魔法少女ドロちん
関節技が得意なタイプ、ではありません
いかにも生意気そうなおこちゃまめ! おまえなんか別名ドロんこで決定だ。
「なにジロジロ見てんのよ」
「ひぃ!」
やべえ、このおこちゃま視線だけで人をヤれる目をしてやがるぜ!
「ウチの顔になんかついてる?」
「ううんなんでも」
睨む少女に背中ぞわぞわさせられつつ、わたしは口笛を吹いてごまかした。
ちなみに失敗した。
「なんですの、この無意味にピリついた空気は」
「アンタはあの時の」
ブッちゃんの影に隠れていた甲冑服に気づく。その装備者の顔を認め、少女は先日の記憶を思い出したようだ。
あんずちゃんも少女の視線に気づく。その時は当時は雇い主を丸焦げにされた立場だけあって、一瞬この場に微妙な雰囲気が立ち込めた。
「あら、あの時の魔法使いでしたわね」
「そういうアンタはブルームーンの用心棒ね。それで? ここで雇い主をとっちめた仕返しでもする?」
「それには及びませんわ。今は彼女のパートナーですもの」
彼女らのやりとりを目にして、黒人男性はやや目を見開き興味深げに眺めていた。
「どうやら積もる話がありそうだ。どこかに座ってゆっくり話すとしよう」
そんなブッちゃんの提案で、わたしたちは人がごった返すキャンプ地からやや離れて場所を確保した。
必要な薪だけもらい、あるいはそのヘンのを拾って使い、ドロシーちゃんの火の魔法でそれらに着火する。
(やっぱ魔法って便利だなぁ)
爛々と輝く赤を眺めながらわたしはそう思った。
ある石を擦ると火花が出て、それを細かく裁断した木材や枯れ草に散らす。そうするともくもく煙が立ち込めて、息を吹きかけ熱を広げていく。
この作業をするのにザッと数十分。オジサンはうまくやってたけど、湿気やらで一時間かかることもある。それが火の魔法いっぱつでこれ、たった数秒。
「ということは、ブーラーさんとドロシーさんはお知り合いなのですね」
「拙者もドロシーもこれといった旅団に所属せず、こうやって人とチームを結成して仕事をこなすほうが性に合っている」
あんずちゃんの尋ねに威圧感僧侶は頷き、ちんちくりん魔法使いはイヤそうな顔で答えた。
「ひとりのが楽ってだけよ」
「ふーん。じゃあドラちんはいつもひとりでモンスター退治とかノラ猫探しとかレストランのウェイトレスさんとかやってるの?」
「なにそのチョイスは……っていうかなにその呼び方。ウチはドロシーなんだけど?」
(うっ)
くそう、子どものクセに迫力ありすぎでしょ。
(いや、ここで負けちゃダメだ)
同じ火を囲んだのだからドロちんとわたしはもうオトモダチだ。かたっ苦しい呼びあいはナシにしよーぜドロちん!
「ドロちんは異世界に来て長いの?」
「だから何よそれ」
「拙者もドロシーも異世界に来て半年以上経つ」
「勝手に話進めないでくれる!?」
ドロちんが自分の身長より長い木の杖を差し出して猛抗議した。よしブッちゃんナイスパス! このまま流れでドロちん命名イベントをこなしちゃおう。
「へーそうなんだ! じゃあブッちゃんもドロちんもこのヘンで活動してるの?」
「いや、拙者はフラー周辺を拠点としているが、彼女はいろいろと町や村を巡っているようだ」
「見聞を広めるためよ。あとそのドロちんってのやめてくれる?」
「そういえばドロちん髪の毛黒くなかった?」
「だから! ――これが本来の髪の色よ」
ヤキモキした表情を見せつつわたしの質問に答えてくれた。よしもうひと息。
「へーえ! じゃあホントはキンキンピカピカなんだね!」
わたしは少女の黄金色に輝くそれを指さした。
赤い炎に照らされているせいか、それは白にも見えツヤのある銅にも見えて、もうとにかくいろんな色が生まれては消える。
光の乱反射がウェーブがかったショートヘアのなかで彩られていく。少女はすこし照れくさそうに魔法使いハットでそれを隠した。
「髪の毛も切りましたのね」
「だから、これが元々の髪だって言ってるの。なぜか知らないけど魔法を使うときだけ長くなるのよ」
「へー、ふしぎだね」
体質かな?
「ところでドロシー。このような時間になぜここにいる?」
「答える必要ないわ。アンタらは仕事に手間取って間に合わなかったんでしょうけど」
(うっ)
グサッ。
正解である。当てられたついでにドロちんのことも教えてほしいな。
「そういうドロちんこそなんで?」
「答える必要ないって言ってるでしょ」
「教えて! グレースちゃん気になります! あんずちゃんもそうでしょ!?」
「ぇえ? まあ、わたくしも気になりますわね」
「隠す必要もないだろう?」
「アンタらしつこいわね。まあ、べつにいいけど」
言って、ドロちんは懐からいくつかのお花を示して見せた。
「これよ」
「ほう、薬草か」
それを視界に収めてすぐブッちゃんが関心を示す。
「自称僧侶なだけあって知識はあるのね。これは傷口に塗る軟膏と、あとちょっとした毒の材料にもなるわ。あと――」
「どく!?」
まさかドラちんもあんさつしゃ!
「まずい、キャラが被る!」
「いったい何を言ってますのグレースさん?」
「ナニ勘違いしてるの?」
ドロちんが怪訝そうな顔でこちらを見つめる。
「これは魔法使いの集中を助ける薬のものよ」
「あ、なんだ」
安心した。するとこんどは好奇心が芽を出した。
「えむぴーかいふくみたいな?」
「その認識で問題ないわ。これと複数の材料を混ぜて抽出した薬は重宝するの」
なるほど、ドロちん魔法使いだもんね。
「なるほど、薬草集めに夢中になりすぎて閉門に間に合わなかったのか」
「どっちでも良かったのよ。野宿くらい慣れっこだし」
そんなことを口走りつつ、少女は立ち上がりテントから拝借してきた寝袋のひとつを広げた。
立っていてもなお、少女の背は座ったままのブッちゃんをギリギリ越えられない。そんな姿が若干かわいく見えて、わたしはだれに見られるでもなく口元がゆるんでしまう。
「アンタらも今のうちに準備しときなさいよ。まあ、そこの黒いのは自分のサイズに見合ったものが無いでしょうけどね」
「問題ない。拙者ならそのヘンでも寝られる」
「踏まれないように気をつけなさいよ、黒くて見えないんだから」
「……ほう」
言われたほうはやや声のトーンを押さえて、アゴに手を当てながら言葉を返した。
「ケンカを売られたかな?」
(あ、これ初対面のときと同じパターンだ)
気づけば、わたしの頭の中でゴングがなっていた。
「なにジロジロ見てんのよ」
「ひぃ!」
やべえ、このおこちゃま視線だけで人をヤれる目をしてやがるぜ!
「ウチの顔になんかついてる?」
「ううんなんでも」
睨む少女に背中ぞわぞわさせられつつ、わたしは口笛を吹いてごまかした。
ちなみに失敗した。
「なんですの、この無意味にピリついた空気は」
「アンタはあの時の」
ブッちゃんの影に隠れていた甲冑服に気づく。その装備者の顔を認め、少女は先日の記憶を思い出したようだ。
あんずちゃんも少女の視線に気づく。その時は当時は雇い主を丸焦げにされた立場だけあって、一瞬この場に微妙な雰囲気が立ち込めた。
「あら、あの時の魔法使いでしたわね」
「そういうアンタはブルームーンの用心棒ね。それで? ここで雇い主をとっちめた仕返しでもする?」
「それには及びませんわ。今は彼女のパートナーですもの」
彼女らのやりとりを目にして、黒人男性はやや目を見開き興味深げに眺めていた。
「どうやら積もる話がありそうだ。どこかに座ってゆっくり話すとしよう」
そんなブッちゃんの提案で、わたしたちは人がごった返すキャンプ地からやや離れて場所を確保した。
必要な薪だけもらい、あるいはそのヘンのを拾って使い、ドロシーちゃんの火の魔法でそれらに着火する。
(やっぱ魔法って便利だなぁ)
爛々と輝く赤を眺めながらわたしはそう思った。
ある石を擦ると火花が出て、それを細かく裁断した木材や枯れ草に散らす。そうするともくもく煙が立ち込めて、息を吹きかけ熱を広げていく。
この作業をするのにザッと数十分。オジサンはうまくやってたけど、湿気やらで一時間かかることもある。それが火の魔法いっぱつでこれ、たった数秒。
「ということは、ブーラーさんとドロシーさんはお知り合いなのですね」
「拙者もドロシーもこれといった旅団に所属せず、こうやって人とチームを結成して仕事をこなすほうが性に合っている」
あんずちゃんの尋ねに威圧感僧侶は頷き、ちんちくりん魔法使いはイヤそうな顔で答えた。
「ひとりのが楽ってだけよ」
「ふーん。じゃあドラちんはいつもひとりでモンスター退治とかノラ猫探しとかレストランのウェイトレスさんとかやってるの?」
「なにそのチョイスは……っていうかなにその呼び方。ウチはドロシーなんだけど?」
(うっ)
くそう、子どものクセに迫力ありすぎでしょ。
(いや、ここで負けちゃダメだ)
同じ火を囲んだのだからドロちんとわたしはもうオトモダチだ。かたっ苦しい呼びあいはナシにしよーぜドロちん!
「ドロちんは異世界に来て長いの?」
「だから何よそれ」
「拙者もドロシーも異世界に来て半年以上経つ」
「勝手に話進めないでくれる!?」
ドロちんが自分の身長より長い木の杖を差し出して猛抗議した。よしブッちゃんナイスパス! このまま流れでドロちん命名イベントをこなしちゃおう。
「へーそうなんだ! じゃあブッちゃんもドロちんもこのヘンで活動してるの?」
「いや、拙者はフラー周辺を拠点としているが、彼女はいろいろと町や村を巡っているようだ」
「見聞を広めるためよ。あとそのドロちんってのやめてくれる?」
「そういえばドロちん髪の毛黒くなかった?」
「だから! ――これが本来の髪の色よ」
ヤキモキした表情を見せつつわたしの質問に答えてくれた。よしもうひと息。
「へーえ! じゃあホントはキンキンピカピカなんだね!」
わたしは少女の黄金色に輝くそれを指さした。
赤い炎に照らされているせいか、それは白にも見えツヤのある銅にも見えて、もうとにかくいろんな色が生まれては消える。
光の乱反射がウェーブがかったショートヘアのなかで彩られていく。少女はすこし照れくさそうに魔法使いハットでそれを隠した。
「髪の毛も切りましたのね」
「だから、これが元々の髪だって言ってるの。なぜか知らないけど魔法を使うときだけ長くなるのよ」
「へー、ふしぎだね」
体質かな?
「ところでドロシー。このような時間になぜここにいる?」
「答える必要ないわ。アンタらは仕事に手間取って間に合わなかったんでしょうけど」
(うっ)
グサッ。
正解である。当てられたついでにドロちんのことも教えてほしいな。
「そういうドロちんこそなんで?」
「答える必要ないって言ってるでしょ」
「教えて! グレースちゃん気になります! あんずちゃんもそうでしょ!?」
「ぇえ? まあ、わたくしも気になりますわね」
「隠す必要もないだろう?」
「アンタらしつこいわね。まあ、べつにいいけど」
言って、ドロちんは懐からいくつかのお花を示して見せた。
「これよ」
「ほう、薬草か」
それを視界に収めてすぐブッちゃんが関心を示す。
「自称僧侶なだけあって知識はあるのね。これは傷口に塗る軟膏と、あとちょっとした毒の材料にもなるわ。あと――」
「どく!?」
まさかドラちんもあんさつしゃ!
「まずい、キャラが被る!」
「いったい何を言ってますのグレースさん?」
「ナニ勘違いしてるの?」
ドロちんが怪訝そうな顔でこちらを見つめる。
「これは魔法使いの集中を助ける薬のものよ」
「あ、なんだ」
安心した。するとこんどは好奇心が芽を出した。
「えむぴーかいふくみたいな?」
「その認識で問題ないわ。これと複数の材料を混ぜて抽出した薬は重宝するの」
なるほど、ドロちん魔法使いだもんね。
「なるほど、薬草集めに夢中になりすぎて閉門に間に合わなかったのか」
「どっちでも良かったのよ。野宿くらい慣れっこだし」
そんなことを口走りつつ、少女は立ち上がりテントから拝借してきた寝袋のひとつを広げた。
立っていてもなお、少女の背は座ったままのブッちゃんをギリギリ越えられない。そんな姿が若干かわいく見えて、わたしはだれに見られるでもなく口元がゆるんでしまう。
「アンタらも今のうちに準備しときなさいよ。まあ、そこの黒いのは自分のサイズに見合ったものが無いでしょうけどね」
「問題ない。拙者ならそのヘンでも寝られる」
「踏まれないように気をつけなさいよ、黒くて見えないんだから」
「……ほう」
言われたほうはやや声のトーンを押さえて、アゴに手を当てながら言葉を返した。
「ケンカを売られたかな?」
(あ、これ初対面のときと同じパターンだ)
気づけば、わたしの頭の中でゴングがなっていた。