残酷な描写あり
R-15
165 紹介
しばらくして、カイル以外の客が帰っていった。今はフォスターたち家族とカイルしかいない。両親はカウンターの向こう側にいるがフォスターたちはカウンターに横並びで座っている。リューナ、フォスター、カイルという並びだ。フォスターは早速カイルに告げた。
「じゃあ紹介するよ。俺の親父だ」
「?」
カイルが疑問を浮かべた眼差しでカウンターの向こうにいるジーニェルを見た。
「俺じゃない。本物のほうだ」
「? 本物って?」
「いいからこれ握ってみな」
フォスターは鉢巻きの端をカイルに握らせた。
『俺が本物のほうの親父だ』
「えっ!? 何だこの声!?」
カイルは出所不明の声にきょろきょろしている。やっぱりそういう反応になるよなあ、という表情にその場の全員がなっている。
「俺の死んだ親父。この帯……鉢巻きっていうんだけど、これに霊魂が宿ってるんだ」
「なんだそれ! 幽霊ってことだよな? すげえ! 親父さん、フォスターの友達のカイルです。よろしく!」
カイルが興奮気味に好奇の目で鉢巻きを見ている。
『やっぱりこういう奴だったか……』
「こういう奴って?」
「実験とかされそうって言ってたぞ」
「したい!」
カイルの紫の瞳が輝いている。
『お前……余計なこと言うな!』
ビスタークがフォスターに文句を言っているのを全く気にせずカイルが質問する。
「親父さんは何が出来るの?」
「人の身体に取り憑ける。動物にも取り憑けたらしいぞ。俺もよく寝てる間に取り憑かれる」
「すげえ! 俺も取り憑かれてみたい!」
「ええー……」
そう言った後、カイルはふと気付いたことを口にした。
「あ、前にあの知らない神衛と戦ったときって、もしかして親父さんだった?」
「お、よくわかったな。そうだよ」
「なんかあの時のお前様子がおかしかったもんな。納得したよ。すごい独り言多かったし」
「はは……」
様子がおかしかったと言われてフォスターは当時のことを思い出す。おそらく他の見ていた町民にもそう思われていたのだろうと考えるととても恥ずかしい。
『しかし率先して取り憑かれたいって反応は初めてだな。神官じゃねえからか? マフティロだって取り憑かれるのは渋々だったぞ』
「色んな人に取り憑いてるんだね。動物にも取り憑けるって言ってたけど、人形はどうなの?」
霊魂という普通ではない存在に対してカイルは全く物怖じせず遠慮なくビスタークに質問している。
『……死体にも取り憑けなかったから無理だと思うぞ』
「なんだ、残念」
「親父に何をさせる気だったんだ?」
「俺が作った道具に取り憑いてもらったら、何か便利な物が作れないかなと思って」
『コイツ……』
ビスタークは呆れたような声を出した。
「色々試させてよ。俺の身体使っていいからさ!」
『じゃあお前の身体で酒飲ませろ』
「いいよそのくらい。人並みには飲めるけど酒豪じゃないからそこは加減してね」
話がまとまったようだ。フォスターとしては自由な時間が増えそうでありがたい。
「それで、何か話があるっていうのは親父さんのことだったのか?」
「それもだけど……」
一度軽く息を吸い込んでから説明を始める。
「リューナは、悪い奴に狙われてるんだ」
これは嘘ではない。問題はここから先の説明だ。フォスターは嘘が苦手だ。すぐ顔に出てしまうため緊張してしまう。リューナが狙われている嘘の設定を頭に浮かべ口を開こうとしたときにビスタークが先に話してしまった。
『コイツの母方のじいさんが大金持ちでな、その遺産目当ての奴らに狙われてるんだ』
おそらくフォスターの言動で嘘がばれるのを危惧したのだろう。ビスタークに『お前は黙ってろ』と言われた気がした。
「ふーん……あ、あの神衛に襲われたのってそういうこと?」
『そうだ』
あの神衛とは町にやってきたヴァーリオのことである。今のカイルの言葉で襲われたときのことを思い出して怖がってしまうのでは、とカイルと反対側にいるリューナを振り返って様子をうかがう。しかしリューナはカイルの話など全く気にせずジーニェルから受け取った苺を嬉しそうに頬張っているところだった。
「美味しい~!」
「リューナのために慌てて畑へ買いに行ったんだ。好きなだけ食べるといい」
「ありがとう、お父さん!」
ジーニェルはここぞとばかりに愛娘を甘やかしている。帰ってきたことが嬉しくて堪らないらしく顔がとてもにやけていた。フォスターは真剣な話をしていたので少し呆れたがリューナが怯えたり泣くよりかはいいか、と考えてカイルのほうへ向き直した。
「だからリューナの警護がって言ってたのか」
「うん。一人にしたときに何かあったらと思うとな……」
もしそんなことがあったら後悔などという言葉では済まされない。
「実際、水の都や船で攫われかけたんだ。船のときは本当にヤバかった……。守護石を持ってたから助かったんだ」
当時のことを思い出すと背筋の凍る思いがする。守護石をくれたユヴィラに感謝である。
「守護石って聞いたことはあるけど、どんな石?」
「神様に助けてって祈ると襲った奴が弾き飛ばされる感じだったな。ポケットに入れておくだけで、触れなくても発動してた。一回使うと無くなっちゃうけど」
「へえー、そんな石があるんだ」
「もっと買えればいいんだけど、あんまり売ってないんだよな。何処にある町なのかも知らないし」
『あいつらの町のほうじゃねえのか』
「あー、そうかもな。だから持ってたんだろうし」
「あいつらって?」
「船で一緒の部屋に泊まったリューナと友達になった兄妹」
「ふーん」
「星の都と水の都の間あたりらしいから、これから行く方向とは逆なんだよな」
話が逸れてきたので元に戻した。
「で、その襲ってくる奴らなんだけど、操られてて正気じゃないんだ」
「あー……、前ここに来て自殺した人も正気になったら何も覚えてなかったって話だったもんな」
「……それも、本当は自殺じゃなかったんだよ」
「えっ?」
もう隠している意味が無いため詳細を話すことにした。
「あの後医者が来てたろ。そいつに殺されたんだ。口封じかなんかだと思う」
「……俺はその医者には会ったこと無いからよくわかんないけど、たしか、町の人たちみんな診察してもらってたんだよな?」
カイルは首を傾げている。
「うん。だからみんなに余計な心配させたくなくて本当のことは言えなかったんだ。診察に関しては普通だったみたいだから。……リューナ以外は」
「ってことは……その医者にも攫われそうになったのか?」
「ああ。しかも、そいつは操られてない。自分の意思でやってるんだ。後ろに誰か命令してる奴がいるみたいなんだけどな」
「それであの時あんなに慌ててたのか」
リューナが一人でザイステルのところへ行ってしまい、ヴァーリオが殺された後カイルのところへ寄り装備品一式を受け取ったときのことである。カイルは納得した様子で頷いている。
「医者のことは町の人たちには内緒な」
「ん、わかった。言っても信じてもらえないだろうしな」
医者が神の子だと確認するためリューナを殺しかけたことは言えない。
「水の大神官が味方になってくれて色々と手をまわしてくれたから、旅の道中は前より安全になったみたいなんだけど、まあ油断は出来ないからな。青いくせっ毛の髪の女の子を狙ってるみたいだからリューナは旅の間変装してるんだ」
「それ、母ちゃんから聞いたな。茶色い髪の毛のかつらを被るんだろ? なんかそれに合わせて服作るんだって母ちゃんが張り切ってた」
「リューナの変装姿ねえ。母さんにも後で見せてね」
「リューナは何着ても可愛いからな! 父さんも見たいな」
「うん、後でね。さっき話したヨマリーからもらった眼鏡もかけてるんだよー」
リューナは楽しそうに両親と話している。
「俺も見たいな……」
それを横目にか細い声でカイルが呟いたが誰にも聞かれることはなかった。
「じゃあ紹介するよ。俺の親父だ」
「?」
カイルが疑問を浮かべた眼差しでカウンターの向こうにいるジーニェルを見た。
「俺じゃない。本物のほうだ」
「? 本物って?」
「いいからこれ握ってみな」
フォスターは鉢巻きの端をカイルに握らせた。
『俺が本物のほうの親父だ』
「えっ!? 何だこの声!?」
カイルは出所不明の声にきょろきょろしている。やっぱりそういう反応になるよなあ、という表情にその場の全員がなっている。
「俺の死んだ親父。この帯……鉢巻きっていうんだけど、これに霊魂が宿ってるんだ」
「なんだそれ! 幽霊ってことだよな? すげえ! 親父さん、フォスターの友達のカイルです。よろしく!」
カイルが興奮気味に好奇の目で鉢巻きを見ている。
『やっぱりこういう奴だったか……』
「こういう奴って?」
「実験とかされそうって言ってたぞ」
「したい!」
カイルの紫の瞳が輝いている。
『お前……余計なこと言うな!』
ビスタークがフォスターに文句を言っているのを全く気にせずカイルが質問する。
「親父さんは何が出来るの?」
「人の身体に取り憑ける。動物にも取り憑けたらしいぞ。俺もよく寝てる間に取り憑かれる」
「すげえ! 俺も取り憑かれてみたい!」
「ええー……」
そう言った後、カイルはふと気付いたことを口にした。
「あ、前にあの知らない神衛と戦ったときって、もしかして親父さんだった?」
「お、よくわかったな。そうだよ」
「なんかあの時のお前様子がおかしかったもんな。納得したよ。すごい独り言多かったし」
「はは……」
様子がおかしかったと言われてフォスターは当時のことを思い出す。おそらく他の見ていた町民にもそう思われていたのだろうと考えるととても恥ずかしい。
『しかし率先して取り憑かれたいって反応は初めてだな。神官じゃねえからか? マフティロだって取り憑かれるのは渋々だったぞ』
「色んな人に取り憑いてるんだね。動物にも取り憑けるって言ってたけど、人形はどうなの?」
霊魂という普通ではない存在に対してカイルは全く物怖じせず遠慮なくビスタークに質問している。
『……死体にも取り憑けなかったから無理だと思うぞ』
「なんだ、残念」
「親父に何をさせる気だったんだ?」
「俺が作った道具に取り憑いてもらったら、何か便利な物が作れないかなと思って」
『コイツ……』
ビスタークは呆れたような声を出した。
「色々試させてよ。俺の身体使っていいからさ!」
『じゃあお前の身体で酒飲ませろ』
「いいよそのくらい。人並みには飲めるけど酒豪じゃないからそこは加減してね」
話がまとまったようだ。フォスターとしては自由な時間が増えそうでありがたい。
「それで、何か話があるっていうのは親父さんのことだったのか?」
「それもだけど……」
一度軽く息を吸い込んでから説明を始める。
「リューナは、悪い奴に狙われてるんだ」
これは嘘ではない。問題はここから先の説明だ。フォスターは嘘が苦手だ。すぐ顔に出てしまうため緊張してしまう。リューナが狙われている嘘の設定を頭に浮かべ口を開こうとしたときにビスタークが先に話してしまった。
『コイツの母方のじいさんが大金持ちでな、その遺産目当ての奴らに狙われてるんだ』
おそらくフォスターの言動で嘘がばれるのを危惧したのだろう。ビスタークに『お前は黙ってろ』と言われた気がした。
「ふーん……あ、あの神衛に襲われたのってそういうこと?」
『そうだ』
あの神衛とは町にやってきたヴァーリオのことである。今のカイルの言葉で襲われたときのことを思い出して怖がってしまうのでは、とカイルと反対側にいるリューナを振り返って様子をうかがう。しかしリューナはカイルの話など全く気にせずジーニェルから受け取った苺を嬉しそうに頬張っているところだった。
「美味しい~!」
「リューナのために慌てて畑へ買いに行ったんだ。好きなだけ食べるといい」
「ありがとう、お父さん!」
ジーニェルはここぞとばかりに愛娘を甘やかしている。帰ってきたことが嬉しくて堪らないらしく顔がとてもにやけていた。フォスターは真剣な話をしていたので少し呆れたがリューナが怯えたり泣くよりかはいいか、と考えてカイルのほうへ向き直した。
「だからリューナの警護がって言ってたのか」
「うん。一人にしたときに何かあったらと思うとな……」
もしそんなことがあったら後悔などという言葉では済まされない。
「実際、水の都や船で攫われかけたんだ。船のときは本当にヤバかった……。守護石を持ってたから助かったんだ」
当時のことを思い出すと背筋の凍る思いがする。守護石をくれたユヴィラに感謝である。
「守護石って聞いたことはあるけど、どんな石?」
「神様に助けてって祈ると襲った奴が弾き飛ばされる感じだったな。ポケットに入れておくだけで、触れなくても発動してた。一回使うと無くなっちゃうけど」
「へえー、そんな石があるんだ」
「もっと買えればいいんだけど、あんまり売ってないんだよな。何処にある町なのかも知らないし」
『あいつらの町のほうじゃねえのか』
「あー、そうかもな。だから持ってたんだろうし」
「あいつらって?」
「船で一緒の部屋に泊まったリューナと友達になった兄妹」
「ふーん」
「星の都と水の都の間あたりらしいから、これから行く方向とは逆なんだよな」
話が逸れてきたので元に戻した。
「で、その襲ってくる奴らなんだけど、操られてて正気じゃないんだ」
「あー……、前ここに来て自殺した人も正気になったら何も覚えてなかったって話だったもんな」
「……それも、本当は自殺じゃなかったんだよ」
「えっ?」
もう隠している意味が無いため詳細を話すことにした。
「あの後医者が来てたろ。そいつに殺されたんだ。口封じかなんかだと思う」
「……俺はその医者には会ったこと無いからよくわかんないけど、たしか、町の人たちみんな診察してもらってたんだよな?」
カイルは首を傾げている。
「うん。だからみんなに余計な心配させたくなくて本当のことは言えなかったんだ。診察に関しては普通だったみたいだから。……リューナ以外は」
「ってことは……その医者にも攫われそうになったのか?」
「ああ。しかも、そいつは操られてない。自分の意思でやってるんだ。後ろに誰か命令してる奴がいるみたいなんだけどな」
「それであの時あんなに慌ててたのか」
リューナが一人でザイステルのところへ行ってしまい、ヴァーリオが殺された後カイルのところへ寄り装備品一式を受け取ったときのことである。カイルは納得した様子で頷いている。
「医者のことは町の人たちには内緒な」
「ん、わかった。言っても信じてもらえないだろうしな」
医者が神の子だと確認するためリューナを殺しかけたことは言えない。
「水の大神官が味方になってくれて色々と手をまわしてくれたから、旅の道中は前より安全になったみたいなんだけど、まあ油断は出来ないからな。青いくせっ毛の髪の女の子を狙ってるみたいだからリューナは旅の間変装してるんだ」
「それ、母ちゃんから聞いたな。茶色い髪の毛のかつらを被るんだろ? なんかそれに合わせて服作るんだって母ちゃんが張り切ってた」
「リューナの変装姿ねえ。母さんにも後で見せてね」
「リューナは何着ても可愛いからな! 父さんも見たいな」
「うん、後でね。さっき話したヨマリーからもらった眼鏡もかけてるんだよー」
リューナは楽しそうに両親と話している。
「俺も見たいな……」
それを横目にか細い声でカイルが呟いたが誰にも聞かれることはなかった。