報復は絶倒
わるいことしたな? よし、シベリア送りだ
「ヒーィィィン!」
「はぅぁああ!!」
ゴロツキたちが迫りくる気配のせいか、しろい馬がなんぼんもある足で地面を蹴り立ち上がる。鎧のおねーさんは振り落とされそうになりつつ、馬のたてがみをつかんでなんとか耐えた。
あの馬さん、うちの牧場にいるおじーちゃんがスレイプニールって名付けたあの馬だ。人になつかないって聞いたけどどうしておねーさんが?
(って、そんな場合じゃない! ぶき、なにか武器あげないと!)
とっさに目に入ったのは、さっきおねーさんが投げ捨てた片手用の剣。えっと、これどうやって使うの? ううんそれよりもはやく投げなきゃ。
「おねーさんこれ!」
「はい?」
「えーい!」
わたしは持つほうつかんで、剣のさきっちょのほうをあっちに向け、馬にまたがる女性のほうへ思いっきり投げつけた。もちろん全力だよ?
(あっ)
「ヒィッ!」
おんなの子がしちゃいけない顔してた。
「な、なにしやがってくれますの!? 危うく顔面に刺さるところでしたわよ!」
「ご、ごめんなさい! でもキャッチできたんだ。すごいね!」
「すごいすごくないの問題じゃありませんの!」
「手間ぁかけさせるんじゃねえ! さっさと死ね!」
盗賊のひとりが馬めがけて走り出す。おねーさんじゃなく馬の胴体を狙ってフォーク? みたいな武器を突き刺そうとしたんだけど、直前で馬が回転してうしろ足で蹴り上げた。
「へぶっ!?」
いっぽんが武器を弾き飛ばし、もういっぽんが男のアゴを撃ち抜いた。はっぽんあしすげー。
「このままじゃ危ないですわね、さあこっちへ!」
鎧のおねーさんがそう叫んだ。そして気付いた時、わたしは腕を引っ張られ空を見ていた。
「ふぇ!?」
ぐるりと世界が一周する。そしておしりに軽い衝撃がはしり、目の前に純白のたてがみが見える。このときはじめて、わたしはおねーさんに手を引かれ馬に乗せられたことを知った。
「しっかり掴まってくださいな!」
それからは、絵本で読んだ物語とおなじ世界だった。
「お覚悟を!」
まるで馬と人と剣が一体になったように、おねーさんは馬にまたがり迫りくるゴロツキを薙ぎ払っていく。激しくも優雅に、まるでダンスを踊ってるかのように戦場を駆け躍動するその姿は、わたしが描いていた伝説の騎士そのものだった。
(そしておひめさまは、騎士に護られながらしあわせに暮らしました)
こう締めくくられる絵本の物語では、さいごは騎士とおひめさまは離れ離れになってしまう。それとおなじなんてあるわけないけど、わたしはどうしてもおねーさんの姿を目に焼き付けたくて、ずっと背中に受ける感触と彼女の眼差しを見ていた。
「テメー卑怯だぞ降りやがれ!」
ひときわ体格の大きな――あのくろい旅人さんとおなじくらい大きな男が真正面に立ってまくしたてる。他の人たちは大したことないんだけど、このゴロツキだけはどうしても倒せなくて、今もこうしてにらみ合いが続いてる。
「いたいけな少女を複数で囲むことのほうが卑怯ですわよ!」
「ああそうだな」
男が口元を引きつらせる。イヤな予感がして、わたしはうしろの方を向いた。
おねーさんの背中越しに、茂みに隠れ弓を構えた盗賊が見えた。
「おねーさんうしろ!」
「やれ!」
その言葉とほぼ同時に、弓を構えた男の指から力が抜けていった。
(戦闘の音だ!)
その音が耳に届くと同時に、わたしの足は森の外へ駆け出していた。
あの間が抜けたような叫び声、まちがいなくあんずちゃんのものだ。それに混じっておうまさんがにひき? くらい駆け足ですごいスピードだった。
ついさっき、だれかがキャンプしてたらしい形跡を見つけた。形跡っていうかそのまんまテントと焚き火があったんだけど、状態からして今のいままで使われていた感じ。規模こそ大したことないけど、備え付けられた寝台や装備からして十人ちょいくらいいてもおかしくない。さらに言えば、必要最低限でセンスのカケラもない見てくれからしてどこぞの盗人かならずものがこしらえた印象。可能性の話だけど、遠くに聞こえた少女の叫び声と金属音で確信に変わる。
きっとキネレットちゃんだ。
「近い。この先に何かあるはず」
森の出口に差し掛かったところ、あのしろいの、ティベリアさんがスレイプニールと名付けていたその背中にあんずちゃんの姿も見て取れる。そしてもうひとりの少女の姿もあった。
(よかった! 無事だったんだ――あれは!)
あんずちゃんから死角の位置に無骨な装備をした盗賊がひとり。弓であんずちゃんに照準を合わせている。
叫んでも間に合わない。わたしはとっさに懐のナイフを取り出しそいつに投擲した。
「ガアッ!!」
脇腹に命中。男は衝撃に上半身をのけぞらせ、矢はあさっての方向に飛んでいく。あんずちゃんが何事かとこちらを振り返り、その先にいる親玉っぽいヤツは驚愕に顔を引きつらせていた。
「なにもんだテメェ!」
(そっちこそナニモンよ! って)
問うまでもない。こいつらは敵だ。
「あんずちゃん!」
「グレース! 感謝しますわ」
「キネレットちゃんも無事だね」
あんずちゃんの支えで騎乗してる少女の姿を確認する。少女は何事か言いかけたが、しつけのなってない盗賊どもが再会のよろこびイベントを許してくれるはずもなく、わたしたちはそのまま離れターゲットの分散を試みた。
「あんずちゃんさぁ、やっぱ馬乗りスタイルよくない? 似合ってるよそれ」
「そういうグレースは、平原での戦いは不慣れではありませんの?」
「まっかせてよ、この程度の相手お忍びしなくてもヨユーだって」
さてさてエモノはぁ、あんずちゃんが五人くらいノしてるっぽい。目視の範囲で六人。茂みにはだれもいないこと確認済みなので、こいつらをヤれば試合終了ってことだね。
「じゃあ、やりますか」
かよわい少女をイジめるようなわるい子にはぁ。
「ごめんねなんて言わないよ?」
「な、なんなんだよおまえらは!!」
半狂乱に陥った男。それをわたしとあんずちゃんで取り囲みざっくりお説教タイム開催中。
命だけは獲らなかったけど、ここいらで悪さするなら話は別かな。
「まったく、ブーラー並の体格なのにこの体たらくはありませんね」
手にしていた剣を投げ捨て、あんずちゃんは腰を抜かす大男にガックリとため息をつく。落ちた剣が男の股ぐらに刺さり、彼は情けない声をあげた。
「ねえねえおっちゃんたち、なにもの?」
返答次第ではレッツキルよ?
「お、おおおおおれは何もしらねえよ」
「近くに村があるよね? そこで何かするつもりだった?」
もしそうだったらゴートゥーヘルよ?
「何もしねえよォ! お、オレはただ頼まれただけだ!」
「頼まれた? だれにですの?」
男は戦々恐々とした様子で口を割りはじめる。
「名前は知らねぇ、けどブルームーンのヤツらだ」
「ブルームーン」
あんずちゃんがピクリとする。以前、彼女が用心棒として働いていたとこだ。たしか土地を買う商売人で、オジサンの屋敷でひと悶着あった集団だ。
(土地を買うの意味はわかんないけど、なんかわるいヤツらなんだよね?)
「……それで、あなた方は?」
「オレたちは関係ねぇ!」
あんずちゃんの声色が変化したことで、はじめは拒否ってばかりだったゴロツキたちの態度に変化が生じた。
「ただのトーシローだ。事情はよくわからねぇけどそれぞれの村を直接経由しないルートを開拓しろって依頼だった。オレたちはただの大工だ。ほんとだ! ギルドにだって所属してるんだよ信じてくれ」
要求してなくともどんどんしゃべってくれる。ほかのみんなもこうやっておしゃべりしてくれれば尋問術なんて使わずに済むのに……いや、使ったことないよ? オジサンから知識として教わっただけで。そのー、いっぱしのアサシンなら知っとけ、みたいな?
(でもまだわかんないよねぇ)
ってことで聞いてみた。
「ただの建築ギルドさんがなーんでそんな依頼を受けるのかな?」
「そ、そりゃあ……その、今は仕事がなくて、食いっぱぐれちまうくらいなら仕事は選べねぇだろ?」
「それでこのようなゴロツキじみた行為に手を染めていたのですか」
あんずちゃんは呆れた様子で地面に寝転ぶ情けない男どもを眺める。ある者は腹部を押さえうずくまり、またある者は木に背中を預け疲れ切った様子。大小それぞれ度合いは違えどみんなグロッキー。それもそのはず。わたくしどもが華麗に正当防衛しましたからわよ。
(から、わよ。うん、慣れないことしない)
「じゃあ、さいごにもうひとつだけね」
むしろコレがいちばん大事。素直になってくれないと、オジサンから教わった手段を使わにゃいけなくなります。お初披露。
「おっちゃんさぁ、キネレットちゃんを捕まえてどうしようとしてた?」
「へ?」
気の抜けた声。きっとそれは、あんずちゃんに加えわたしの声や態度が急変したことに対する戸惑い。
そして、こっちを見たゴロツキの大将は顔面蒼白になった。
「みんな武器持ってたよね? これ、人を殺せる威力あるんだよ? ほら、こうやって」
スー。木をナイフでなぞる。そこには真新しい縦スジができあがった。
「仕事を依頼されただけ。自分たちはなにもしてない。じゃあさ、べつに小さなおんなの子を追いかけ回す必要なくない? みんなでこーんな恐ろしい武器掲げちゃってさ」
っと、いけないいけない。これはあくまで聞き込みであり尋問ではないのです。えがおえがお、にぃー。
「お、おおお、お、お許しを!!」
男は急に姿勢を正し、ヒザをつき、額を地面に当て、両手を組み祈りの形を頭上につくった。
「居場所がバレないようクギを刺すだけのつもりでしたァ! 決してそのようなことをするつもりは」
「そのようなことって?」
「そ、それは――」
(ん、なんかヘンな匂い)
そう思って頭を垂れる男をよく見ると、地面に男の頬や頭やいろんなとこから吹き出した汗がダバダバ垂れてるではありませんか。
「そうなんですの?」
マイルームメイトがそれとなく確認する。キネレットちゃんは頭を地面とごっつんこしてるそいつの視界に入らぬようあんずちゃんのうしろに回り込んでいて、恐る恐るといった様子で唇を開いた。
「たかねでかいとってくれるかもって」
「ッ!?」
おっちゃんが、っていうかこの場にいるオスどもが息を呑んだ、
「それはぁ………………ギルティだね」
わたしは目からハイライトを消した。
「はぅぁああ!!」
ゴロツキたちが迫りくる気配のせいか、しろい馬がなんぼんもある足で地面を蹴り立ち上がる。鎧のおねーさんは振り落とされそうになりつつ、馬のたてがみをつかんでなんとか耐えた。
あの馬さん、うちの牧場にいるおじーちゃんがスレイプニールって名付けたあの馬だ。人になつかないって聞いたけどどうしておねーさんが?
(って、そんな場合じゃない! ぶき、なにか武器あげないと!)
とっさに目に入ったのは、さっきおねーさんが投げ捨てた片手用の剣。えっと、これどうやって使うの? ううんそれよりもはやく投げなきゃ。
「おねーさんこれ!」
「はい?」
「えーい!」
わたしは持つほうつかんで、剣のさきっちょのほうをあっちに向け、馬にまたがる女性のほうへ思いっきり投げつけた。もちろん全力だよ?
(あっ)
「ヒィッ!」
おんなの子がしちゃいけない顔してた。
「な、なにしやがってくれますの!? 危うく顔面に刺さるところでしたわよ!」
「ご、ごめんなさい! でもキャッチできたんだ。すごいね!」
「すごいすごくないの問題じゃありませんの!」
「手間ぁかけさせるんじゃねえ! さっさと死ね!」
盗賊のひとりが馬めがけて走り出す。おねーさんじゃなく馬の胴体を狙ってフォーク? みたいな武器を突き刺そうとしたんだけど、直前で馬が回転してうしろ足で蹴り上げた。
「へぶっ!?」
いっぽんが武器を弾き飛ばし、もういっぽんが男のアゴを撃ち抜いた。はっぽんあしすげー。
「このままじゃ危ないですわね、さあこっちへ!」
鎧のおねーさんがそう叫んだ。そして気付いた時、わたしは腕を引っ張られ空を見ていた。
「ふぇ!?」
ぐるりと世界が一周する。そしておしりに軽い衝撃がはしり、目の前に純白のたてがみが見える。このときはじめて、わたしはおねーさんに手を引かれ馬に乗せられたことを知った。
「しっかり掴まってくださいな!」
それからは、絵本で読んだ物語とおなじ世界だった。
「お覚悟を!」
まるで馬と人と剣が一体になったように、おねーさんは馬にまたがり迫りくるゴロツキを薙ぎ払っていく。激しくも優雅に、まるでダンスを踊ってるかのように戦場を駆け躍動するその姿は、わたしが描いていた伝説の騎士そのものだった。
(そしておひめさまは、騎士に護られながらしあわせに暮らしました)
こう締めくくられる絵本の物語では、さいごは騎士とおひめさまは離れ離れになってしまう。それとおなじなんてあるわけないけど、わたしはどうしてもおねーさんの姿を目に焼き付けたくて、ずっと背中に受ける感触と彼女の眼差しを見ていた。
「テメー卑怯だぞ降りやがれ!」
ひときわ体格の大きな――あのくろい旅人さんとおなじくらい大きな男が真正面に立ってまくしたてる。他の人たちは大したことないんだけど、このゴロツキだけはどうしても倒せなくて、今もこうしてにらみ合いが続いてる。
「いたいけな少女を複数で囲むことのほうが卑怯ですわよ!」
「ああそうだな」
男が口元を引きつらせる。イヤな予感がして、わたしはうしろの方を向いた。
おねーさんの背中越しに、茂みに隠れ弓を構えた盗賊が見えた。
「おねーさんうしろ!」
「やれ!」
その言葉とほぼ同時に、弓を構えた男の指から力が抜けていった。
(戦闘の音だ!)
その音が耳に届くと同時に、わたしの足は森の外へ駆け出していた。
あの間が抜けたような叫び声、まちがいなくあんずちゃんのものだ。それに混じっておうまさんがにひき? くらい駆け足ですごいスピードだった。
ついさっき、だれかがキャンプしてたらしい形跡を見つけた。形跡っていうかそのまんまテントと焚き火があったんだけど、状態からして今のいままで使われていた感じ。規模こそ大したことないけど、備え付けられた寝台や装備からして十人ちょいくらいいてもおかしくない。さらに言えば、必要最低限でセンスのカケラもない見てくれからしてどこぞの盗人かならずものがこしらえた印象。可能性の話だけど、遠くに聞こえた少女の叫び声と金属音で確信に変わる。
きっとキネレットちゃんだ。
「近い。この先に何かあるはず」
森の出口に差し掛かったところ、あのしろいの、ティベリアさんがスレイプニールと名付けていたその背中にあんずちゃんの姿も見て取れる。そしてもうひとりの少女の姿もあった。
(よかった! 無事だったんだ――あれは!)
あんずちゃんから死角の位置に無骨な装備をした盗賊がひとり。弓であんずちゃんに照準を合わせている。
叫んでも間に合わない。わたしはとっさに懐のナイフを取り出しそいつに投擲した。
「ガアッ!!」
脇腹に命中。男は衝撃に上半身をのけぞらせ、矢はあさっての方向に飛んでいく。あんずちゃんが何事かとこちらを振り返り、その先にいる親玉っぽいヤツは驚愕に顔を引きつらせていた。
「なにもんだテメェ!」
(そっちこそナニモンよ! って)
問うまでもない。こいつらは敵だ。
「あんずちゃん!」
「グレース! 感謝しますわ」
「キネレットちゃんも無事だね」
あんずちゃんの支えで騎乗してる少女の姿を確認する。少女は何事か言いかけたが、しつけのなってない盗賊どもが再会のよろこびイベントを許してくれるはずもなく、わたしたちはそのまま離れターゲットの分散を試みた。
「あんずちゃんさぁ、やっぱ馬乗りスタイルよくない? 似合ってるよそれ」
「そういうグレースは、平原での戦いは不慣れではありませんの?」
「まっかせてよ、この程度の相手お忍びしなくてもヨユーだって」
さてさてエモノはぁ、あんずちゃんが五人くらいノしてるっぽい。目視の範囲で六人。茂みにはだれもいないこと確認済みなので、こいつらをヤれば試合終了ってことだね。
「じゃあ、やりますか」
かよわい少女をイジめるようなわるい子にはぁ。
「ごめんねなんて言わないよ?」
「な、なんなんだよおまえらは!!」
半狂乱に陥った男。それをわたしとあんずちゃんで取り囲みざっくりお説教タイム開催中。
命だけは獲らなかったけど、ここいらで悪さするなら話は別かな。
「まったく、ブーラー並の体格なのにこの体たらくはありませんね」
手にしていた剣を投げ捨て、あんずちゃんは腰を抜かす大男にガックリとため息をつく。落ちた剣が男の股ぐらに刺さり、彼は情けない声をあげた。
「ねえねえおっちゃんたち、なにもの?」
返答次第ではレッツキルよ?
「お、おおおおおれは何もしらねえよ」
「近くに村があるよね? そこで何かするつもりだった?」
もしそうだったらゴートゥーヘルよ?
「何もしねえよォ! お、オレはただ頼まれただけだ!」
「頼まれた? だれにですの?」
男は戦々恐々とした様子で口を割りはじめる。
「名前は知らねぇ、けどブルームーンのヤツらだ」
「ブルームーン」
あんずちゃんがピクリとする。以前、彼女が用心棒として働いていたとこだ。たしか土地を買う商売人で、オジサンの屋敷でひと悶着あった集団だ。
(土地を買うの意味はわかんないけど、なんかわるいヤツらなんだよね?)
「……それで、あなた方は?」
「オレたちは関係ねぇ!」
あんずちゃんの声色が変化したことで、はじめは拒否ってばかりだったゴロツキたちの態度に変化が生じた。
「ただのトーシローだ。事情はよくわからねぇけどそれぞれの村を直接経由しないルートを開拓しろって依頼だった。オレたちはただの大工だ。ほんとだ! ギルドにだって所属してるんだよ信じてくれ」
要求してなくともどんどんしゃべってくれる。ほかのみんなもこうやっておしゃべりしてくれれば尋問術なんて使わずに済むのに……いや、使ったことないよ? オジサンから知識として教わっただけで。そのー、いっぱしのアサシンなら知っとけ、みたいな?
(でもまだわかんないよねぇ)
ってことで聞いてみた。
「ただの建築ギルドさんがなーんでそんな依頼を受けるのかな?」
「そ、そりゃあ……その、今は仕事がなくて、食いっぱぐれちまうくらいなら仕事は選べねぇだろ?」
「それでこのようなゴロツキじみた行為に手を染めていたのですか」
あんずちゃんは呆れた様子で地面に寝転ぶ情けない男どもを眺める。ある者は腹部を押さえうずくまり、またある者は木に背中を預け疲れ切った様子。大小それぞれ度合いは違えどみんなグロッキー。それもそのはず。わたくしどもが華麗に正当防衛しましたからわよ。
(から、わよ。うん、慣れないことしない)
「じゃあ、さいごにもうひとつだけね」
むしろコレがいちばん大事。素直になってくれないと、オジサンから教わった手段を使わにゃいけなくなります。お初披露。
「おっちゃんさぁ、キネレットちゃんを捕まえてどうしようとしてた?」
「へ?」
気の抜けた声。きっとそれは、あんずちゃんに加えわたしの声や態度が急変したことに対する戸惑い。
そして、こっちを見たゴロツキの大将は顔面蒼白になった。
「みんな武器持ってたよね? これ、人を殺せる威力あるんだよ? ほら、こうやって」
スー。木をナイフでなぞる。そこには真新しい縦スジができあがった。
「仕事を依頼されただけ。自分たちはなにもしてない。じゃあさ、べつに小さなおんなの子を追いかけ回す必要なくない? みんなでこーんな恐ろしい武器掲げちゃってさ」
っと、いけないいけない。これはあくまで聞き込みであり尋問ではないのです。えがおえがお、にぃー。
「お、おおお、お、お許しを!!」
男は急に姿勢を正し、ヒザをつき、額を地面に当て、両手を組み祈りの形を頭上につくった。
「居場所がバレないようクギを刺すだけのつもりでしたァ! 決してそのようなことをするつもりは」
「そのようなことって?」
「そ、それは――」
(ん、なんかヘンな匂い)
そう思って頭を垂れる男をよく見ると、地面に男の頬や頭やいろんなとこから吹き出した汗がダバダバ垂れてるではありませんか。
「そうなんですの?」
マイルームメイトがそれとなく確認する。キネレットちゃんは頭を地面とごっつんこしてるそいつの視界に入らぬようあんずちゃんのうしろに回り込んでいて、恐る恐るといった様子で唇を開いた。
「たかねでかいとってくれるかもって」
「ッ!?」
おっちゃんが、っていうかこの場にいるオスどもが息を呑んだ、
「それはぁ………………ギルティだね」
わたしは目からハイライトを消した。