コンクルージョン
世界観をほんのり追加
「んもう! 今日はずっと晴れだって言ってたじゃん」
ザーザー降りの雨にかけ足で帰途につき、とりあえず口頭で依頼完遂を報告して濡れた服を絞ってパタパタする。
「ふむ、フラーにしては珍しいな」
などと言いつつ、ブッちゃんは全身ズブ濡れのデバフを味わっております。こっちは革製の服なのでさほどダメージはない、いや濡れたらけっこうな臭いを発するので早々に乾かしたいでござる。
ドロちんも悪態をつきながら簡易な風系魔法? みたいなのでぴゅーぴゅー乾かしてる。
(魔法ってべんりだなぁ)
読書すればちょっとは覚えられるかも? という発想はすでにゴミ箱送りです。で、我がパーティーのもうひとりはというと?
「うぅぅ……蒸し蒸ししますわぁ」
(金属鎧の内側はサウナっと)
何に役立つか知らんけどインプット完了。そんなことを思いつつ、わたしは窓から天高くを眺めてみた。
まっくろー。これは今日中ずっと雨ざらしになるなぁ。
木造建築に雨が叩きつけられる音。外で作業していた人の数が少なくなり、そーいや土壁のおうちって水耐性あるの? なんて感想を覚え始めたころ、我らがロリ魔術師が不信と抗議の意図を込めたことばを誰かしらに叩きつけた。
「あたらしい依頼ですって?」
その視線はだんご頭の受け付けマンに向かってる。彼の定位置であるテーブルは空になっていて、数あるテーブルのひとつを占有してる我らがパーティの前までわざわざ歩ってきたわけです。
帰宅そうそうにニューリクエストっすか?
「そんな顔しないで、とりあえず話だけ聞いてくれない?」
めっちゃふっきげんなツンツン少女に冷や汗もののダッシュ。これは男子がわるい。話しかけるにしても相手やタイミングってものがあるじゃない?
「後にしてくださる? できれば暖炉に当たりたいのですが?」
鎧をすべて地面に放りだした淑女が額に汗かき訴えた。金属鎧の内側に秘めた肉体が解き放たれ、ほのかに甘い香りが立ち込めている。
いまのあんずちゃんは男子にとってうれしはずかしな下着姿です。そんなあですがた? に目のやり場を失いつつ、仕事をオファーしてきただんこ頭は指で頬をポリポリ掻いた。
「あー、そうしたいんだけど特別な依頼でね」
「どんな?」
比較的被害がかるい自分が名乗りを上げてみる。
「我らが団長直々の依頼でね。ちょっと遠出してほしいんだ」
差し出された紙を受け取ってその内容を確認する。
「えーっとなになに? ……え?」
わたしは目を疑った。
「どゆこと?」
「そのままの意味だよ」
はじめの依頼について語る時と同じ調子で、彼は答えた。
「アイン・マラハはじめ、今クー・タオのあちこちできな臭い香りが立ち込めていてね――旅団コンクルージョンはあちこちに支部があり、それぞれ独自の情報網を張り巡らせている」
彼の目は閉じているかのように薄い。けど今だけは、彼の視線がしっかりこちらに向いていると感じた。
「北方のラズボイ、東のフラッツ・スワンもなんか怪しい。おまけに、近頃は魔族まで活発になってる」
(魔族……ケイラックさんみたいな人たちのことだよね)
「グレース?」
そんな思いにぼやぁっとしてるところ現実に引き戻される。
「おおぅ」
わたしは正気に戻った。そして彼は説明をつづけた。
「正直なとこ、この先戦争になる可能性が高い」
「えっ」
「現王はもうその時が近い。となると第一王子のレシルが国を牛耳ることになるが、彼はどういうわけか戦争が大好きらしい。ラズボイとの関係を考えればすでに答え合わせできてるね」
そして、彼はこう締めくくった。
「時間の問題だ」
(それは)
つまり。
戦争が起こるということ。
イヤだ。
ダメだ。
「それはダメだよ!」
突然目の前で大きな声をあげられ、こんどはダッシュが面食らった顔をした。
「みんないい人ばかりだよ? なんで? オジサンだってスパイクだってみんないい人だよ?」
戦争なんて苦しいだけじゃん! 痛いだけじゃん! 自分が生きるためでもないまったく無駄なことのはずなのに、なんで――。
(なんで、エラい人たちは戦争をしたがるの?)
「グレース、どうしましたの?」
突然の大声に驚いたのはダッシュだけじゃなかった。
あんずちゃんが心配した表情で尋ね、ブッちゃんやドロちんも気遣いと好奇心が入り混じった視線を向けている。それにやさしい笑顔を向けたダッシュは、注目を浴びる手前声を抑え、改めて依頼の内容を説明しはじめた。
「ボクたちだって同じ思いだ。戦争なんて無益な行為はしたくない。ボクたち異世界人はこの世界の住人より身体能力に秀でていて、独自のスキルをもつことはキミも知っているだろう?」
知ってる。
基礎ステータス的な話でいえばわたしたちはかなり強い。たとえば、旅館で働くチコちゃんはやさしい性格をしていた。けど、たぶん旅館のみんなと腕相撲したらいちばんになってると思う。
もちろん、ちゃんと鍛えたりしないと伸びてかないけし、それはこの世界の住人だっていっしょだ。サっちゃんが働いてたあの鉱山にいた人たちならチコちゃんやバーテンダーのスティさんを余裕であしらえるだろうし、オジサンのようにずっと鍛えてた人にはぜんぜん敵わない。
(たぶん、本気を出したらわたしとスプリットくんが束になっても勝てないと思う)
結局本気を出させられなかったなぁ。
「異世界人は強い。だから戦争の道具にされるだろうし、いま普通に生活してる異世界人も戦争に駆り出されるかもしれない」
「そんなのぜったいヤダ!!」
「わかってるって」
ダッシュは呆れた笑いをうかべた。
「そのためのコンクルージョンさ。戦争に加担しない。それだけじゃなく戦争を回避するための行動をとる。そしてここからが本題だ」
やや青みがかった髪色の青年は、うっすら閉じていた目を見開きまっすぐにこちらを見据えた。
「キミたちに魔族の土地へ行ってもらいたいんだ」
ザーザー降りの雨にかけ足で帰途につき、とりあえず口頭で依頼完遂を報告して濡れた服を絞ってパタパタする。
「ふむ、フラーにしては珍しいな」
などと言いつつ、ブッちゃんは全身ズブ濡れのデバフを味わっております。こっちは革製の服なのでさほどダメージはない、いや濡れたらけっこうな臭いを発するので早々に乾かしたいでござる。
ドロちんも悪態をつきながら簡易な風系魔法? みたいなのでぴゅーぴゅー乾かしてる。
(魔法ってべんりだなぁ)
読書すればちょっとは覚えられるかも? という発想はすでにゴミ箱送りです。で、我がパーティーのもうひとりはというと?
「うぅぅ……蒸し蒸ししますわぁ」
(金属鎧の内側はサウナっと)
何に役立つか知らんけどインプット完了。そんなことを思いつつ、わたしは窓から天高くを眺めてみた。
まっくろー。これは今日中ずっと雨ざらしになるなぁ。
木造建築に雨が叩きつけられる音。外で作業していた人の数が少なくなり、そーいや土壁のおうちって水耐性あるの? なんて感想を覚え始めたころ、我らがロリ魔術師が不信と抗議の意図を込めたことばを誰かしらに叩きつけた。
「あたらしい依頼ですって?」
その視線はだんご頭の受け付けマンに向かってる。彼の定位置であるテーブルは空になっていて、数あるテーブルのひとつを占有してる我らがパーティの前までわざわざ歩ってきたわけです。
帰宅そうそうにニューリクエストっすか?
「そんな顔しないで、とりあえず話だけ聞いてくれない?」
めっちゃふっきげんなツンツン少女に冷や汗もののダッシュ。これは男子がわるい。話しかけるにしても相手やタイミングってものがあるじゃない?
「後にしてくださる? できれば暖炉に当たりたいのですが?」
鎧をすべて地面に放りだした淑女が額に汗かき訴えた。金属鎧の内側に秘めた肉体が解き放たれ、ほのかに甘い香りが立ち込めている。
いまのあんずちゃんは男子にとってうれしはずかしな下着姿です。そんなあですがた? に目のやり場を失いつつ、仕事をオファーしてきただんこ頭は指で頬をポリポリ掻いた。
「あー、そうしたいんだけど特別な依頼でね」
「どんな?」
比較的被害がかるい自分が名乗りを上げてみる。
「我らが団長直々の依頼でね。ちょっと遠出してほしいんだ」
差し出された紙を受け取ってその内容を確認する。
「えーっとなになに? ……え?」
わたしは目を疑った。
「どゆこと?」
「そのままの意味だよ」
はじめの依頼について語る時と同じ調子で、彼は答えた。
「アイン・マラハはじめ、今クー・タオのあちこちできな臭い香りが立ち込めていてね――旅団コンクルージョンはあちこちに支部があり、それぞれ独自の情報網を張り巡らせている」
彼の目は閉じているかのように薄い。けど今だけは、彼の視線がしっかりこちらに向いていると感じた。
「北方のラズボイ、東のフラッツ・スワンもなんか怪しい。おまけに、近頃は魔族まで活発になってる」
(魔族……ケイラックさんみたいな人たちのことだよね)
「グレース?」
そんな思いにぼやぁっとしてるところ現実に引き戻される。
「おおぅ」
わたしは正気に戻った。そして彼は説明をつづけた。
「正直なとこ、この先戦争になる可能性が高い」
「えっ」
「現王はもうその時が近い。となると第一王子のレシルが国を牛耳ることになるが、彼はどういうわけか戦争が大好きらしい。ラズボイとの関係を考えればすでに答え合わせできてるね」
そして、彼はこう締めくくった。
「時間の問題だ」
(それは)
つまり。
戦争が起こるということ。
イヤだ。
ダメだ。
「それはダメだよ!」
突然目の前で大きな声をあげられ、こんどはダッシュが面食らった顔をした。
「みんないい人ばかりだよ? なんで? オジサンだってスパイクだってみんないい人だよ?」
戦争なんて苦しいだけじゃん! 痛いだけじゃん! 自分が生きるためでもないまったく無駄なことのはずなのに、なんで――。
(なんで、エラい人たちは戦争をしたがるの?)
「グレース、どうしましたの?」
突然の大声に驚いたのはダッシュだけじゃなかった。
あんずちゃんが心配した表情で尋ね、ブッちゃんやドロちんも気遣いと好奇心が入り混じった視線を向けている。それにやさしい笑顔を向けたダッシュは、注目を浴びる手前声を抑え、改めて依頼の内容を説明しはじめた。
「ボクたちだって同じ思いだ。戦争なんて無益な行為はしたくない。ボクたち異世界人はこの世界の住人より身体能力に秀でていて、独自のスキルをもつことはキミも知っているだろう?」
知ってる。
基礎ステータス的な話でいえばわたしたちはかなり強い。たとえば、旅館で働くチコちゃんはやさしい性格をしていた。けど、たぶん旅館のみんなと腕相撲したらいちばんになってると思う。
もちろん、ちゃんと鍛えたりしないと伸びてかないけし、それはこの世界の住人だっていっしょだ。サっちゃんが働いてたあの鉱山にいた人たちならチコちゃんやバーテンダーのスティさんを余裕であしらえるだろうし、オジサンのようにずっと鍛えてた人にはぜんぜん敵わない。
(たぶん、本気を出したらわたしとスプリットくんが束になっても勝てないと思う)
結局本気を出させられなかったなぁ。
「異世界人は強い。だから戦争の道具にされるだろうし、いま普通に生活してる異世界人も戦争に駆り出されるかもしれない」
「そんなのぜったいヤダ!!」
「わかってるって」
ダッシュは呆れた笑いをうかべた。
「そのためのコンクルージョンさ。戦争に加担しない。それだけじゃなく戦争を回避するための行動をとる。そしてここからが本題だ」
やや青みがかった髪色の青年は、うっすら閉じていた目を見開きまっすぐにこちらを見据えた。
「キミたちに魔族の土地へ行ってもらいたいんだ」