魔族の町観光名所化計画
魔王「人間の暮らしを取り入れてみっか!」
魔族っていうとどんなイメージ?
古き良き魔族感。たとえば荒廃した世界でシケた薄暗い雰囲気。常に人間を殺すことだけ考えて魔王さまの目的言うたら世界征服。
ここ最近の魔族感。人間とそこまで変わらなくてまったりスローライフに酒場でかんぱい。魔王は街やダンジョン経営なんてしちゃったり。
「ここが、魔族の町ですの?」
「ここが、というよりここからずっとそうなるな」
雪山を降り、草原を抜け暖かさを感じるようになった。それぞれ厚着をやめ日ごろの装備に切り替える。その時には町が見えていたので、今のみなさまは戦闘衣装でなくフツーの私服。
あんずちゃんは白いインナーにレモンイエローのワンピース。
ドロちんは赤いケープブラウスにカーキ色のスカートパンツ。
ブッちゃんはピチピチまっくろインナーにいつもの青いローブ。
わたしはブラウンのプルオーバーにベージュのロングスカート。
冒険者? いいえ、ガッツリ観光気分です。それはそうと、冒頭の問題提起の答えはサンダーさんが答えてくれました。
「なんていうか……ほんとうに魔族の町なんだよな」
呆気にとられる初老男子。外壁や塀などはなく、あるエリアにとんとんと建物が並び道と街灯が立ち並ぶ。
いかにも人間の町並みっぽい構え。建物も人間の町で見たそれとほぼ同じく、レンガに木造にとバラエティー豊かな表通りが旅人を歓迎してくれた。
「だろうな。町並みは人のそれと変わり映えしないが、あれを見ろ」
ブッちゃんがみんなの視線を誘導する。町入口から奥へ伸びる道にちらほら人の姿が見えていて、そのだれもが肌に色があったりツノや翼が生えてたり、とにかく人目で「こいつにんげんじゃねえ!」とわかる外見をしてた。
「みんなユニークさんだね!」
わたしは元気に手を広げた。
「バカなことしないで。全人類がアンタみたいなバカだと勘違いされるじゃない」
「グレースちゃんバカじゃないもーん」
高揚感のままわたしは町並みへ飛び込んでいく。るんるん気分で先頭に陣取ると、背後から心配そうな僧侶のつぶやきが聞こえてきた。
「うむ……生活様態も人間のそれと変わらなければ良いが」
「どういうことですの?」
「宿、食事処、装備を整える場はあるだろうか」
「その心配はいらないと思うぜ」
最年長のおじちゃんがあたりを見渡しつつ言った。
「以前聞いた話だけどな。二十年前にアイン・マラハと同盟を結んだ後、カニスは人間の生活様式を積極的に取り入れるようになったそうだ。とくに人間の里近くの町は交流が進んで、人の町と遜色ない暮らしができるらしいぜ」
「では、宿や店なども」
「あるだろう。ま、あの嬢ちゃんみてーにあちこち見て回ってりゃわかることだ」
(むむむ!)
グレースちゃんアンテナにビビッときた!
「いま、わたしの話をしてませんでしたか!」
振り返り、ジャンプひとつでサンダーさんの懐へ。そのまま武器を、じゃなくて顔と顔をズイと近づけアプローチ。
「わんわん?」
「なんでもねーよ。ったく、若い女が野郎の近くに寄るもんじゃない」
「なんで?」
「なんでもだ」
「ぷっ」
サンダーさんがわけわかんないこと言って、ドロちんがわけわかんなく吹き出した。
「赤くなってるわよ。なに、照れてるの?」
「抜かせ。でもまあ、少なくともテメーみたいなちんちくりんよかマシだな」
「次ヘンなこと言ったら殺すから」
目がマジだ。ドロちんお怒り警報。
「それよりみなさん、こんなところに立ってないで、はやく宿を探しませんと――あら」
何者かの接近に気づき、あんずちゃんは首をかしげてその人を見つめた。
「また新しい人間が来たみたいだな。ようこそ魔族の国へ」
土色の肌、青い瞳、人間でいうところの白目が灰に染まっている。
見た目はユニークだけど、人間と大きな違いはない。その外見的特徴から、その人は男性だとすぐにわかった。
「人間でいいんだよな?」
彼は確認するように尋ね、わたしたちは肯定の意思を伝える。
「これまた大勢で。しっかし大きいな。これほどデカい人間は初めてだ」
「えっ」
名指しされたベリーちゃんが恥ずかしそうに身体を縮めた。まあ、そんなことしてもブッちゃんの影にすら隠れられないのですが。
「あの……ごめんなさい」
「怒ってるわけじゃないさ。ただ、人間にもこういうヤツがいるんだなって」
「わたしたちは異世界人なんだ。よろしくね!」
サンダーさん以外は。そんなニュアンス通じたかどうかは不明。それはともかく、わたしの宣言で魔族の男性は納得したようにうなずいた。
「あぁなるほど。異世界人ってのはいろいろあるんだな。ま、魔族にとっちゃ大差ない」
言って、魔族の男はふたたびセールストークを開始した。
「あらためて、魔族の国へようこそ。ここはバーグ。人間の町に似せてるから人が寝る場所はあるし、食べる場所、買い物に酒を嗜む場所もある」
わざわざ毒を摂取する理由はわからんがな。彼は心底ふしぎそうな顔でこちらの面々を見やる。いえいえ、ここにいるメンツは酒飲みじゃないですよひとりを除いて。
緑色に光る短髪にツノはなく、その代わり背中から翼がちらり。彼は止めどなく、まるで観光案内をするかのようにスラスラと言葉を並べていった。
「町の中央には噴水があるんだ。人間ってのはそういうのが好きなんだろ?」
「え、ええ、まあ」
尋ねられ、否定するのもアレなんで肯定しておくあんずちゃん。それに気をよくしたのか、魔族はいっそう饒舌になった。
「我々魔族にはアヴェスタ文化がなくてな。残念だが教会はないんだ」
特定のひとりに対し特別な視線を向ける。されたまっくろ僧侶は戸惑いの表情。
「いや、拙者はアヴェスタの者では……」
「本当か? 教会の連中はみんなそういうカッコしてるけどな」
まあいい。彼は再度こちら全体を見渡した。
「人間が使う施設は中央広場付近に集まってる。まずはまっすぐバーグの中央広場まで向かってくれ。そうそう、聞いた話だと人間ってのは町をつくるのにリーダーが必要らしいな。首長っていうんだっけ?」
「うん。そうだけど魔族の国にはないの?」
「当たり前だろ。だれがそんなメンドクサイことやらなきゃいけねーんだ」
言って、彼は翼を広げた。
「食って寝て好き勝手する。それが魔族の生き方さ。ま、ひとつの町に定住するのも悪くないけどな」
「あ、ちょっと!」
あんずちゃんの静止虚しく、魔族の男はバサバサっと空に舞い上がっていく。それから抜けたらしき一本が舞い降り、見上げていた女騎士の手元にやってくる。
「……魔族って便利ですのね」
ふわりと両手で受け止め、プライベートスタイルの親友はため息のような吐息を漏らした。
「だいじょうぶ? 鳥インフルエンザとなに感染しない?」
「バカなことを言うんじゃありません」
などと証言しつつ、あんずちゃんはマッハで羽を手放した。
古き良き魔族感。たとえば荒廃した世界でシケた薄暗い雰囲気。常に人間を殺すことだけ考えて魔王さまの目的言うたら世界征服。
ここ最近の魔族感。人間とそこまで変わらなくてまったりスローライフに酒場でかんぱい。魔王は街やダンジョン経営なんてしちゃったり。
「ここが、魔族の町ですの?」
「ここが、というよりここからずっとそうなるな」
雪山を降り、草原を抜け暖かさを感じるようになった。それぞれ厚着をやめ日ごろの装備に切り替える。その時には町が見えていたので、今のみなさまは戦闘衣装でなくフツーの私服。
あんずちゃんは白いインナーにレモンイエローのワンピース。
ドロちんは赤いケープブラウスにカーキ色のスカートパンツ。
ブッちゃんはピチピチまっくろインナーにいつもの青いローブ。
わたしはブラウンのプルオーバーにベージュのロングスカート。
冒険者? いいえ、ガッツリ観光気分です。それはそうと、冒頭の問題提起の答えはサンダーさんが答えてくれました。
「なんていうか……ほんとうに魔族の町なんだよな」
呆気にとられる初老男子。外壁や塀などはなく、あるエリアにとんとんと建物が並び道と街灯が立ち並ぶ。
いかにも人間の町並みっぽい構え。建物も人間の町で見たそれとほぼ同じく、レンガに木造にとバラエティー豊かな表通りが旅人を歓迎してくれた。
「だろうな。町並みは人のそれと変わり映えしないが、あれを見ろ」
ブッちゃんがみんなの視線を誘導する。町入口から奥へ伸びる道にちらほら人の姿が見えていて、そのだれもが肌に色があったりツノや翼が生えてたり、とにかく人目で「こいつにんげんじゃねえ!」とわかる外見をしてた。
「みんなユニークさんだね!」
わたしは元気に手を広げた。
「バカなことしないで。全人類がアンタみたいなバカだと勘違いされるじゃない」
「グレースちゃんバカじゃないもーん」
高揚感のままわたしは町並みへ飛び込んでいく。るんるん気分で先頭に陣取ると、背後から心配そうな僧侶のつぶやきが聞こえてきた。
「うむ……生活様態も人間のそれと変わらなければ良いが」
「どういうことですの?」
「宿、食事処、装備を整える場はあるだろうか」
「その心配はいらないと思うぜ」
最年長のおじちゃんがあたりを見渡しつつ言った。
「以前聞いた話だけどな。二十年前にアイン・マラハと同盟を結んだ後、カニスは人間の生活様式を積極的に取り入れるようになったそうだ。とくに人間の里近くの町は交流が進んで、人の町と遜色ない暮らしができるらしいぜ」
「では、宿や店なども」
「あるだろう。ま、あの嬢ちゃんみてーにあちこち見て回ってりゃわかることだ」
(むむむ!)
グレースちゃんアンテナにビビッときた!
「いま、わたしの話をしてませんでしたか!」
振り返り、ジャンプひとつでサンダーさんの懐へ。そのまま武器を、じゃなくて顔と顔をズイと近づけアプローチ。
「わんわん?」
「なんでもねーよ。ったく、若い女が野郎の近くに寄るもんじゃない」
「なんで?」
「なんでもだ」
「ぷっ」
サンダーさんがわけわかんないこと言って、ドロちんがわけわかんなく吹き出した。
「赤くなってるわよ。なに、照れてるの?」
「抜かせ。でもまあ、少なくともテメーみたいなちんちくりんよかマシだな」
「次ヘンなこと言ったら殺すから」
目がマジだ。ドロちんお怒り警報。
「それよりみなさん、こんなところに立ってないで、はやく宿を探しませんと――あら」
何者かの接近に気づき、あんずちゃんは首をかしげてその人を見つめた。
「また新しい人間が来たみたいだな。ようこそ魔族の国へ」
土色の肌、青い瞳、人間でいうところの白目が灰に染まっている。
見た目はユニークだけど、人間と大きな違いはない。その外見的特徴から、その人は男性だとすぐにわかった。
「人間でいいんだよな?」
彼は確認するように尋ね、わたしたちは肯定の意思を伝える。
「これまた大勢で。しっかし大きいな。これほどデカい人間は初めてだ」
「えっ」
名指しされたベリーちゃんが恥ずかしそうに身体を縮めた。まあ、そんなことしてもブッちゃんの影にすら隠れられないのですが。
「あの……ごめんなさい」
「怒ってるわけじゃないさ。ただ、人間にもこういうヤツがいるんだなって」
「わたしたちは異世界人なんだ。よろしくね!」
サンダーさん以外は。そんなニュアンス通じたかどうかは不明。それはともかく、わたしの宣言で魔族の男性は納得したようにうなずいた。
「あぁなるほど。異世界人ってのはいろいろあるんだな。ま、魔族にとっちゃ大差ない」
言って、魔族の男はふたたびセールストークを開始した。
「あらためて、魔族の国へようこそ。ここはバーグ。人間の町に似せてるから人が寝る場所はあるし、食べる場所、買い物に酒を嗜む場所もある」
わざわざ毒を摂取する理由はわからんがな。彼は心底ふしぎそうな顔でこちらの面々を見やる。いえいえ、ここにいるメンツは酒飲みじゃないですよひとりを除いて。
緑色に光る短髪にツノはなく、その代わり背中から翼がちらり。彼は止めどなく、まるで観光案内をするかのようにスラスラと言葉を並べていった。
「町の中央には噴水があるんだ。人間ってのはそういうのが好きなんだろ?」
「え、ええ、まあ」
尋ねられ、否定するのもアレなんで肯定しておくあんずちゃん。それに気をよくしたのか、魔族はいっそう饒舌になった。
「我々魔族にはアヴェスタ文化がなくてな。残念だが教会はないんだ」
特定のひとりに対し特別な視線を向ける。されたまっくろ僧侶は戸惑いの表情。
「いや、拙者はアヴェスタの者では……」
「本当か? 教会の連中はみんなそういうカッコしてるけどな」
まあいい。彼は再度こちら全体を見渡した。
「人間が使う施設は中央広場付近に集まってる。まずはまっすぐバーグの中央広場まで向かってくれ。そうそう、聞いた話だと人間ってのは町をつくるのにリーダーが必要らしいな。首長っていうんだっけ?」
「うん。そうだけど魔族の国にはないの?」
「当たり前だろ。だれがそんなメンドクサイことやらなきゃいけねーんだ」
言って、彼は翼を広げた。
「食って寝て好き勝手する。それが魔族の生き方さ。ま、ひとつの町に定住するのも悪くないけどな」
「あ、ちょっと!」
あんずちゃんの静止虚しく、魔族の男はバサバサっと空に舞い上がっていく。それから抜けたらしき一本が舞い降り、見上げていた女騎士の手元にやってくる。
「……魔族って便利ですのね」
ふわりと両手で受け止め、プライベートスタイルの親友はため息のような吐息を漏らした。
「だいじょうぶ? 鳥インフルエンザとなに感染しない?」
「バカなことを言うんじゃありません」
などと証言しつつ、あんずちゃんはマッハで羽を手放した。