さくら
彼女はこの世界のヒミツに気づいてる
(んー、なんか掴みどこのない人だなー)
目の前でいきなりマジックを披露したり、それに失敗してお茶をこぼして掃除させたり。
ナゾの実力者っぽい雰囲気かましてた受け付けのにーちゃんも、今はうれしそうな様子で雑巾を持ちながら地面を拭き上げている。
(なんだこれは)
新手のプレイか?
「あー!」
だれかが叫んだ。いやわたしなんだけど。
なんでかってと、ずっと頭のなかでぐるぐるしてた問題がいま解決したから。
「思い出した、さくらだ!」
「……ああ」
驚きに目をパリくりさせる旅団団長、さくら。突然目の前の暗殺者が忍べない声をあげたのだから当然の反応と言える。
自分の名前が跳び出したことに少し眉を上げ、そのことを思い出し腑に落ちたように頬杖をついた。
「そういえば名前を教えてたな。アンタの名前は知らないけど」
(そうだったっけ?)
そんじゃ、まずは自己紹介からだね。
「わたしはグレース。オトモダチになろ!」
言ってシェイクの姿勢。お知り合いになった後はおててのシワとシワを合わせて「よろしくぅ!」だよね?
「……」
(むむむ?)
さくらは反応しない。いや、正確にはこっちが差し出した手をチラッと一瞥して「だからなに?」みたいな反応。
(おのれ一匹狼さんタイプか)
馴れ合わねーぜ! みたいな。近寄るな雰囲気むんむんだけどそんくらいじゃグレースちゃん怖気ないからね!
「はいよろしくぅ!」
シュバッ。
こちら側にある頬杖と逆の手。わたしは差し出した自分の手を軌道修正してそれを掴もうと伸ばした。
したんだけど。
「おい」
「ファッ!?」
(かわされた!)
そんなバカな。今までこの"お前がオトモダチになるんだよ! 拳"を破った猛者はいなかったというのに。
「さわんな」
(視線のブリザード!)
効果はバツグンだ!
(ぐぬぬ、こいつぁ強敵だぜ)
いやしかし! めげるなグレースちゃん! 今までだってたくさんの人とオトモダチになってきたじゃないか!
(思い出すんだ。あの時やった一日一万回感謝のシェイクハンドを!)
だが落ち着け。このボスは握手断固拒否拳を習得してる。生半可なフィストバンプじゃこっちがケガするぜ。
ならまずは、互いの距離を埋めることからはじめよう。
「ねえねえオトモダチになろーよ」
「うるさい」
(ぐっ……で、でもめげないもん)
「いいじゃんいーじゃん減るもんじゃないし。ねえまずは結婚を前提としたお付き合いからお願いします!」
「ハードル高くありません?」
うしろの女騎士がつぶやいた。
「今なら一日三回のハグ付きだよ?」
「いらねー」
うしろの女魔術師がつぶやいた。
「ねえほんとお願い! このとーり! 月謝払うから!」
「お友達とは」
うしろの男僧侶がつぶやいた。
「……」
そしてこの女旅団長はガン無視である。さっきからずぅーっと明後日の方向に視線。極めつけは、まるで昼寝をしてたら急に抱きつかれたうざってーなぁみたいなため息。
希望がまるでない? いや。
(ちょっと光明が見えたぞ)
チラ見である。これまでのそっけないスタイルから唐突なクラスチェンジに胸が熱くなってきた。
「ほんとは仲良く遊びたいんでしょ? じゃあオトモダチになろーよ!」
再度シェイクの意思表示。彼女は差し出された手を見て、それからこっちの瞳を覗き込み、呆れでも迷惑でもないような鼻息を漏らした。
「こいつあかりよりうるさいかも」
「え? なに?」
「なんでも」
言いつつ手を引っ込めてしまう。おのれ、異世界人はツンツンしかいないのか?
次なる手を考案中のとこ、それまで床を拭いていた忠実なる受付マンが朗らかな笑い声をあげた。
「握手くらいいーじゃないか。新人歓迎も団長としての役割だろう?」
下からの声に、団長は心底イヤそうな表情をつくった。
「おまえが勝手に団長に仕立て上げたんだろ」
「だれも文句言わなかったよ」
「おれが文句あるんだっつーの……ああもう」
「え?」
目の前に手がある。わたしのじゃない。彼女のだ。
「…………よろしく」
その手から腕へ、肩から頬へ。その色はすこし赤くなっているように見える。
真正面ではなくややナナメ。艷やかな黒髪が耳を隠し、その横顔は一枚の絵にさえなる。
決して視線を合わせない。顔も合わせない。まだ心を許してないという意思表示。だけどほんとうは受け入れたくて、仲良くなりたくて、その気持ちをうまく伝えられない。
そんな、いろんな感情が入り交じる少女の姿がここにあった。
(やっべ)
破壊力バツグンなんだけど?
こころキュンキュンしちゃったんだけど?
「~~~~~~~~ッッッッッッッ!!!」
だめ、ガマンできない。
「さくら!!」
「なぁッ!!」
差し出された手を両手でキャッチし、わたしは彼女との身体的距離を最大限接近させた。
密着である。でもって両手ブンブンである。
「よろしく! よろしくぅ!」
「わかった、わかったから落ち着け!」
ガタンという音と共にテーブルが昇天したけどそれは大した問題ではないのだ。
友情を深めるほうが大事なのだ。そのための尊い犠牲なのだ。
「うーん、さすがにコレは面倒だなぁ」
地面に投げ出されたティーカップを長め、ダッシュは引きつった笑顔をうかべた。
目の前でいきなりマジックを披露したり、それに失敗してお茶をこぼして掃除させたり。
ナゾの実力者っぽい雰囲気かましてた受け付けのにーちゃんも、今はうれしそうな様子で雑巾を持ちながら地面を拭き上げている。
(なんだこれは)
新手のプレイか?
「あー!」
だれかが叫んだ。いやわたしなんだけど。
なんでかってと、ずっと頭のなかでぐるぐるしてた問題がいま解決したから。
「思い出した、さくらだ!」
「……ああ」
驚きに目をパリくりさせる旅団団長、さくら。突然目の前の暗殺者が忍べない声をあげたのだから当然の反応と言える。
自分の名前が跳び出したことに少し眉を上げ、そのことを思い出し腑に落ちたように頬杖をついた。
「そういえば名前を教えてたな。アンタの名前は知らないけど」
(そうだったっけ?)
そんじゃ、まずは自己紹介からだね。
「わたしはグレース。オトモダチになろ!」
言ってシェイクの姿勢。お知り合いになった後はおててのシワとシワを合わせて「よろしくぅ!」だよね?
「……」
(むむむ?)
さくらは反応しない。いや、正確にはこっちが差し出した手をチラッと一瞥して「だからなに?」みたいな反応。
(おのれ一匹狼さんタイプか)
馴れ合わねーぜ! みたいな。近寄るな雰囲気むんむんだけどそんくらいじゃグレースちゃん怖気ないからね!
「はいよろしくぅ!」
シュバッ。
こちら側にある頬杖と逆の手。わたしは差し出した自分の手を軌道修正してそれを掴もうと伸ばした。
したんだけど。
「おい」
「ファッ!?」
(かわされた!)
そんなバカな。今までこの"お前がオトモダチになるんだよ! 拳"を破った猛者はいなかったというのに。
「さわんな」
(視線のブリザード!)
効果はバツグンだ!
(ぐぬぬ、こいつぁ強敵だぜ)
いやしかし! めげるなグレースちゃん! 今までだってたくさんの人とオトモダチになってきたじゃないか!
(思い出すんだ。あの時やった一日一万回感謝のシェイクハンドを!)
だが落ち着け。このボスは握手断固拒否拳を習得してる。生半可なフィストバンプじゃこっちがケガするぜ。
ならまずは、互いの距離を埋めることからはじめよう。
「ねえねえオトモダチになろーよ」
「うるさい」
(ぐっ……で、でもめげないもん)
「いいじゃんいーじゃん減るもんじゃないし。ねえまずは結婚を前提としたお付き合いからお願いします!」
「ハードル高くありません?」
うしろの女騎士がつぶやいた。
「今なら一日三回のハグ付きだよ?」
「いらねー」
うしろの女魔術師がつぶやいた。
「ねえほんとお願い! このとーり! 月謝払うから!」
「お友達とは」
うしろの男僧侶がつぶやいた。
「……」
そしてこの女旅団長はガン無視である。さっきからずぅーっと明後日の方向に視線。極めつけは、まるで昼寝をしてたら急に抱きつかれたうざってーなぁみたいなため息。
希望がまるでない? いや。
(ちょっと光明が見えたぞ)
チラ見である。これまでのそっけないスタイルから唐突なクラスチェンジに胸が熱くなってきた。
「ほんとは仲良く遊びたいんでしょ? じゃあオトモダチになろーよ!」
再度シェイクの意思表示。彼女は差し出された手を見て、それからこっちの瞳を覗き込み、呆れでも迷惑でもないような鼻息を漏らした。
「こいつあかりよりうるさいかも」
「え? なに?」
「なんでも」
言いつつ手を引っ込めてしまう。おのれ、異世界人はツンツンしかいないのか?
次なる手を考案中のとこ、それまで床を拭いていた忠実なる受付マンが朗らかな笑い声をあげた。
「握手くらいいーじゃないか。新人歓迎も団長としての役割だろう?」
下からの声に、団長は心底イヤそうな表情をつくった。
「おまえが勝手に団長に仕立て上げたんだろ」
「だれも文句言わなかったよ」
「おれが文句あるんだっつーの……ああもう」
「え?」
目の前に手がある。わたしのじゃない。彼女のだ。
「…………よろしく」
その手から腕へ、肩から頬へ。その色はすこし赤くなっているように見える。
真正面ではなくややナナメ。艷やかな黒髪が耳を隠し、その横顔は一枚の絵にさえなる。
決して視線を合わせない。顔も合わせない。まだ心を許してないという意思表示。だけどほんとうは受け入れたくて、仲良くなりたくて、その気持ちをうまく伝えられない。
そんな、いろんな感情が入り交じる少女の姿がここにあった。
(やっべ)
破壊力バツグンなんだけど?
こころキュンキュンしちゃったんだけど?
「~~~~~~~~ッッッッッッッ!!!」
だめ、ガマンできない。
「さくら!!」
「なぁッ!!」
差し出された手を両手でキャッチし、わたしは彼女との身体的距離を最大限接近させた。
密着である。でもって両手ブンブンである。
「よろしく! よろしくぅ!」
「わかった、わかったから落ち着け!」
ガタンという音と共にテーブルが昇天したけどそれは大した問題ではないのだ。
友情を深めるほうが大事なのだ。そのための尊い犠牲なのだ。
「うーん、さすがにコレは面倒だなぁ」
地面に投げ出されたティーカップを長め、ダッシュは引きつった笑顔をうかべた。