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作者: 犬物語
雪山、修道院、遭難者救助
身長、体重、外見などはモデルとなったわんわんを参照しております
 完全にばたんきゅぅ~した男性ひとりを担ぎ、彼女は雪道と思えぬ速度で進んでいった。

「はぁ、はぁ――いったい、彼女は何者なんですの?」

 視界不良のなか、ふっかける雪に片目を閉じつつ厚着の女騎士は言った。

「この豪雪をものともせず、かなりの手練か」
「なれてれぅ、だけで、しょッ――ったく、いつまで――歩かぁきゃ、いけないの」

 ドロちん、疲労から舌がうまく回らなくなってきてる。ちょっと心配。わたしはまだまだ元気なので、そんなロリっ子魔術師や気弱な女騎士に目配せしつつ、先導するイエティさんまで視線を巡らせた。

「……」

 ちょっと進んではこちらを見る。
 ちょっと進んではこちらを観る。
 ちょっと進んではこちらを診る。

 こちらの状況を見守り、サンダーさんに連なる脱落者がいないか逐一チェック。なぞの巨大雪男女さんは、そんな態度をとりつつある場所を目指していた。

(まだかな)

 彼女を信じるとすれば、行き先は間違いなく避難所だろう。助けてくれるだけありがたいけど、できることなら早めの到着を所望。じゃないと、そろそろ我がパーティーの魔法使い枠に空きが出てしまいそう。

(ん……なにこれ?)

 ひたすら続く山と雪の香り。その中に、かすかながら岩と人工物の匂いを感じた。ただの岩じゃないぞ、これは人が削って形成して、なにかを組み立てるのに使った匂いだ。

「あっ!」

 ほどなく、白一面の世界に角ばった人工物が姿を現した。

「こっち」

 彼女はその一角を目指してる。近づくにつれ、徐々にその全体像が明らかとなった。

「これは……」

 ブッちゃんが顔をしかめる。
 それもムリはない。
 わたしにも、それは廃墟に見えたから。

(人の気配がない)

 雪ほどに白い石造りの建物。
 そのところどころにある窓は、ことごとく割られていた。

 屋根の一部が倒壊し、未塗装で剥き出しとなった薄黒い面が不気味に映る。入口の扉だけは木造だったのか、その一片だけが無造作にぶら下がっており、建物内に激しい風と雪が侵入している。

 外見だけ見れば、この環境をしのげるようには思えない絵面だ。けど先頭のUMAが迷いなく屋内を目指してるあたり、中に快適空間があるんだろう。っていうかそうじゃないとわたしも保たない。

「やっと解放されたわ……」

 廃墟に入り、いくつかの部屋をたどってようやく静かな環境に身を置かれる。すかさず火の魔法で身体を温めつつ、ドロちんは心の底から安心した声を吐き出した。

「あんずよ、無事か?」
「ええ、なんとか……グレースはやっぱり平気なのですね」
「ん? どしたの?」
「なんでも。ただこういう時ばかりは、グレースの体力バカが羨ましいと思って」
「むむっ! わたしバカじゃないもん! ……ん?」

 じゃあ体力? なにそれ。
 って、そんな悠長なこと言ってる場合じゃなかった。

「サンダーさん!」

 普段人を診る立場の人が、今はマットのようなものを敷き詰めた地面に寝かされている。相変わらず肌が白く呼吸が弱い。ブッちゃんが急ぎ治療魔法をかけ、イスの残骸を燃料にし、この部屋の温度を底上げする。この空間自体は、よくある宿のひと部屋くらいの広さなので、温まるまでにさほど時間はかからないだろう。

 燃料を注ぎ込んだわたしは、次に助けてくれた恩人へ感謝の言葉を述べることにした。

「助けてくれてありがとう!」

 彼女は恥ずかしそうにコクンと頷く。吹雪のジャマがなくなり、ようやく巨大雪女さんの全貌が明らかとなる。

 まずデカい。明らかにブッちゃんよりデカい。どんくらいデカいかというと、わたし立ってるのに腰掛けた彼女と視線が平行線。いんや若干こちらが見上げてる?

 黒い髪。けど中央線が、さくらと同じように白くなっている。それは中腰まで伸びていて、先端に近づくほど茶色い色素が混じっていた。

 身体は大きいけど、その表情はすごくやわらかだ。優しい垂れ目、瞳は淡い茶色模様で、そういうワケじゃないのに寂しそうな印象を受ける。角度のせいか、耳もちょっと垂れてるような感じがして、やっぱりしょんぼりしなイメージだった。

 でも芯は強い。つんとした鼻と、オトコひとり担ぎ上げ、わたしたちをここまで導いてくれたことが何よりの証拠。

「すっごくおっきーね! ねえねえオトモダチになろ?」
「……うん」

 たぬき顔を披露しつつ、やっぱり恥ずかしそうに視線を逸らした。

「うそマジ! やった! ナンパ成功じゃん!」
「グレース落ち着いて、キャラチェンしてますわよ」
「ねえねえこの後お茶しない? あ、そうだ! お名前なんていうの?」
「聞いてませんわね……」

 ルームメイトからの評価を若干下げつつ、グレースちゃんは新しいオトモダチに猛アタックを仕掛けるのだった。れっつ、ぷれいばう!

「なまえ?」

 彼女はこくりと首を傾げた。デカいのにかわいいとか卑怯くさくね?

「うん。わたしはグレース。あなたは?」
「………………ベリー」

 ベリーはあっちこっちに視線を逸らしたあと、ようやくそれを言ってくれた。

「よろしくね! ベリー」
「あっ、うんうああぁぁぁぁあああ」

 わたしはベリーに手を差し向け、ベリーは手を返そうかチョロッと出して迷い、こっちからキャッチしつつ手もデカいので両手で掴みブンブンシェイクする。そんな光景に苦笑しつつたしなめるお嬢様。

「グレース、相手がイヤがってますわよ」
「そんなことないよ。ね? ベリーちゃん」
「ぁ、うん。だいじょうぶです」
「まったく。ベリーさん、グレースにはハッキリ言わないとどんどんペースにハマっていきますわよ?」
「……うん」

 そう言われつつもされっぱなしなベリーちゃんかわいい! よぉーし、調子にのってダイブだー!

「わふっ!」
「あっ」

 わたしはニューフレンド、ベリーちゃんへオトモダチダイブを決行した。壁に腰掛けた彼女のど真ん中に飛び込み、下はあぐらをかいた脚に包まれ、正面はおおきなおなかとふたつのたゆんたゆん。そしてその周辺を――。

「よしよし」
「はッ、はわわわぁ~」

 彼女の大きな手が包みこんでくれた。なにこれ天国? 雪山で遭難した少女の走馬灯ですか?

「グレース! いい加減にしなさい!」
「あ、やらー! まだもふもふするのー!」

 引き剥がされた。天国から地獄。仕方ないからあんずちゃんをもふもふする。

「ダメです」
「ぐぬぅ」
「いつまでバカやってんのよ。ほら、気付いたわよ」

 そんな声に振り向くと、腰に手を当てジト目モードな魔法使いと、倒れた医者を案ずる僧侶と、上半身だけ起こし気まずそうに頭を掻く不養生中の医者がいた。





「ここは修道院跡地のようだ。あそこに神を模した像がある」

 回復し、ひとしきり周囲を観察したサンダーさんはそんな言葉を口にした。彼があそこと示した場所は周囲より高くなっており、その背後に人間らしき像が鎮座してる。

「しゅーどーいん? なにそれ」

 教会と何がちがうの? そんな疑問に、このメンツで最も人生経験豊富なノン異世界人が応えてくれた。

「簡単に言えば修行場だな。アヴェスタの教義を学び、それを実践する場だ。ここは、そんなヤツらが祈りを捧げる礼拝堂だろう」
「ってことは、これが神さま?」
「いや」

 サンダーさんはすかさず否定した。

「アヴェスタは唯一神だが、全知全能であるが故に何者でもなく、逆に何者にも成り得るそうだ」
「それは……どういうことですの?」
「なんでもアリってことよ」

 ドロちんがイヤミったらしく言ってのけ、それにブッちゃんがフォローを入れる。

「全知全能故にを確定させる名前を持たぬのだ。しかし、全知全能故、この世界に存在するありとあらゆる名をもつとされる」
「ほう、詳しいな」

 サンダーさんが感心しつつ、さらに補足を入れようとする。それはありがたいんだけど、そろそろグレースちゃんの頭がパンクしそうなのでご遠慮いただけますか?

「名前といっしょで、全知全能だから確定した姿も持ってないのさ。逆を言えば、神はどんな姿でもとれる。だから――」

 サンダーさんは壇上に登り、そこに置かれた偶像をぽんぽんと叩いた。

「教会や修道院には、それぞれ個性あふれる神がいらっしゃるわけだ」
「バチ当たりですわよ?」
「俺はアヴェスタの人間じゃない。それに、ふふっ、なんだったら人形じゃなく動物だったり植物だったり、なんかの卵みたいなデザインもあるらしいぜ?」
「ふーん、そうなんだ」

 そーいやグウェンちゃんから教わったような気がしなくもない。けど忘れたからいーや。

「ご都合主義もいいところよね」
「ドロシー、お主はこの世界に落とされた後、アヴェスタの教典をいくつか読んだと聞いたが?」
「すぐやめたわよ。碌な教義もなく延々と歴史上の偉人の話とエピソード集ばっかで、役立つスキルなんてひとつもなかったわ」
「え、じゃあ、教会の方はどうやってスキルを習得するのですか? 教典にそういうのが書かれてるのでは?」

 ないない。ドロちんはそんな感じに両手を振った。

「アヴェスタの連中、治療魔法は一般の書物で学ぶのよ。一応、それらも教典扱いするようだけどね――まったくバカげてるわ、あいつらがありがたがってる書物が、フタを開けてみれば何の役にも立たない紙束だったなんて」
(ひえぇ~いつも以上にドストレートなご意見)

 アニスさんとグウェンちゃんがいなくて良かった。などと思っていたら背後に気配。

「ぅわお」

 振り返れば山脈。
 見上げればふたつの峰。
 さらに上にベリーちゃんの顔発見。

「ここは修道院なの?」

 ベリーちゃんは目をまんまるにしてサンダーさんを凝視した。
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