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作者: 犬物語
しろとくろ
おたがいそんなつもりじゃないの
 星空は満点です。

 あちこちで篝火が映えてます。

 酒呑み交わしてどんちゃんしてるヤローどももいます。

 で、こっちとそっち、ふたりの間では火花がピリピリしてます。

(おーなつかしー)

 スプリットくんとサっちゃんがいつもやってたヤツだ。

 あのときはグウェンちゃんが心配そうに見つめる中ビーちゃんが「気が済むまでやらせとけ」って済ましたお顔。ふたりとも言いたいこと言い切ったタイミングでオジサンが切り上げるまでが様式美だった。

 じゃあわたしはナニしてたって? そりゃあもうやる事ぁひとつっしょ。

(いーぞもっとやれー)

 かんっぜんな野次馬である。

「ドロシー。以前から考えていたが、おぬしは人と交流することが苦手のようだな」

「馴れ合うのがメンドウってだけよ」

「いいやそうは思わん。お主はまだ子どもだ」

「とっくに成人してるわよ!!」

(えっマジで?)

 見た目めっさクソガキだけど? 以前いたパーティーのクソガキ担当より見た目お子ちゃまだけど?

(スプリットくんはあー見えて身長高かったからなぁ)

「中身の話だ。その胸中には不安と葛藤が渦巻いているだろう? 初めて出会ったお主の目は拙者に助けを求めていた」

「黙れクロンボ!!」

「ッ!!」

(お?)

 ふたりの空気がさらに張り詰めたぞ?

「コーヒー豆! 日焼け最上級! 石炭! 木炭! 黒焦げカラス! 地味な石ころ!」

「ほ、ほ、ほ、ほう! それを言うかたわけが!!」

(ブッちゃんがカラスじゃなくてフクロウみたいな声だしてる)

 まっくろな顔にやや赤みがさした。いやそれでも黒いけど。

「焦げずともカラスは黒い! そもそもカラスは神聖な鳥類であり黒い宝石は世界的に貴重で高価なのだぞ!」

「宝石はそうでしょうね、でもアンタはただの汚れた生肉でしょ!」

「なまにく!」

 どこ!?

「グレースさんなんてワードに反応するのですか……」

 となりのひとが甲冑を外した姿で呆れていた。仕方ないじゃん? だってお夕飯にしようとおもってたおにくが消えちゃったんだもん。

「黒いんだから地面に埋まっててもわからないんじゃない?」

「ふん! 白はどこにいても汚れ・・がバレるな!」

「はぁっ!?」

 ドロちんの肌を指差し彼は言った。少女の肌はこの場にいるだれよりも白く、まるで雪のように透明でツヤツヤしていた。

 そんな白い柔肌にひとつ茶色いラインがある。おそらく薬草採りをしていた際につけただろうその汚れを指摘され、ドロちんは眉間にシワを寄せ高らかに叫んだ。

「そんなの関係ないでしょ! このまっくろくろすけ!」

(ブふぅ!)

 まっくろくろすけって、それ悪態のつもりで言ってるの? ドロちんの見た目も相まってやんちゃな女の子がパパに甘えてるように見えた。

「あ、あのグレースさん? 止めなくてよろしいの?」

「どうして?」

「どうしてって、だってケンカはよくありませんわ」

「ケンカじゃないでしょ」

 わたしの言葉に、あんずちゃんは口をもごもごさせ手をワナワナさせた。そんなやりとりの中でもふたりはしっかり導火線に火をつけております。っていうか爆発中?

「その肌の色のように白くありたいならもう少し他者に迎合したらどうだ!?」

「そういうアンタはそのマックロな色みたいに何色にも染まらない生き方を考えなさいよ!」

「他者の色に染まることを恐れたままの童に説教されたくないわ!」

「大人だっつってんでしょこのクロンボ!」

「まだ言うか! この色はすべてを受容して漆黒に染まったのだ! この色にはすべてが内包されているのだ!」

「カッコイイ言い方したって一緒よこのクロンボ!」

「あーまた言った!」

(……ブッちゃん、なんか子どもじみてきてない?)

 そして互いににらみ合いのターンにはいった。スプリットくんとサっちゃんの場合、このままほっとくと拳で語り合うシーンへスキップするのですが、だいたいスプリットくんが捕まっておしりペンペンされるヤツ。

 どっちも言いたいこと言い尽くした感じだし、オジサンだったらこのヘンでお開きにするかな。

(じゃ、試合終了宣言しますか)

「んもう、色とかカンケーないじゃんなに熱くなってんの」

「アンタは黙ってて!」

「これは尊厳の問題だ!」

(えっ)

 はいはい口ゲンカしゅーりょー切り上げましょうねと。そんな感じでふたりの間に割って入ってみたら、なんかふたりに睨まれました。

「こんな脱色したガキに好き勝手言われたままでたまるか!」

 ブッちゃんがより顔を赤黒く高揚させ、ドロちんも目に見えて顔が赤くなっている。

 あれ試合終了できないパターン? はじめて見たよこれ。

「脱色じゃないわよもともとこのカラーリングよ!」

「それはこっちも同じだ!」

「まっくろ!」

「色なし!」

(あっれれーおかしーぞぉ?)

 オジサンだったら今のひとことで終わらせられたはずなんだけどなー。

「ふ、ふたりとも落ち着いてくださいな!」

 あんずちゃんが物理的に割って入る。それぞれの胸に手を添え両者の視界に自分が入ることになった。

「あまり騒がないでください! ほら、みなさんも不審がっているでしょう」

 あんずちゃんの指摘にあたりを見渡してみると、人だかりと言わないレベルでギャラリーが集まっていた。

 何事かとこちらを伺うもの、酒のつまみにニヤニヤするもの、なかにはちらっと衛兵らしき姿まである。あーこりゃアカンわ。

「ケンカなんてしないでくださいまし」

「べつに、ウチはケンカのつもりじゃ……」

(いやケンカでしょ)

 とは言えない空気だねぇ。

「う、うむ」

 ブッちゃんはバツが悪いようにその場に立ちすくみ、考えるような素振りでアゴに指を添えた。

 静けさが戻ったのはいいことだけど、こんどはギャラリーの視線が口論を止めた張本人のほうへ向く。それを意識した少女はみるみる顔を紅潮させていった。

「はうっ!」

 が、次の瞬間気の抜けたような表情をつくり、右手を胸に当てる。額にはうっすらと光るものが見えた。

「きゅ、急に胸が痛くなってきましたわぁ」

「あんず殿!」

 そしてフラフラと膝から崩れ落ちてしまう。これにはさすがのおふたりも少女を気遣って助け舟を差し出し、先ほどまで高まっていた熱がいっきに冷めていくのを感じた。
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