かにす・るぷす・ふぁみりあーりす
ようこそ、魔族の国へ
旅は道連れ世は情け。こういった旅路では人が多ければ多いほど頼もしい。
我らがパーティーは見事山頂に到着。キツい登山を終えあとは坂道を下るだけ。そう思っていたら意外と厳しい山下り。いちいち踏ん張らなきゃいけないし足をすべらせたら真っ逆さまだし、っていうか実際に転がり雪だるま作った感じ?
制作は他でもないグレースちゃんです。
「はい」
「はい、じゃないですわよまったくもう」
ルームメイトがツンデレ魔女っ子のポジションを奪いツッコミ役となる。なぜなら、ドロちんは坂を真っ逆さまに転げ落ちるわたしをジトーっとした目で見送っていたから。
ブッちゃんもおおむね同じ。ベリーちゃんは「いいの?」的な顔でみんなを見つめ、サンダーさんが「いいんだ」とナゾの包容力で答えていた。
あんずちゃんだけ親友の無事を案じ駆けつけてくれたのだ!
「バカですわね」
「ぐさぁ!」
へい! マイベストフレェーンズ!
「わざとでしょ」
「バレた?」
「足元がお留守な忍びなんていませんわよ。ほら立って」
イタズラっ子な親友を起こそうと、レベルアップ中の女騎士はまっしろな手を差し伸べた。
あんずちゃんの要望で、時折彼女の修行に付き合ってる。さいしょは一瞬で身体を拾八分割できそーなくらいヨワヨワだったけど、最近は一秒で三分割くらいしかできなくなってきた。
修行のたまものだね。その他、彼女はドロちん相手に対魔術師の訓練もしてる。はじめはめんどくさがってたドロちんも、最近はノリノリで「そこ! 油断しないでしっかりガードする!」などと地面から火柱を吹かせまくってます。迫りくる炎をどうガードすれば? などと疑問に思いつつ、わたしは魔法使いとだけは正面から相手しないと誓わせてもらいました。
「ありがと」
修練を積み重ねても、あんずちゃんの手はキレイなままだ。
「まったく。そのままクレパスに落ちたらどうするつもりでしたの?」
言って、ツリ目の騎士は親友が転がっていったさらに先を見る。そこには深い溝があり、中を覗きこむとひたすら真っ暗やみやみ空間が広がっていた。
「うーん、這い上がる?」
「時間かかりますわよ」
「そこは気合いと根性でどうにか」
「まったく……すこし、暖かくなってきましたわね」
後ろに複数の足音を感じつつ、ふたりの少女はクレパスから山々へと焦点を移していった。
木々はなくなだらかな高原が続いている。視界を覆っていた白が影に潜み、今は緑の山々が広く描写され、遠くには野ウサギのような影も見えた。そんな景色を見渡して、わたしたちはようやっと登山を終えたんだという実感に包まれていく。
「気が済んだ?」
うしろから鈴のようなツンツンボイス。振り返るとロリっ子魔術師の姿はなく、代わりにそれを覆い隠す壁がふたつあった。
「ケガは?」
「ヘーキだよ!」
いちおうって感じで尋ねる僧侶。わたしはサっちゃんがいつもやってたムキムキィ! ってポーズをした。スキル名はなんだったっけ、たしかダブルぅ……忘れちゃった。
「……」
対して、もうひとりの巨人はこちらではなく風景を見ていた。
ああ、そうか。ベリーちゃんはずっと雪山にいたんだっけ。この世界のことを何も知らない純真無垢、ぜんぶが初体験のピチピチ異世界人。
「ようこそ異世界へ!」
これからたくさんのドキドキが待ってるよ。
「それはコッチのセリフだぞ異世界人」
「むー! そういうことじゃないもんサンダーさんはだまってて!」
「お取り込み中のところ悪いんだけどさ」
やたらハスキーなボイスが耳に入ってきた。声質近いのはスプリットくんかなー、って。
(ん?)
だれ?
振り向いた。
見知らぬ人がいた。
「アンタら誰?」
「はだあお!」
肌青ッ!
「失礼なヤツだな」
女性はしかめっ面になった。
「で、アンタら誰?」
女は腰に手を当てた。
青い肌。
それより深く長い髪。
そしてまっくろなツノが頭の両サイドからこんにちは。
どー見ても魔族です。
「人間よね。ここ関所だけどこっちになんか用?」
「え?」
言われて気づく。わたしたちの背後にちょっとした木造建築があったことを。
戸口が開かれており、そこには履物を脱ぐ空間とわれわれジャパニーズがよく知るタタミが敷かれている。なんていうか、そのぉ……えどじだい? みたいな。
「用が無いならさっさと消えてほしいんだけど? こっちもヒマじゃないんでね」
彼女は黄色い瞳の目を細めた。寒いのか、衣装の露出は少なく、足元は雪山用っぽいクツでしっかりガードしてる。
「失礼した。我々は冒険者ギルドからの依頼で参ったものだ」
さっそく交渉役のブッちゃんがギルドカードを提示した。彼女はそれを一瞥し、また僧侶に視線を戻す。
「そんなの見せつけられたって何にもないよ」
「そんな! 通していただけないのですか?」
「ちがう」
ぶっきらぼうに背を向け、彼女は建物の前に設置されたテーブルをトントンと叩いた。
「通りたきゃ勝手に通ればいい。人間の仕組み? 知らねーけどそういうのに合わせてるだけで、こっちにとっちゃ関所なんてどーでもいいんだよ。ほら見ろ」
テーブルの上にあった冊子を掴みこちらに提示する。そこにはいろんなメッセージや落書きが描かれていて――なんだこれ。
「わーいイチバン乗り、みんなより早く山越え達成……危うく遭難しかけた。あのバケモノはなんだったのだろう? ……モン娘ハーレム目指して記念カキコ。なんですのこれ?」
「ああ、それ最近のだね」
戸惑いがちにあんずちゃんがそれらを読み上げ、女魔族は思い出すように視線を横にやる。
「ふざけた男がいたから、そいつだけはキツくお灸を据えてやったんだけどさ……人間ってのはこういうのが好きなのか?」
「ええ……まあ……たぶん」
あんずちゃん、ザ、玉虫色の回答。
「よくわかんないね。まぁそういうことだから、通りたきゃさっさと行きな」
「な? めんどくさい手続きいらなかったろ?」
「うむ、これほど簡単に通れるとは。カニスは思った以上に治安が良いのかもしれんな」
「バカね。そうする必要がないくらい余裕があるってことよ」
(ふーん)
そんなやりとりの間、わたしは青肌の女魔族を観察した。
警戒してる風でもない。
油断してる風でもない。
敵意はない。
いちおう装備確認。
武器なし。厚着だけど仕込みはなさそう。青い肌に青い爪。頭からにょきっと生えるツノ。そしててやんでぃなしゃべり口調。
「まるでケイラックさんみたい」
「ケイラック?」
彼女が振り向いた。
瞳孔が開いていた。
「ケイラックと知り合いなの?」
「うん。あなたも知ってるの?」
何気ない質問。けど彼女は大きなリアクションだった。
「当たり前でしょ、知ってるも何も彼女は魔王の――あぁ、なるほど」
そして、彼女は納得したかのようにニヤリと笑った。
「ようこそ魔族の国カニスへ。歓迎するわ」
誘うようなしぐさで青い爪をクイクイさせた。
おんなの子からしてもめっちゃエロい。わたしは反射的にサンダーさんを見た。
「……なんだよ」
「べつに」
なーんか視線が下向きだったかなーって。
「じゃ、後は勝手にどうぞ」
「お、おい」
わたしたちとも建物とも背を向け、どこぞへ歩き去ってしまう彼女の背中を、さきほどまでイヤらしい目つきだったヤブ医者が声を投げかけた。
「どこ行くんだよ」
「帰る」
「帰るって、門番じゃねぇのか」
「言ったでしょ。通りたければ勝手にどうぞって。人間の文化、暮らし、制度なんて魔族にはどうでもいいの。魔王がそうしろって言うからそうしてるだけ。わかった? じゃーね」
言って、彼女は飛んだ。
翼なし。魔法を使った形跡もない。
驚きで口をあんぐりさせたお医者さんに対し、ドロちんは彼女の影を見送りつつ唇を開いた。
「魔族は生まれ持った能力をもつ。飛行、瞬間移動、精神干渉、物理的な能力。何ができるかは個々によるけどね」
「マジかよ」
「生まれ持った力にてヒエラルキーを形成するらしいが……魔族にとって、飛行能力は当たり前のものなのだろうか」
「かもね。ったく、こっちは苦労して習得しなきゃいけないってのに。行くわよ」
憎まれ口を漏らしつつ、ドロちんはさっさと門をくぐっていく。それにつられあんずちゃん、ブッちゃん、サンダーさんと続いていき、わたしはベリーちゃんの手をとって最後尾についた。
(あれ? でもなぁんか忘れてるような気が――あっ)
「おなまえ聞いてないじゃん」
どこか遠くで、トリさんたちがバカにしたような鳴き声を出した。
我らがパーティーは見事山頂に到着。キツい登山を終えあとは坂道を下るだけ。そう思っていたら意外と厳しい山下り。いちいち踏ん張らなきゃいけないし足をすべらせたら真っ逆さまだし、っていうか実際に転がり雪だるま作った感じ?
制作は他でもないグレースちゃんです。
「はい」
「はい、じゃないですわよまったくもう」
ルームメイトがツンデレ魔女っ子のポジションを奪いツッコミ役となる。なぜなら、ドロちんは坂を真っ逆さまに転げ落ちるわたしをジトーっとした目で見送っていたから。
ブッちゃんもおおむね同じ。ベリーちゃんは「いいの?」的な顔でみんなを見つめ、サンダーさんが「いいんだ」とナゾの包容力で答えていた。
あんずちゃんだけ親友の無事を案じ駆けつけてくれたのだ!
「バカですわね」
「ぐさぁ!」
へい! マイベストフレェーンズ!
「わざとでしょ」
「バレた?」
「足元がお留守な忍びなんていませんわよ。ほら立って」
イタズラっ子な親友を起こそうと、レベルアップ中の女騎士はまっしろな手を差し伸べた。
あんずちゃんの要望で、時折彼女の修行に付き合ってる。さいしょは一瞬で身体を拾八分割できそーなくらいヨワヨワだったけど、最近は一秒で三分割くらいしかできなくなってきた。
修行のたまものだね。その他、彼女はドロちん相手に対魔術師の訓練もしてる。はじめはめんどくさがってたドロちんも、最近はノリノリで「そこ! 油断しないでしっかりガードする!」などと地面から火柱を吹かせまくってます。迫りくる炎をどうガードすれば? などと疑問に思いつつ、わたしは魔法使いとだけは正面から相手しないと誓わせてもらいました。
「ありがと」
修練を積み重ねても、あんずちゃんの手はキレイなままだ。
「まったく。そのままクレパスに落ちたらどうするつもりでしたの?」
言って、ツリ目の騎士は親友が転がっていったさらに先を見る。そこには深い溝があり、中を覗きこむとひたすら真っ暗やみやみ空間が広がっていた。
「うーん、這い上がる?」
「時間かかりますわよ」
「そこは気合いと根性でどうにか」
「まったく……すこし、暖かくなってきましたわね」
後ろに複数の足音を感じつつ、ふたりの少女はクレパスから山々へと焦点を移していった。
木々はなくなだらかな高原が続いている。視界を覆っていた白が影に潜み、今は緑の山々が広く描写され、遠くには野ウサギのような影も見えた。そんな景色を見渡して、わたしたちはようやっと登山を終えたんだという実感に包まれていく。
「気が済んだ?」
うしろから鈴のようなツンツンボイス。振り返るとロリっ子魔術師の姿はなく、代わりにそれを覆い隠す壁がふたつあった。
「ケガは?」
「ヘーキだよ!」
いちおうって感じで尋ねる僧侶。わたしはサっちゃんがいつもやってたムキムキィ! ってポーズをした。スキル名はなんだったっけ、たしかダブルぅ……忘れちゃった。
「……」
対して、もうひとりの巨人はこちらではなく風景を見ていた。
ああ、そうか。ベリーちゃんはずっと雪山にいたんだっけ。この世界のことを何も知らない純真無垢、ぜんぶが初体験のピチピチ異世界人。
「ようこそ異世界へ!」
これからたくさんのドキドキが待ってるよ。
「それはコッチのセリフだぞ異世界人」
「むー! そういうことじゃないもんサンダーさんはだまってて!」
「お取り込み中のところ悪いんだけどさ」
やたらハスキーなボイスが耳に入ってきた。声質近いのはスプリットくんかなー、って。
(ん?)
だれ?
振り向いた。
見知らぬ人がいた。
「アンタら誰?」
「はだあお!」
肌青ッ!
「失礼なヤツだな」
女性はしかめっ面になった。
「で、アンタら誰?」
女は腰に手を当てた。
青い肌。
それより深く長い髪。
そしてまっくろなツノが頭の両サイドからこんにちは。
どー見ても魔族です。
「人間よね。ここ関所だけどこっちになんか用?」
「え?」
言われて気づく。わたしたちの背後にちょっとした木造建築があったことを。
戸口が開かれており、そこには履物を脱ぐ空間とわれわれジャパニーズがよく知るタタミが敷かれている。なんていうか、そのぉ……えどじだい? みたいな。
「用が無いならさっさと消えてほしいんだけど? こっちもヒマじゃないんでね」
彼女は黄色い瞳の目を細めた。寒いのか、衣装の露出は少なく、足元は雪山用っぽいクツでしっかりガードしてる。
「失礼した。我々は冒険者ギルドからの依頼で参ったものだ」
さっそく交渉役のブッちゃんがギルドカードを提示した。彼女はそれを一瞥し、また僧侶に視線を戻す。
「そんなの見せつけられたって何にもないよ」
「そんな! 通していただけないのですか?」
「ちがう」
ぶっきらぼうに背を向け、彼女は建物の前に設置されたテーブルをトントンと叩いた。
「通りたきゃ勝手に通ればいい。人間の仕組み? 知らねーけどそういうのに合わせてるだけで、こっちにとっちゃ関所なんてどーでもいいんだよ。ほら見ろ」
テーブルの上にあった冊子を掴みこちらに提示する。そこにはいろんなメッセージや落書きが描かれていて――なんだこれ。
「わーいイチバン乗り、みんなより早く山越え達成……危うく遭難しかけた。あのバケモノはなんだったのだろう? ……モン娘ハーレム目指して記念カキコ。なんですのこれ?」
「ああ、それ最近のだね」
戸惑いがちにあんずちゃんがそれらを読み上げ、女魔族は思い出すように視線を横にやる。
「ふざけた男がいたから、そいつだけはキツくお灸を据えてやったんだけどさ……人間ってのはこういうのが好きなのか?」
「ええ……まあ……たぶん」
あんずちゃん、ザ、玉虫色の回答。
「よくわかんないね。まぁそういうことだから、通りたきゃさっさと行きな」
「な? めんどくさい手続きいらなかったろ?」
「うむ、これほど簡単に通れるとは。カニスは思った以上に治安が良いのかもしれんな」
「バカね。そうする必要がないくらい余裕があるってことよ」
(ふーん)
そんなやりとりの間、わたしは青肌の女魔族を観察した。
警戒してる風でもない。
油断してる風でもない。
敵意はない。
いちおう装備確認。
武器なし。厚着だけど仕込みはなさそう。青い肌に青い爪。頭からにょきっと生えるツノ。そしててやんでぃなしゃべり口調。
「まるでケイラックさんみたい」
「ケイラック?」
彼女が振り向いた。
瞳孔が開いていた。
「ケイラックと知り合いなの?」
「うん。あなたも知ってるの?」
何気ない質問。けど彼女は大きなリアクションだった。
「当たり前でしょ、知ってるも何も彼女は魔王の――あぁ、なるほど」
そして、彼女は納得したかのようにニヤリと笑った。
「ようこそ魔族の国カニスへ。歓迎するわ」
誘うようなしぐさで青い爪をクイクイさせた。
おんなの子からしてもめっちゃエロい。わたしは反射的にサンダーさんを見た。
「……なんだよ」
「べつに」
なーんか視線が下向きだったかなーって。
「じゃ、後は勝手にどうぞ」
「お、おい」
わたしたちとも建物とも背を向け、どこぞへ歩き去ってしまう彼女の背中を、さきほどまでイヤらしい目つきだったヤブ医者が声を投げかけた。
「どこ行くんだよ」
「帰る」
「帰るって、門番じゃねぇのか」
「言ったでしょ。通りたければ勝手にどうぞって。人間の文化、暮らし、制度なんて魔族にはどうでもいいの。魔王がそうしろって言うからそうしてるだけ。わかった? じゃーね」
言って、彼女は飛んだ。
翼なし。魔法を使った形跡もない。
驚きで口をあんぐりさせたお医者さんに対し、ドロちんは彼女の影を見送りつつ唇を開いた。
「魔族は生まれ持った能力をもつ。飛行、瞬間移動、精神干渉、物理的な能力。何ができるかは個々によるけどね」
「マジかよ」
「生まれ持った力にてヒエラルキーを形成するらしいが……魔族にとって、飛行能力は当たり前のものなのだろうか」
「かもね。ったく、こっちは苦労して習得しなきゃいけないってのに。行くわよ」
憎まれ口を漏らしつつ、ドロちんはさっさと門をくぐっていく。それにつられあんずちゃん、ブッちゃん、サンダーさんと続いていき、わたしはベリーちゃんの手をとって最後尾についた。
(あれ? でもなぁんか忘れてるような気が――あっ)
「おなまえ聞いてないじゃん」
どこか遠くで、トリさんたちがバカにしたような鳴き声を出した。