい。一番大事なのは、お前達が異世界人を助けたいという事実だ。そうだろ?」
「…………まあいいわ」
ドロちんは、それ以上何も言わなかった。
そんなロリっ子魔法少女に意味深な視線を送りつつ、サンダーさんはもろてを上げて宣言した。
「タイムリミットまであと二日。それまで、各自準備を済ませなくっちゃな?」
シリアスな作戦タイムの描写いる?
いらないよね?
なのでパス。
じゃあ今は何してるかって?
「おしごとおわりの物色たーいむ!」
わたしはフィッシュたっぷりの箱に手を突っ込んでいた。
いい気配を感じ、それを掴み引き上げる。
立派な青筋のおさかなさんゲット!
「じゅるり」
「生で食うなよ」
「くわないよー!」
ウソ。言われなきゃこの場でかぶりつきそうになる。
しないけどね。
「焼き魚にしよっかな? 煮る? それともやっぱ生で?」
じゅるり。今から楽しみです。
ここはテトヴォの港。今日も今日とてひと仕事終え、大量御礼ということで余ったフィッシュをゲッチュさせていただくターン。船長から「こん中から好きなの持っていきな!」って言われたときの感動ったらアレよ?
(よ! 大将太っ腹!)
キープした魚を在庫に放り込む。インベントリ内はふしぎパワーで鮮度が維持されるらしいです。詳しい仕組み? ドロちんに聞いて。
「ほへぇ」
ひとしきり物色した後、わたしは漁師さんたちの仕事場へ向かった。
彼らの仕事場は漁船の上だけじゃない。
地面に足ついた後も戦場に立っている。
水揚げ、荷下ろし、成果物をドシドシ市場へ運んでいく。いっしょに仕事してたおっちゃんたちも何人かはそちらに向かい、場合によっては商売人と直接交渉する。後は船に残ってメンテしたり、他の漁船を物見したりと忙しい。
港がいちばん活気づく時間帯だ。
ふとした興味が湧いて、わたしもそのヘンを出歩ってみる。
デカい魚を競り落とそうとしてる人。
箱売りの小魚を買い付ける人。
いろんな人とすれ違いつつ、やがて壁にかけられた看板が目に入った。
「んー、あじ、銀貨いちまい?」
魚の種類と量とお金が書かれてる。
「そうか、みんなこのボードを見てほしい魚を選んだり、値段交渉をしてるんだ」
なるほど、勉強になります!
なお活かす場面が無い模様。
引き続き職場見学。するとテトヴォの暮らしが見えてきた。
「ひゃく! いやひゃくじゅうで買った!」
「こっちはひゃくごじゅうで貰うぜ!」
「バカな! 余り物のザコをそんな大金で!?」
右を見れば、かごいっぱいの魚を中心に激戦が繰り広げられ、
「聞いてよ~、うちの旦那がまた酒呑みに行っちゃったの」
「ただでさえ給料少ないってのにねえ!」
「家の鍵締めちゃおうかしら?」
左を見れば、魚の選別をするおばちゃんたちのグチが聞こえ、
「あ! またカモメにもってかれた!」
「いーじゃねぇか、今日は大漁だったんだから」
「あいつら食えねぇかな? 毎日魚料理で飽きちまった」
一歩進むごとにそれぞれの笑顔がある。
みんな生きてる。
この世界で生きてるんだ。
(……ゲーム)
ふと、憎らしい白髪猫背の男を思い出す。
この世界をゲームだと抜かした。
(そんなことない)
たとえそうだったとしても、わたしはこの世界で生きる人たちの笑顔を守りたい。だって、こんなにみんな笑顔だもん。
それはともかく、なにやら背中から害のない足音を感じて――。
「よう!」
「いったあ!」
ベシン。
背中を叩かれた。
振り向いたら、ぜんぜん知らねー人がいた。
「今日は珍しく大量だな!」
「え、ああそうなの?」
それよりヒリヒリするんだけど?
お礼に後ろからグサッしていい?
「めでてえ! こんなの数年ぶりかもしれねーぞ」
言って、知らねー人はまたどこぞへと歩いていった。あーもう、敵意なくてマジ油断した。
「めでた過ぎて頭がバカになっちゃったの? もう」
「大丈夫か?」
「ほえ?」
ふと見ると、そこに同じ漁船に乗った若いおとこの人がいた。
わたしに嫁がどうのこうの抜かしてたメンズだ。
「あのジジイ、調子がいいとすぐ他人を叩くんだよ」
「それいろいろと問題じゃない?」
こんぷらいあんす的な意味で。
「災難だったな」
ほんとだよ。
「ごめん」
突然どした?
脈絡のないセリフ。若いにーちゃんは真剣な眼差しでこっちを見てた。
「キミのことを、当たりとか嫁にほしいとか、好き勝手言っちまって」
(ああ、そういう)
改めて、目の前の成人男性の表情を拝見。
情けなく垂れた眉。しょげた声色。猫背。いかにも申し訳なさそーな態度だ。
(反省はしてるってことね。んーでももうひと声)
言葉じゃなくて行動や態度で示してほしいなーとは思うけど、いきなりそこまで要求するのはハードル高い?
(まあ、許してやるか)
「そっちの気持ちも考えずに、ほんとごめん!」
「ちゃんと謝れてエラいね! ただちょっとお酒を控えたほうがいいと思うよ!」
情けない男子がほわぁと顔を赤らめる。
意味わかんないけど、とにかく反省してくれたようです。
それからちょっとだけお話して、船長が声をかけてきたところでお腹がグー。わたしはゲッチュした魚を胃袋に収めるべく、家路へとスタートすることにしました。
「じゃ、また!」
またテトヴォに戻ってきた時、もしかしたらいいオトモダチになれるかもしれないね!