魔族とマモノとおっきなクマさん
これらは無関係ですが、今回は関係あります
「なあ、さっきの女魔族さ、俺達を歓迎するって言ってたよな」
片膝ついて荒い呼吸。手には医療器具といくつかの注射針。
「もしかしてさ、それってこれのことだったりするか?」
ひとつのビンに青と緑の液体を注ぎ込む。
真っ赤に変化したそれを近くの僧侶に投げる。
受け取ったブッちゃんは赤い液体を自らの手にかけた。
「さあな。いずれにしろこの状況を乗り切るしかあるまい」
「っつーかなぜクマよ。ここに森なんかねーぞ」
前方の巨大クマさん複数頭。
後方のマモノたち。
そんな状況の中、サンダーさんは冷や汗まじりに周囲を見渡した。
「組織だってんなーまるで俺たちだけ狙ってるみてーだなー」
「役に立たない分析ありがと。来るわよ!」
死角からマモノが一匹。ドロちんは接近を読みあらかじめ呪文を展開。地面から火柱をあげ、それが開戦合図となった。
「わん!」
こっちはマモノの相手。
身を隠す場所がないときは無詠唱にてスピードアップ。素早さで翻弄するでござる。
「あんずちゃんそっち行ったよー!」
「おまかせあれ!」
グラウンドモードにて大剣を振り回す。豪快かつ繊細な剣捌きで攻撃範囲の広い横薙ぎ一戦。いくつかのマモノが真っ二つになり泡粒と化す。
(ん、なんかいいにおい)
つられて首をひゃくはちじゅうど。そこにはドロちん製らしき火柱が立ち上がっており、その中心には断末魔をあげるクマさん。そのまままっ黒焦げかと思いきや火力調整完璧なのよドロちん。
フシューっと油吹き出す効果音とともに加熱終了。ほどよい焼き加減のクマさんはそのままズッシリと倒れた。
(なむなむ許せクマさんよ。ありがたく食べてあげるからね)
まだまだクマさんたくさん。ドロちんとブッちゃんで後方支援するなか、野生動物担当の最前線は新加入のベリーちゃんが担っていた。
「……」
(うおマジか)
だってアレおっきーよ? ベリーちゃんの倍くらいあるしホッキョクグマ? グリズリー? なんか知らんけどそんな感じのサイズ感じゃん。
そんなんが突進してきたらどうする?
わたしは逃げる。
たぶんブッちゃんも逃げる。
「ん」
ベリー氏、ふつーに受け止めたのですが。
「ん」
持ち上げたのですが。
関節極まってるのですが。
「ん」
いっぽん!
思わずそう口走っちゃいそうな背おい投げ。
それからこっちを見てひと言。
「これでいいの?」
「あ、うんありがと」
わたしはお腹を見せるクマさんにナイフを突き刺した。
「カニス初のじゅーく!」
パチパチ焚き木。
おいしいおにく。
みんなとわいわい。
これぞキャンプの真骨頂よ。
「うっさい」
「そんなこと言わずぅ」
ドロちんにこしこしこうげき!
「やめろ駄犬」
「あう」
ずがいこつをつかまれた。
こうかはいまひとつのようだ。
「ノリわるいなードロちんは」
「黙って食べなさい」
「んもぅ、じゃあ新入生かんげいかーい!」
もふっ。
わたしはベリーちゃんの背中に抱きついた。
「……」
おっきなおんなの子はされるがままだ。
なんて包容力!
「はしたないですわよ」
対面側、お上品にチョップスティックでみそ汁をすする女騎士。
「あんずちゃんさぁ、どっちかってと騎士じゃなくて貴族じゃない?」
「いきなりなんですの」
「フラー出て旅はじめたころさ、あんずちゃん器に入ってないものぜったい食べなかったじゃん」
「当然のマナーでしょう」
あんずちゃんは呆れ顔で言った。ほほう? そうおっしゃられますのでございますかあんずさま?
「でも今は地面に落ちたの拾って食べるよね」
「そんなワケないでしょ!」
ダウト。
「わたし見たもん。誰も見てないの確認して地面に落としたシカにく拾い食いしたの見たもん」
手づかみだったもん。
「そ、そんなことしてませんわ!」
ダウト。
「この前だってスープの具こぼしてたよね。その後地面に落ちたそれを直で食べてたよね」
おくちで。
「なぁッ!」
間違いない。これは「見てましたの!」って顔だ。
「むふふぅはしたないですぞぉあんずさま~」
「違いますの! あれは、も、もったいないと思って……きゅぅ」
あはは、悔しがってるあんずちゃんかわいー。
「ねぇねぇ聞いてよベリーちゃん」
わたしは反り立つ壁に寄りかかった。
ウデを回して回り込んだ。
ベリーちゃんの顔が間近に映る。
「グレースちゃんの大親友がさぁ、どんどん野生に染まってってるんだ~」
「ヘンなこと拭き込むんじゃありません」
「ふっ、若いっていいねぇ」
遠くで抗議の声。このやりとりを酒の肴にするオッサン末期の声が聞こえ、ふと、わたしの脳裏にいろんなものが浮かんできた。
「あの時のベリーちゃんすごかったよねー。ケガしてない?」
「ううん、へーき」
ひとつは修道院跡でのできごと。サンダーさんが呼び起こした記憶のせいで、ベリーちゃんは初老男子の顔をヨダレまみれにした。
「手慣れてたよね。ほんとに、この世界に来てからずっとあの廃墟にいたの?」
「うん」
もうひとつはお夕飯のキッカケになった戦闘。なんの戦闘経験もないはずのベリーちゃんは、そりゃあもう見事な手さばきで巨大クマの足を払い、身体を持ち上げ、ヒジ関節を極め投げていた。
熟練者のそれだ。
「ずっと見てたから」
「見てた? 何を?」
「わからない……けど、ずっと見てた気がする」
言って、ベリーちゃんは食事の手を止め自身の両手を眺める。
「あの動き、どうやって投げればいいか、にんげんの身体をどう動かせばいいか……だから、ボクにもできるかなって」
「それって元の世界での記憶?」
「たぶん、そうだと思う」
わからないけど。さいごにベリーちゃんはそう言って、またおわんに手をかけた。
あったかい煙が鼻をこすり、いい香りに思わずヨダレが出そうになる。味覚への誘惑に耐えつつ、わたしはベリーちゃんの頭に顔を埋めた。
「グレースよ、そろそろ迷惑だろう」
「えへへ、はーい」
僧侶にたしなめられつつお食事再会。相変わらず高原地帯だし相変わらず空がキレイ。大自然に包まれて、グレースちゃんとゆかいな仲間たちは、今日もひとつテントの下でまるまって過ごすのでした。
「どうです魔王さま? これがかねてから申し上げていた異世界人です」
謁見の間。
窓から光が差し込まず、つまり夜だということがわかる。
たまに走る閃光は雷によるもの。けたたましい轟音と共に室内へ光が満ち、雷土は真上から降り注いでるものだとだれもが推察できた。
「彼女はいま、カニスへの書簡を預かってこの王城へ向かっています。あ、ほら見てくださいこの笑顔。かわいいでしょ?」
雨音のない空間でひとりとひとりの気配だけ。柱を背にいくつもの甲冑があるが、直立不動のそれらには微動だにする気配はなく、生気もなかった。
「今、彼女たちはファミリアーリス山脈を越えカニス領に侵入しました。何の障害も無ければ、ここへはあと二週間足らずで到着するでしょう」
部屋の隅から隅まで響く声。どことなく妖艶なその響きは、聞く者の心深くまで浸透していく。壇下にて言葉を紡いでいた女魔族は、それまで見せていたイタズラっ子のような笑みをやめ、改めて鋭い牙を見せた。
「何もなければ、ですが」
笑みはサディスティックなそれへと変貌していた。
片膝ついて荒い呼吸。手には医療器具といくつかの注射針。
「もしかしてさ、それってこれのことだったりするか?」
ひとつのビンに青と緑の液体を注ぎ込む。
真っ赤に変化したそれを近くの僧侶に投げる。
受け取ったブッちゃんは赤い液体を自らの手にかけた。
「さあな。いずれにしろこの状況を乗り切るしかあるまい」
「っつーかなぜクマよ。ここに森なんかねーぞ」
前方の巨大クマさん複数頭。
後方のマモノたち。
そんな状況の中、サンダーさんは冷や汗まじりに周囲を見渡した。
「組織だってんなーまるで俺たちだけ狙ってるみてーだなー」
「役に立たない分析ありがと。来るわよ!」
死角からマモノが一匹。ドロちんは接近を読みあらかじめ呪文を展開。地面から火柱をあげ、それが開戦合図となった。
「わん!」
こっちはマモノの相手。
身を隠す場所がないときは無詠唱にてスピードアップ。素早さで翻弄するでござる。
「あんずちゃんそっち行ったよー!」
「おまかせあれ!」
グラウンドモードにて大剣を振り回す。豪快かつ繊細な剣捌きで攻撃範囲の広い横薙ぎ一戦。いくつかのマモノが真っ二つになり泡粒と化す。
(ん、なんかいいにおい)
つられて首をひゃくはちじゅうど。そこにはドロちん製らしき火柱が立ち上がっており、その中心には断末魔をあげるクマさん。そのまままっ黒焦げかと思いきや火力調整完璧なのよドロちん。
フシューっと油吹き出す効果音とともに加熱終了。ほどよい焼き加減のクマさんはそのままズッシリと倒れた。
(なむなむ許せクマさんよ。ありがたく食べてあげるからね)
まだまだクマさんたくさん。ドロちんとブッちゃんで後方支援するなか、野生動物担当の最前線は新加入のベリーちゃんが担っていた。
「……」
(うおマジか)
だってアレおっきーよ? ベリーちゃんの倍くらいあるしホッキョクグマ? グリズリー? なんか知らんけどそんな感じのサイズ感じゃん。
そんなんが突進してきたらどうする?
わたしは逃げる。
たぶんブッちゃんも逃げる。
「ん」
ベリー氏、ふつーに受け止めたのですが。
「ん」
持ち上げたのですが。
関節極まってるのですが。
「ん」
いっぽん!
思わずそう口走っちゃいそうな背おい投げ。
それからこっちを見てひと言。
「これでいいの?」
「あ、うんありがと」
わたしはお腹を見せるクマさんにナイフを突き刺した。
「カニス初のじゅーく!」
パチパチ焚き木。
おいしいおにく。
みんなとわいわい。
これぞキャンプの真骨頂よ。
「うっさい」
「そんなこと言わずぅ」
ドロちんにこしこしこうげき!
「やめろ駄犬」
「あう」
ずがいこつをつかまれた。
こうかはいまひとつのようだ。
「ノリわるいなードロちんは」
「黙って食べなさい」
「んもぅ、じゃあ新入生かんげいかーい!」
もふっ。
わたしはベリーちゃんの背中に抱きついた。
「……」
おっきなおんなの子はされるがままだ。
なんて包容力!
「はしたないですわよ」
対面側、お上品にチョップスティックでみそ汁をすする女騎士。
「あんずちゃんさぁ、どっちかってと騎士じゃなくて貴族じゃない?」
「いきなりなんですの」
「フラー出て旅はじめたころさ、あんずちゃん器に入ってないものぜったい食べなかったじゃん」
「当然のマナーでしょう」
あんずちゃんは呆れ顔で言った。ほほう? そうおっしゃられますのでございますかあんずさま?
「でも今は地面に落ちたの拾って食べるよね」
「そんなワケないでしょ!」
ダウト。
「わたし見たもん。誰も見てないの確認して地面に落としたシカにく拾い食いしたの見たもん」
手づかみだったもん。
「そ、そんなことしてませんわ!」
ダウト。
「この前だってスープの具こぼしてたよね。その後地面に落ちたそれを直で食べてたよね」
おくちで。
「なぁッ!」
間違いない。これは「見てましたの!」って顔だ。
「むふふぅはしたないですぞぉあんずさま~」
「違いますの! あれは、も、もったいないと思って……きゅぅ」
あはは、悔しがってるあんずちゃんかわいー。
「ねぇねぇ聞いてよベリーちゃん」
わたしは反り立つ壁に寄りかかった。
ウデを回して回り込んだ。
ベリーちゃんの顔が間近に映る。
「グレースちゃんの大親友がさぁ、どんどん野生に染まってってるんだ~」
「ヘンなこと拭き込むんじゃありません」
「ふっ、若いっていいねぇ」
遠くで抗議の声。このやりとりを酒の肴にするオッサン末期の声が聞こえ、ふと、わたしの脳裏にいろんなものが浮かんできた。
「あの時のベリーちゃんすごかったよねー。ケガしてない?」
「ううん、へーき」
ひとつは修道院跡でのできごと。サンダーさんが呼び起こした記憶のせいで、ベリーちゃんは初老男子の顔をヨダレまみれにした。
「手慣れてたよね。ほんとに、この世界に来てからずっとあの廃墟にいたの?」
「うん」
もうひとつはお夕飯のキッカケになった戦闘。なんの戦闘経験もないはずのベリーちゃんは、そりゃあもう見事な手さばきで巨大クマの足を払い、身体を持ち上げ、ヒジ関節を極め投げていた。
熟練者のそれだ。
「ずっと見てたから」
「見てた? 何を?」
「わからない……けど、ずっと見てた気がする」
言って、ベリーちゃんは食事の手を止め自身の両手を眺める。
「あの動き、どうやって投げればいいか、にんげんの身体をどう動かせばいいか……だから、ボクにもできるかなって」
「それって元の世界での記憶?」
「たぶん、そうだと思う」
わからないけど。さいごにベリーちゃんはそう言って、またおわんに手をかけた。
あったかい煙が鼻をこすり、いい香りに思わずヨダレが出そうになる。味覚への誘惑に耐えつつ、わたしはベリーちゃんの頭に顔を埋めた。
「グレースよ、そろそろ迷惑だろう」
「えへへ、はーい」
僧侶にたしなめられつつお食事再会。相変わらず高原地帯だし相変わらず空がキレイ。大自然に包まれて、グレースちゃんとゆかいな仲間たちは、今日もひとつテントの下でまるまって過ごすのでした。
「どうです魔王さま? これがかねてから申し上げていた異世界人です」
謁見の間。
窓から光が差し込まず、つまり夜だということがわかる。
たまに走る閃光は雷によるもの。けたたましい轟音と共に室内へ光が満ち、雷土は真上から降り注いでるものだとだれもが推察できた。
「彼女はいま、カニスへの書簡を預かってこの王城へ向かっています。あ、ほら見てくださいこの笑顔。かわいいでしょ?」
雨音のない空間でひとりとひとりの気配だけ。柱を背にいくつもの甲冑があるが、直立不動のそれらには微動だにする気配はなく、生気もなかった。
「今、彼女たちはファミリアーリス山脈を越えカニス領に侵入しました。何の障害も無ければ、ここへはあと二週間足らずで到着するでしょう」
部屋の隅から隅まで響く声。どことなく妖艶なその響きは、聞く者の心深くまで浸透していく。壇下にて言葉を紡いでいた女魔族は、それまで見せていたイタズラっ子のような笑みをやめ、改めて鋭い牙を見せた。
「何もなければ、ですが」
笑みはサディスティックなそれへと変貌していた。