▼詳細検索を開く
作者: 犬物語
雪山強行登山
山の天気は変化しやすい
「はえぇ~」

 一晩過ごした。
 目が醒めた。
 なんかさみーと思った。
 外が騒がしい気がする。
 わたしは外に出た。

「まっしろー」

 扉を開けると、そこは雪国だった。

「ちょっとまって、昨日までぜんぜんそんな雰囲気じゃなかったじゃん」

 からっからの晴れだったよ?
 じゃあ今は?

 視界の白要素が昨日のそれを有に越えてる。
 リアルタイム積雪中。
 お空もまっしろ。

 冷たい空気が入ってしまうので、わたしはすぐ扉を閉め暖炉の薪を追加した。

 小屋の中ということで、本日はだれも寝ずの番を致しません。故に前日中に燃やすだけ燃やしといた形ですが、今やもう風前の灯となり、周囲を見渡せば誰もがもっこもこの服装にて丸くなってる。

「よし、これでおっけー」

 許される最大火力に設定しつつ、わたしは朝食のため鍋と具材を用意しました。

「んー」

 ドロちんぐっすり。まだ早いし起こさないでおこう。じゃあ代替案は?

「……よし」

 わたしは外に飛び出し、うーさむいなんて口に出しつつせっせと雪を回収。それをあたため用の鍋に入れ煮沸し、きれいな布を重ねてろ過し、本命の鍋に移し替える。

「おいしいお水の完成!」

 なんでこんなの知ってるのかって? オジサンに教わったサバイバル術なのだ!

「別にこんなことしなくても飲めるんだけどねー」

 わたしは。
 スプリットくんもそうだし、サっちゃんもビーちゃんもそうだった。
 オジサンとグウェンちゃんは引いてた。
 川の水飲んでたら全力で止められた。
 それから、しゃーなしにこうして水を確保してます。

「ふんふふーん」

 充分に煮沸された水へ材料投下。連日お鍋も飽きちゃう? と思いきや、入れる具材や味付けによって千差万別なんだよねー。あるいは、ここで串刺しおにくをぐーるぐるしてもいいんだけど、そんなことしたら小屋じゅう煙でまっしろになっちゃうから今回はガマン。

 暖炉に向き調理中、だれかが起き出しこっちに声をかけた。

「はえーな」

 男性、高めの低い声、ぶっきらぼう。
 これはサンダーさんだ。

「今日はおにくたっぷり鍋ですよー」
「その水はどこから確保したんだ? まあいいか」

 しゃがみ込む音。振り返ると、サンダーさんがすぐ後ろで荷物を取り出してる。とても寒かったんだろう。しきりに両手をこすり合わせ口からの息で温めていた。

「サンダーさん、なんか顔色悪くない?」
「はぁ?」

 注射器を取り出しつつ、緑の旅医者は戸惑いの声を漏らす。

「気のせいだろ。別になんともねぇよ――んん、いいね」

 そして自分のウデにぶちゅ。
 恍惚の表情。
 いったいナニを注入してるのですか?

「単なる栄養剤だ」
「えいようざい」

 すげー色合いだったのですがそれは。
 ギラギラに乱反射してたのですがそれは。

「あのガキんちょから錬金術のノウハウを教わってな。試しに作ってみたがすげーわ」

 ガキんちょとか言ってるけど、ドロちんあー見えてわたしやあんずちゃんより年上だからね。

「グレース、お前も試すか?」
「ぜったいヤダ」

 まずはみんなを起こして、メシを作って、食った。

 それから話し合いが始まった。もう一泊してこーぜ派と出発しようぜ派。わたしは、なんかサンダーさんの様子が気になって慎重派だったんだけど、当のサンダーさんが平気だと言うし、結局多数決で小屋を出ることになった。

「だいじょうぶかな」

 小屋を出る直前、それぞれ身体を充分に温めてから準備を済ませていく。最後に火消しを済ませつつ、わたしは緑のコートをまとい、さらにダウンジャケットを着込んだ後ろ姿から目を離せなかった。





 サンダーさんがぶっ倒れた。

「ちょ、サンダーさん!」

 駆け寄るあんずちゃん。抱き起こされた彼の顔は蒼白になっていた。

「あー、わりぃ、ダメだコレ」

 彼は口だけを動かす。

 目に光なし、顔面蒼白、ってゆーか唇もむらさきっぽくね?

「これは……」

 急ぎ治療スキルを使う僧侶。若干楽になったのか、彼はセルフ反省会をしだした。

「思ったより効き目が悪かったなぁ……もう少しカルシウム量を増やすべきだったか?」
「バカね、そんなことしたら今頃死んでるわよ」

 治療に加わりつつ罵倒する。さっきの小屋からだいぶ離れてしまった。今から戻るでは時間がかかりすぎるし、今になって雪の量が多くなってきた。

「あーくそ、こんなところで俺の人生は終わるのか?」
「ヘタな冗談はよしてください!」

 あんずちゃんが泣きそうな声で医者の肩をゆする。

「もおう、いったいどうすればいいんですの!?」
「落ち着けあんず。とはいえ、この状況は――」

 その先に絶望的な言葉が浮かび、ブッちゃんはそれを口に出す前にこらえた。みんな判断にあえぐ中、雪山の自然だけが音を発し続ける。

「なあ……いつか、俺の故郷に……ウェアサイダーズに行ってくれないか? そんで、俺のことを伝えてほしいんだ」
「サンダーさん! 眠らないでください!」

 風が強まり轟音に変わる。
 岩山にぶつかり笛の音に変貌する。
 雪男のような豪快な足音が――あしおと?

「え?」

 わたしはその音源を探り山を見上げた。

「だれ?」

 雪で視界が遮られる。
 大きい。
 まるで熊みたいな、もしかしてほんとうの雪男?

「ッ!」

 影が動く。
 こちらへ来る。
 反射的に臨戦態勢を整え、影に殺気がないことに気づく。

 わたしの動きに気付いた他のみんなが、同じように影の存在を認知する。それは吹雪を一直線につっきり、やがて全貌を明かした。

「だいじょうぶ?」

 雪女だった。

「まだ生きてる」
「え? ――あっ」

 ブッちゃんよりデカい。
 必然的にサっちゃんよりもデカいことになる。
 まさか、あのサっちゃんより大きな人がいたなんて。

 とつぜん現れた巨人にみんな驚く。その人はわたしたちを素通りし、地面に倒れた人を抱きかかえた。

「ついてきて」

 男性ひとりを軽々と担ぎ上げる。異世界人の身体能力なら当たり前だけど、片手で「よっこらせ」と持ち上げるなんてムリだ。

「ちょっと、あんた何者?」
「安全なところまで案内するから」

 ドロちんが一歩すすんで噛みつく。身長、体格、どれも圧倒的。大人と子どもなんてレベルじゃなく、言ってしまえば巨人と小人?

 彼女の声は、ドロちんと対称的にとても低くて落ち着きがあるものだ。雪に交じる黒髪は長く、優しげな、淡い茶色の瞳でわたしたちを見据える。ううん、どちらかというと見守るって感じ。

 そして彼女は進み出す。背を向ける彼女に、パーティーは否応なくついていくことになった。
Twitter