騎士とは馬を駆るもの
ナイトはウマにのらナイト
つぎのひのあさ、クマさんがおきあがり、なかまになりたそうに、こちらをみていた。
多数決で却下されました。くそう。
「たわけ」
その言葉こそたわけだよう。涙を飲みつつクマさんと別れ、我がパーティーは雨上がりの道をひたすら歩いた。
森にみずみずしい気配が漂う。しずくが垂れ澄み切った音色を奏でる。小鳥たちが身体をふるい、その身体から水滴が乱反射してきらりと光る。
「そんな美しい世界のなか、わたしのブーツはびしょびしょのドロドロになるのでした」
上に気を取られ足元を掬われました。くすん。
「いきなりなんですの? グレース」
水深うんじゅうセンチの水たまりに片足突っ込んだうっかりアサシンに呆れた視線を向けるオトモダチがいた。
「うぅ、すてきな気分がだいなしだよぉ……それはそれとして、もう呼び捨て慣れた?」
「正直言って、まだむず痒いですわ。他人を呼び捨てなんてしませんから」
うしろで「ちょっと、いきなり立ち止まらないでよ」と抗議の声が聞こえるがとりあえずスルーの方向で。
水に浸かったほうのブーツをチェック。濡れた感覚はないので、水が内側に侵入することは防げたみたい。とりあえず脱ぎ、ついた汚れを手で払いつつ我がフレンドに新しい道を提案してみた。
「なんだったらニックネームでいいよ? グッちゃん? それともぐぅ子?」
「ふつうにグレースでいいですわよ」
そんなやりとり中でも時間が止まらないのよ。だから、だらしないアサシンを放っといて前へ進んじゃうツンツンロリ魔法少女がいるし、ずっと仏頂面のまっくろ僧侶もいるわけ。
「へいへーい。もうちょっと仲間を気づかってもいーんでねー?」
「足元にすら注意が及ばんか」
「バカね」
「ガーン!」
協調性ゼロぉ!
「まったくもーシツレーしちゃうな」
信頼できるオトモダチはあんずちゃんだけだよ。
「ほらグレース、肩かしますわよ」
「さんきゅ」
なんて会話繰り広げてるときでも例のふたりは前進あるのみ。昨日と打って変わって快晴な空のもと、徐々に林道の終わりが見えてきて、深い緑の代わりに鮮やかな花の色と香りが漂ってくる。
雨ふって、地かたまる。土に満ちた水を植物が吸い上げ、自らの活力とする。しろくろコンビを追いかけて、わたしはうす暗い空間から解き放たれていき――。
「グレース、あんず、武器を持て」
「え?」
「マモノよ!」
開口一番、髪を朱く染め上げたドロちん杖をかかげていた。その髪色に等しい爆発と熱が一帯に及び、それに伴って漆黒の影がひとつ消滅する。
「あんずちゃん!」
「すでに準備できましてよ!」
フルプレートに白銀の兜を装着したあんずちゃんが、身体に似合わぬサイズの大剣を担ぎ上げ疾走した。
「恐れを捨てよ。スキル、勇気!」
女騎士が横切るタイミングに合わせ、僧侶が攻撃力増強スキルを唱える。あんずちゃんの身体に赤いエフェクトが付き、彼女はそのまま大剣を掲げた。
「スキル、雪崩!」
「おお、すごい!」
バフ付きの技って威力も効果範囲も広がるんだね!
「じゃあこっちもお忍びモードになりますか」
戦場は道が一本とその周囲にちょっとした花畑。黄色い花びらに甘い香りを乗せて、しゃがめばおんなの子の身体をすっぽり隠せる範囲内。
「数が多いですわね」
「ちょっとブーラー! アンタ補助スキルばかり使わないで加勢しなさいよ! 体術スキル使えるでしょうが!」
「我が肉体は他者を護るためにある。決して闘争に身を捧げたわけではない」
(ブッちゃんの体術かぁ、きっとスゴいんだろうな)
ちょっと前までうちのパーティーにすごい筋肉ウーマンがいましてね?
(それより、ちょっとでも数を減らさないと)
頭上にドロちんが生み出した熱を感じつつ、こちらは腰にクる姿勢を維持してマモノをキルしていきます。相変わらず真っ黒オンリーなカラーリングだけど、今回はヤケに多様性がありますなぁ。
(たとえばコヤツとか、あっ)
忍んで背後をとったところ、四つ足のマモノが急に駆け出した。
「って速ッ!」
わたしより数段デカいのに! 長く強靭な足と蹄で地面をたたくような音。あっという間に加速して、ターゲットは甲冑によって顔が見えなくなっているうちの戦士枠。
「はい?」
その兜がこっちを向いた。
「ヒヒーン!」
マモノが鳴いた。
「ひゃあ!」
反撃か回避かを迷う時間が命取りだった。
「あんずちゃん!」
「きゃああああ!」
マモノが頭を振り上げ、あんずちゃんが空に舞った。
軽量化された甲冑が空を飛ぶ。それでも空中で体勢をたてなおし、着地の衝撃に備え身体をねじったその先には、そのマモノの背中があった。
「あっ」
馬乗りである。漆黒の馬に白銀の騎士とかなにこれイケメン。
美しい着地にとまどう女騎士。ただし下のほうは断然乗車拒否である。
「ヒヒーン!」
ウマが怒った。
「わ、わ! ちょっとまってくださいな!!」
振り落とされぬよう必死にしがみついてる。なんだろう、このカップリングはめっちゃカッコイイんだけど、振る舞いはかんっぜんに乗馬初心者が暴れ馬に遊ばれてる図に見えるわ。
とはいえ、なんだかんだで大剣を手放さず掴んだままなのはさすがのド根性である。っていうか、え? すごくない?
「ちょっと、どういうこと?」
「なんと」
うちのデコボココンビが驚愕の声を出す。それもそのはず、フツーに乗りこなしてんだけど?
「落ち着いて! 暴れないでくださいまし!」
口ではそう言ってるけど右手に大剣、左手はガッシリたてがみをホールド。うまく方向転換させて並み居るマモノをズバズバ両断してくではありませんか。
「おおおおおおたすけええええええ!!」
「いや助ける必要ないでしょ」
ドロちんがそうつぶやいた。
多数決で却下されました。くそう。
「たわけ」
その言葉こそたわけだよう。涙を飲みつつクマさんと別れ、我がパーティーは雨上がりの道をひたすら歩いた。
森にみずみずしい気配が漂う。しずくが垂れ澄み切った音色を奏でる。小鳥たちが身体をふるい、その身体から水滴が乱反射してきらりと光る。
「そんな美しい世界のなか、わたしのブーツはびしょびしょのドロドロになるのでした」
上に気を取られ足元を掬われました。くすん。
「いきなりなんですの? グレース」
水深うんじゅうセンチの水たまりに片足突っ込んだうっかりアサシンに呆れた視線を向けるオトモダチがいた。
「うぅ、すてきな気分がだいなしだよぉ……それはそれとして、もう呼び捨て慣れた?」
「正直言って、まだむず痒いですわ。他人を呼び捨てなんてしませんから」
うしろで「ちょっと、いきなり立ち止まらないでよ」と抗議の声が聞こえるがとりあえずスルーの方向で。
水に浸かったほうのブーツをチェック。濡れた感覚はないので、水が内側に侵入することは防げたみたい。とりあえず脱ぎ、ついた汚れを手で払いつつ我がフレンドに新しい道を提案してみた。
「なんだったらニックネームでいいよ? グッちゃん? それともぐぅ子?」
「ふつうにグレースでいいですわよ」
そんなやりとり中でも時間が止まらないのよ。だから、だらしないアサシンを放っといて前へ進んじゃうツンツンロリ魔法少女がいるし、ずっと仏頂面のまっくろ僧侶もいるわけ。
「へいへーい。もうちょっと仲間を気づかってもいーんでねー?」
「足元にすら注意が及ばんか」
「バカね」
「ガーン!」
協調性ゼロぉ!
「まったくもーシツレーしちゃうな」
信頼できるオトモダチはあんずちゃんだけだよ。
「ほらグレース、肩かしますわよ」
「さんきゅ」
なんて会話繰り広げてるときでも例のふたりは前進あるのみ。昨日と打って変わって快晴な空のもと、徐々に林道の終わりが見えてきて、深い緑の代わりに鮮やかな花の色と香りが漂ってくる。
雨ふって、地かたまる。土に満ちた水を植物が吸い上げ、自らの活力とする。しろくろコンビを追いかけて、わたしはうす暗い空間から解き放たれていき――。
「グレース、あんず、武器を持て」
「え?」
「マモノよ!」
開口一番、髪を朱く染め上げたドロちん杖をかかげていた。その髪色に等しい爆発と熱が一帯に及び、それに伴って漆黒の影がひとつ消滅する。
「あんずちゃん!」
「すでに準備できましてよ!」
フルプレートに白銀の兜を装着したあんずちゃんが、身体に似合わぬサイズの大剣を担ぎ上げ疾走した。
「恐れを捨てよ。スキル、勇気!」
女騎士が横切るタイミングに合わせ、僧侶が攻撃力増強スキルを唱える。あんずちゃんの身体に赤いエフェクトが付き、彼女はそのまま大剣を掲げた。
「スキル、雪崩!」
「おお、すごい!」
バフ付きの技って威力も効果範囲も広がるんだね!
「じゃあこっちもお忍びモードになりますか」
戦場は道が一本とその周囲にちょっとした花畑。黄色い花びらに甘い香りを乗せて、しゃがめばおんなの子の身体をすっぽり隠せる範囲内。
「数が多いですわね」
「ちょっとブーラー! アンタ補助スキルばかり使わないで加勢しなさいよ! 体術スキル使えるでしょうが!」
「我が肉体は他者を護るためにある。決して闘争に身を捧げたわけではない」
(ブッちゃんの体術かぁ、きっとスゴいんだろうな)
ちょっと前までうちのパーティーにすごい筋肉ウーマンがいましてね?
(それより、ちょっとでも数を減らさないと)
頭上にドロちんが生み出した熱を感じつつ、こちらは腰にクる姿勢を維持してマモノをキルしていきます。相変わらず真っ黒オンリーなカラーリングだけど、今回はヤケに多様性がありますなぁ。
(たとえばコヤツとか、あっ)
忍んで背後をとったところ、四つ足のマモノが急に駆け出した。
「って速ッ!」
わたしより数段デカいのに! 長く強靭な足と蹄で地面をたたくような音。あっという間に加速して、ターゲットは甲冑によって顔が見えなくなっているうちの戦士枠。
「はい?」
その兜がこっちを向いた。
「ヒヒーン!」
マモノが鳴いた。
「ひゃあ!」
反撃か回避かを迷う時間が命取りだった。
「あんずちゃん!」
「きゃああああ!」
マモノが頭を振り上げ、あんずちゃんが空に舞った。
軽量化された甲冑が空を飛ぶ。それでも空中で体勢をたてなおし、着地の衝撃に備え身体をねじったその先には、そのマモノの背中があった。
「あっ」
馬乗りである。漆黒の馬に白銀の騎士とかなにこれイケメン。
美しい着地にとまどう女騎士。ただし下のほうは断然乗車拒否である。
「ヒヒーン!」
ウマが怒った。
「わ、わ! ちょっとまってくださいな!!」
振り落とされぬよう必死にしがみついてる。なんだろう、このカップリングはめっちゃカッコイイんだけど、振る舞いはかんっぜんに乗馬初心者が暴れ馬に遊ばれてる図に見えるわ。
とはいえ、なんだかんだで大剣を手放さず掴んだままなのはさすがのド根性である。っていうか、え? すごくない?
「ちょっと、どういうこと?」
「なんと」
うちのデコボココンビが驚愕の声を出す。それもそのはず、フツーに乗りこなしてんだけど?
「落ち着いて! 暴れないでくださいまし!」
口ではそう言ってるけど右手に大剣、左手はガッシリたてがみをホールド。うまく方向転換させて並み居るマモノをズバズバ両断してくではありませんか。
「おおおおおおたすけええええええ!!」
「いや助ける必要ないでしょ」
ドロちんがそうつぶやいた。